(7)マカヒヤ

 私は南国が好きだ。と言っても私は旅行家ではないのでそんなに多くの南国を知っているわけではないが、花と果物と自然に恵まれたフィリピンが好きだ。特に日本では珍しい植物が至るところに見られるとは贅沢そのもので決して飽きない。蛍が羽を広げているようなアリバンバンや豆が詰まった一メートルもの(さや)カーテンのように枝から下がっているイピルイピルは牧歌的で心が休まる。

 マニラのホテルの周りを散策していた時に淡いピンクの花が庭一面に敷き詰められたように咲いているのを見て近づくと、サンダルを履いた足がチカチカした。玄関にいたボーイが笑いながら「その花のつるにはトゲがありますから注意して下さい」と言った。後刻、知り合いの牧師にその話をすると、「あれはマカヒヤです。花は可憐だけどトゲが痛いんです。面白い伝説がありますので読んで下さい」と言って“フィリピン伝承文学”という本をくれた。伝説なので色々なバージョンがあるが、そのうちの一つを紹介しよう。

 昔、マニラの北のバランガイ・マサガナ(現在のパンパンガ州)という所にマン・ドンドンとアリン・イスカという裕福な夫婦が、娘のマリアと三人で住んでいた。マリアは美しく従順な娘だったが、内気でひととの接触が苦手で、自室に閉じこもりがちだった。ある時、盗賊が村を襲うという噂があり、娘の安全を願う両親はマリアを庭の木立の中に隠した。盗賊が村を去った後、両親はマリアを探したがどこにも見当たらず、マリアを隠した木立に、ひとに触られないためにトゲのついたつるに囲まれたピンクの小さな花が咲いていた。マリアは余り内気なので花に変身したのだと両親は思った。ちょっとでも触れると恥ずかしそうに葉を閉じてしまうこの花を人々は「恥ずかしがり屋さん」という意味の「マカヒヤ」と呼ぶようになった。

 数年前にグアム島へ行った時、プールのそばのハイビスカスのそばにマカヒヤを見つけた。庭の手入れをしていた人に頼んで小さな一株をもらって大切に日本に持ち帰り、ベランダのプランターに植えたら、夏の陽をいっぱい浴びてぐんぐん伸びてピンクの花をつけた。家内は毎朝、ベランダの花に水をやりながら一本一本の花に話しかける。勿論、このピンクの可憐な花にも「マカヒヤちゃん」と話しかけることを忘れない。私は「花」と「話し」とは無関係な言葉だとは思わない。