星食観測台
観測台の構想
観測台の構想は星食観測を本格的に開始した頃に遡ります.天文雑誌に載った海上保安庁水路部の星食観測に関する記事がきっかけで,
当時関心を持っていたテーマの中から星食観測だけをやっていくことにしました.望遠鏡の仕様とともに観測台の構想はその時にほぼ
固まりました.それから実現までには多くの年月を必要としましたが,自宅の改築を契機に一気に構想が進展しました.
自宅は長岡の市街地にありますが,星食観測に限れば観測する星のすぐ傍には月が晧々と照っているため,空が明るいことは大きな
障害にはなりません.隣家によって視界も遮られがちでしたが,自宅の屋上に設置したため広い空が戻ってきました
建物の構造
ドームを載せるため家屋は重量鉄骨構造にし,出来るだけ建物の強度を上げるため柱に 250 mm 真四角,厚さ 12 mm の鉄骨を採用し,
壁にはパネル工法を組み合わせ全体に強固な造りにしました.観測室に相当する部分は2階建ての屋根の上に鉄骨材を組み上げています.
矩形の鉄骨組みの上に円形加工したH鋼を載せ,そこにドームの車輪を固定しています.望遠鏡を載せるコンクリート支柱部分は2階天井に
スラブを打ってそこから立ち上げる方法を採用しました.これは西村製作所から受けたアドバイスによるものですが,望遠鏡や支柱の重量に
耐えるよう支柱の真下にも梁を渡してあります.
観測室の広さは 3 m 四方です.観測室の床から赤道儀の不動点までは175cmほどあり,支柱は床から 70 cm の高さになっています.
観測室のドアを開けると直ぐに 5段の階段があり,それを上ると床面に達します.その階段は支柱の南西側に位置しており, 階段部分
の床はハッチ式になっていて,昇降時には床を跳ね上げます.観測室の床下は1mほどの高さがあり,ちょっとした倉庫として使えます.
ドームの仕様
レールの直径 3 m は西村製作所では一番小型の部類に入ります.レールからは18度間隔で鉄骨アーチ材が立ち上がり,それを塩ビ鋼板,
断熱材,耐水合板,防水層,ステンレス鋼板で覆った多層構造になっています.外装は見た目にすっきりしたハゼ折りです.
ドーム内気流や筒内気流の納まりに対する断熱材の功罪については気になるところでしたが,ドーム内の結露対策と快適性を優先しました.
【仕様】
構 造:ドーム芯φ3m,鉄骨構造.
水平回転:電動駆動リモートコントロール方式,
駆動装置2台(単相 100V),水平回転車輪6ヶ所.
扉 開 閉:一枚扉スライド開閉方式,開口幅1m.
電動開閉方式(手動開閉可能).
外 装:カラーステンレスSUS304 t=0.35 mm 風船張り(ハゼ折り).
色はメタリックシルバー.
下 地:耐水合板 t=4 mm 風船張り,防水用アスファルトフェルト17K.
断 熱 材:グラスウール 50 mm16kg.
内 装:塩化ビニール鋼板 t=0.35 mm 風船張り,色はパールグレー.
安全装置:突風時飛散止め,台風時ターンバックル2ヶ所.
そ の 他:雨仕舞板,防雪板,防雪用特製ナイロンブラシ.
製 作:(株)西村製作所
ドームの施工
ドームは2分割された本体とスリットがほぼ完成された状態で運ばれてきました.
組み立てには3日間を要し,一日目がドーム本体の組み立てと車輪や駆動装置の取り付け,
二日目がクレーンによるドームの設置とスリットの取り付け作業,三日目が内外装仕上げおよび調整でした.心配だった天候にも恵まれ
無事に作業を終えることが出来ました.西村製作所からは3人の方が来て黙々と作業をこなしていました.思った以上に多くの作業工程があり,
さすがプロご用達は違うと一人見入っていました.
使ってみて
ドームの回転とスリットの開閉は電動のため使い勝手は良好です.スリット幅 1 m で水平から天頂までの視野以外の遮られた空間は,
適度な閉塞感があって落ち着いて観測に集中できます.ドームの中では望遠鏡がどのような姿勢でもとれるので,メンテナンス性も良好です.
降雪期,ドームに積もった雪は自然に滑り落ち,雪下ろしの必要がありません.もちろん良いことばかりではありません.望遠鏡が外気温に
なじみにくいことが挙げられ,ドーム内気流も弊害の一つです.以前,惑星を望遠鏡の視野に入れた後に大勢がーム内に入ったら,
今までそこそこ見えていた惑星像が悪化したのを経験しています.
心配だった振動の問題も今のところ実用に耐えるレベルに納まっているようです.前を行く車の振動の影響が以前より悪化した印象は
ありませんでした.予期しなかったこととしてドーム回転駆動装置の始動時の反動が大きく,望遠鏡で見る視野の中の星を大きく揺らす
事態となりました.しかしドームは常時動かしているわけではありませんので実害は少ないと思います.
家の中からスリッパ履きのまま観測室に行ける身軽さと,スリットを開ければ直ぐに観測体制に入れる手軽さは,これまでの望遠鏡の
出し入れに要した煩雑さを思うと夢のようです.ドーム本来の目的は望遠鏡の保護と快適な観測環境を造り出すためのものですが,
趣のある空間の演出にも一役駆っています.
観測台の沿革
構想から20年.思えば長い道のりでした.しかし,出来てわずか3年6ヶ月後の2004年10月23日の新潟県中越地震で望遠鏡が仰向けに
ひっくり返る事態になりました.望遠鏡がドーム内壁にもたれ掛かり,25cm 鏡筒はへこみ,
10 cm 屈折は大きな傷が付いてしまいました.西村製作所さんから新しい鏡筒を実費で製作していただき,2005年の7月にようやく
復旧して観測を再開しました.10 cm 屈折は同色系の塗料を塗ったのですが,満足のいく仕上がりとはいきませんでした.