天体望遠鏡
概要
水路部の星食観測に触発された手前,観測台に設置する望遠鏡は東京築地の庁舎屋上にあった海上保安庁水路部や各地の水路観測所で
星食観測に使われてきた,口径 30 cm,焦点距離 5000 mm のカセグレン式反射望遠鏡と同程度の
ものを目指していました.しかし,観測台ができるまでは望遠鏡を車庫から出して,観測したあとは再び車庫に戻すことが必要でした.
口径 30 cm ではその大きさ,重量から移動式するのは困難なため,口径を一回り小さくした 25 cm にしました.星食観測では光学系の
単純さや使い易さからカセグレン型が具合が良いとの報告がある一方,カセグレン式は高精度の凸鏡の製作が困難であること,光軸調整が
難しいこと,光は鏡筒内を一往復半通過して焦点を結ぶことから筒内気流の影響が大きいなどの理由で,良像が得難いとの記述を目にして
不安ではありました.そこで日本の反射鏡製作の第一人者の方に研磨を依頼し,鏡材には温度変化で鏡面の曲率が変化しない無膨張ガラス
であるゼロデュアを奢りました.
主望遠鏡
光学系
25 cm カセグレン式は主鏡が有口径 254 mm の凹回転放物面鏡で焦点距離は 1251 mm,副鏡が 80 mm の凸回転双曲面鏡で構成されています.
2枚の反射鏡による合成焦点距離は 3774 mm です.研磨は特殊光学研究所の苗村敬夫氏に依頼しました.
カセグレン式では主鏡後方に焦点を結ぶため,中央部に直径 65 mm の孔が開いています.
苗村氏から主鏡・副鏡とともに送られてきた測定表によれば主鏡は 1/16λ の精度以上とのこと.
測定表によれば 1/32λ にも迫る勢いです.最初はアルミニウムメッキでしたが,鏡筒部を製作する際にアルミニウム高反射メッキにしました.
40年近く経っていますが未だに輝きを失っていません.
鏡筒部
鏡筒は西村製作所製.直径 295 mm,長さ 1200 mm のアルミ製です.鏡筒には副望遠鏡用の支持脚と鏡筒の前後のバランスをとるための
ウエイトを左右2箇所取り付けています.最初は 8 × 40 mm のファインダーが1基,接眼部から見て左側だけに付いていましたが,
後述の地震で破損した鏡筒を新調した際に右側にもファインダー脚を付けて高橋製 7 × 50 mm を追加しました.
主鏡セルには遮光用として φ60 mm 長さ300 mm のバッフルとその付け根部分には φ80 mm の遮光のための鍔が付いています.この鍔は
バッフルに入らない月の像が主鏡に反射して副鏡で折り返され,アイピースを照らさないようにするためのものです.
接眼筒は主鏡セルの後方に固定されており,接眼筒は二重で繰り出し筒の出し入れはおよそ 50 mm,引き抜き筒の出し量は 70 mm
程度となっています.特注で繰り出し筒にニコンの接眼スリーブ(φ43 mm)が付けられるようアダプターを作ってもらいました.
西村製作所仕様 ニコン仕様
赤道儀

望遠鏡を載せる架台は西村製作所の写真型赤道儀AT-100,D-36型です.二軸とも全周微動で電動装置付きです.モーターは
赤経軸が二速度シンクロナスモーターで,赤緯軸が正逆シンクロナスモーターです.特に赤経軸は恒星時運転しているので
追尾制度は問題ありません.ただ視野への導入の際のスピードが日周運動と同じ 15′/min と遅く,これは仕方ないことです.
赤経,赤緯クランプは自在継ぎ手やギヤを介して望遠鏡をあらゆる方向に向けても手元で操作できます.
この辺は大型の据付式の赤道儀に見られる構造で如何にも操作する感があって気に入っています.
写真型赤道儀AT-100,D-36型

自在継手 赤経・赤緯クランプ
副望遠鏡
副望遠鏡はEDアポクロマート対物レンズ使用のニコン製 10 cm 屈折望遠鏡です.有効径 100 mm, 焦点距離 1200 mm,
F値12 の比較的長い屈折望遠鏡です.非常にクリアで安定した星像を見せてくれます.接眼レンズの取り付けサイズはニコン
独自の φ44 mm , P0.75 mm とツァイスサイズの 24.5 mm です.
雑感
西村製作所から 25 cm カセグレンや 30 cm カセグレンの仕様書や設計図などを送っていただき,色々と思案した結果
25 cm に落ち着いたわけですが, 25 cm と 30 cm とでは設計思想が異なる印象をもちました.主鏡の格納方法や接眼部を見ると
25 cm は 15 cm や 20 cm の延長線上にあり,30 cm からはそれらとは一線を画す大型望遠鏡の仕様になっていました.
光電測光観測にはカセグレン式が使いやすいとの記述を目にしますし,実際,水路部でも星食観測にカセグレン式が光電測光観測に
用いられてきました.個人的には光電測光を使った星食観測を導入するまでには至らず,現在はビデオ観測を行っています.
25 cm カセグレンは星食観測台の主力機器ですが,10 cm 屈折に比べて落ち着いた像を見せる機会が少なく,普段の月や惑星の
観望ではいつもすっきりした像を見せる 10 cm 屈折に軍配が上がることもあります.しかしビデオを使った星食観測においては,
口径が大きいことはそれだけ集光力があって暗い星まで観測できるため,その優位性は揺るぎません.
接眼鏡
接眼鏡はツァイスサイズが一般的だった頃に買いそろえたものです.大型接眼鏡はメーカーごとに取り付けサイズが異なっています.
ツアイスサイズ
ニコン H-25,H-18,H-12.5,O-7,O-9;【左側写真】
ペンタックス O-12,O-18,K-25;【中央写真】
ツァイス 6-O,10-O,16-O,25-O(ツァイス表記);【右側写真】
大型サイズ
ペンタックス K-40(36.4 mm, P1.0 mm)
ニコン H-40(44 mm, P0.75 mm)
アクセサリー
カセグレン式反射望遠鏡の接眼部にニコンの接眼スリーブ用のアタッチメントを作ってもらいました.天頂プリズムなどの
アクセサリーは 25 cm 反射,10 cm 屈折,8 cm 屈折と共用できます.左から西村製天頂プリズム,ニコン製天頂プリズムと
サンプリズム,ニコン製カメラアタッチメント
移動用望遠鏡
8 cm 屈折赤道儀
★日光浴中の8 cm 屈折望遠鏡
日本光学(株)[現(株)ニコン] 製 8 cm 屈折赤道儀.1978年に購入したもので,口径 8 cm,焦点距離 120 cm のアクロマート
対物レンズを使用しています.25 cm 反射望遠鏡が稼動するまでの主力機種でした.現在は移動用望遠鏡として使っています.
赤道義の時計装置(ニコンでは駆動装置をこう呼んでいます)のシンクロナスモーターが壊れたので,別のACシンクロナス
モーターに取り換えています.この望遠鏡は天文の啓蒙活動の一環として,星空観測会などで太陽などを見てもらうのに
活躍しています.
この望遠鏡は当時の日本光学が三鷹の東京天文台(現国立天文台)に基本設計の指導を仰ぎ,レンズはアクロマ―トですが現在の
セミアポに順じた性能を持ち,赤道儀はミザール(前田金属)製と聞いています.赤道儀には極軸の高度調整用の可動部がなく,
三脚の開き加減で極軸の高度を合わせる構造となっており堅牢な作りとなっています.鏡筒部は同社の 15 cm や 20 cm 屈折
赤道儀の副望遠鏡として使われ,さらに天文台や大学で大型望遠鏡の副望遠鏡にも使われていました.ニコンの 8 cm 屈赤は
天体写真で有名な故藤井 旭氏や太陽観測を長年続けた故板橋伸太郎氏が使っていました.1970年代の 8 cm 屈折赤道儀は
日本光学と五藤光学が双璧をなしていましたが,そこへ高橋製作所のTS式セミアポ屈赤が台頭してきました.
普段使わない 8 cm 屈赤は鏡筒は格納箱へ納め,赤道儀と三脚を分解してドームの床下に保管していたのですが,出し入れが
煩雑なので,現在は三脚をピラーに交換し組み立てたまま書斎に鎮座しています.この望遠鏡はただ古いだけの骨董品ではなく,
性能は現在も引けを取らないビンテージ物です.書斎の調度品としてはまさにうってつけです.