title: いらっしゃいませ勇者さま sub: witer: いもちん date: 2001/8 --------------------------------------------------------------------------    二十  これは何だ?  赤黒い塊。  如何にも手足でしたと言わんばかりの塊から伸びたちっちゃい棒。  ブッ刺した木の枝に巻き付く尻尾の消し炭。 「……コレはなんだ?」  耐えきれなくなったのか俺は声に出した。  右手にはメディから渡されたものが俺の怒りによってフルフルと震えている。 「見ての通りトカゲの丸焼き」  さらっと返された。 「……それはわかる。誰が見たってそれはわかる」 「じゃあ良いじゃない」 「野宿だし、助けて貰った上に食い物にありつけるだけ喜ばしいことだ。感謝すべ きであり、不満を述べるなどもってのほかだと思っている。それは当然であるべき であり、間違いではないからだ」 「ふんふん」  彼女は口一杯に食べ物を運んでいる。  しかしそれはトカゲの黒焼きなんかじゃない。 「じゃあ、良いじゃない。感謝して食べなさいよ」 「……俺がトカゲで……」  俺はビッと指を差した。 「なんでてめーーーーわ、料理大全集に出てくるような豪華食を並べているんだよ っ!!!!」    二十一  時は遡る――。  やや盛り上がった草原の高台で、俺とメディは座り込みの授業を続けていた。嫌 々ながらも始めた共通言語だったが、意外にも簡単に覚えられるので、時間が経つ のを忘れるほどだった。  発音や単語などは特に難しくなくニュアンス的に覚えやすかった。というか【真 言】の魔法を効果的に使ったもので、魔法を掛けた発動者は心の声も通常の発生音 も互いに聞こえる為、対象者の考えと実際の声を比べやすいのだ。つまり、是正し やすく、素の会話が出来るというわけだ。  まるで音声多重の二カ国同時みたいなものである。  そんなわけで勉強していたのだが、俺の腹が『ぐうぐう』とうるさくなってきた ので、メディが笑いながら、 「今日はこれだけにしてご飯にしよっか」  と言った。  俺は薪用の枯れ枝を集めてくるように言われる。  しかし、見渡す限りの草原な為、大木など数えられるほど少ない。そんな中で枯 れ枝を探すのだから相当な時間が掛かかり、集め終わった頃にはもう陽が暮れかか っていた。 「……」  薪を両脇に抱え丘に辿り着いた俺は顔をしかめ目を細めた。  変な奴が居るのだ。  奴というか動物だった。姿はコブ無しラクダの二本足歩行という表現しがたい動 物。言うならば大型のダチョウの体毛を全てむしり取ったような感じだ。ただダチ ョウと決定的に違うのは前足(手なのか?)が二本の爪で構成されている。  ここまで説明している途中で気がついた。そうだ、昔見たジェラシック公園とか いう映画に出てくる頭のいい小さな恐竜にそっくりなんだ。  そいつが、荷物の整理をしているメディの側でクークーと声を上げていた。 「あら、お帰りなさい」  ボーゼンとしている俺に気がついたのかメディが声を掛ける。 「こ……コイツ何……?」 「この子? フレイアっていう名前なの」 「いや、そうじゃなくて……」  俺の返事で察しがついたのかメディがこの動物の事を教えてくれた。  この恐竜に似た動物はオスタードという種類の生き物で、馬と同じように乗り物 として飼育されている。実際は馬よりも貴重品で値段も高いのだが、そのぶん人語 を理解し、飼い主との関係を忠実に守る、大変知能が高い生き物だそうだ。 「しかしカザマって無知ねぇ。まるで世間知らず苦労知らずの王族のお坊ちゃんか なにかみたい」 「……やはり高貴なる血筋というものは隠せないものなのか」  俺の呟きにメディが目を丸くする。 「……冗談でしょ?」 「当たり前だ」  ガスッ。  ぐふぁぁっ。 「叩くわよ」 「た……叩いてから言うな」  鼻っ柱に裏拳を喰らって呻く俺。  そんな俺を無視して彼女はフレイアと呼んだオスタードに近寄り、頭を撫でた後 フレイアの背中に乗っていた荷袋に手を掛けた。 「よいっしょっと」  荷袋は東京指定のゴミ袋サイズよりも小さかったが、見た目よりも重いらしく持 ち上げた彼女の足がヨロヨロと蹌踉めく。  ……しょーがねーな。 「手伝う」  さっと荷物に手を添えた。  ズッシリとしているがふらつくほどでもない重さだ。俺は荷物を肩まで持ち上げ、 何処に下ろすのかメディに尋ねる。  メディはそんな俺をジッと見ていたかと思うとニッコリ微笑んだ。 「ありがとう」  うーむ。  こうしてみると本当に美少女だな。くっきりとしたえくぼが可愛い。 「さすが男の人だね」  お前も女の子らしくしろ。裏拳マジ入っていたぞ。 「……荷物は何処に置けばいい?」 「あ。ここ、ここ」  指定の場所に荷物を置く。  ふぅ、と一息ついてから彼女に聞いた。 「この荷物ってメディのなのか?」 「なんで?」 「いや、たぶんこのオスタードっていう動物に運ばせているんだろうけども、どー やって呼んだのかなって思ってさ」 「さあ」  さあって、おい。 「冗談冗談。笛が有るのよ」 「笛?」 「そう、これこれ」  そう言ってメディが自分の胸元から細長く小さな棒っきれを出した。その出し方 が隙間だらけの胸鎧(ブレストプレート)から溢れんばかりにはみ出ている膨らみ ――つまるところチチの谷間からドラ○もんの小道具のように出していた。 「犬笛みたいなものなのか?」 「似たようなものだけど、フレイアにしか聞こえない音に調整してあるから、他の オスタードは寄ってこないわよ」  ほう。なかなか便利だな。  この笛を吹くとオスタードがわらわら寄り集まってきて愛らしい絵が出来たのか も……などと思ったが、フレイアを見る限りこんな不っ細工なのが集まってきても 気持ち悪いだけだという結論になる。 「その調整ってのも魔法なのか?」 「そうよ。私のオリジナル」 「へ〜」  ひょいひょいオリジナルが出来るほど魔法の汎用性って高いのか。  魔法を覚えたら悪巧みに使えると思うのは気のせいだろうか。策略好きな友人の 久保田なんかに覚えられたらえらいことになりそうだ。  俺だったら服が透けて見えるとか、一瞬で指定の場所に移動できるとか、透明人 間になれるとかいう魔法を覚える。どんなときに使うかは健康な青少年の煩悩とい うわけだ、うむ。例えばこのムチムチぷりんボディのメディを(ピー)したり(バ ゴーン)させたするのも可能かもしれん。まさに快楽天国。うはははは。  ……なーんてことを目の前にいるメディにバレたら『変態』とか言われ殴られる かもしれんし、魔法なぞさも興味なさそうに返事しておくけどな。  ふと、メディに目をやると、彼女が俺に白い目を向けていた。 「……変態野郎」  しまったぁ!  俺の考えはバレバレだったんじゃないかぁ。    二十二  それから暫くし、陽がどっぷり暮れた頃。  顔中引っ掻き傷だらけの俺は焚き火に薪をくべていた。 「この俺が二度も同じ失敗をするとは……」  引っ掻き傷を撫でた。焚き火で煽られた汗が浸みて痛い。 「欲望にまみれた言葉ってのは【真言】に乗りやすいのよ」 「そのようで」 「どーしてこう男の人ってそういう嫌らしいことしか頭にないのかしら」  はぁ、という溜め息が、彼女の過去に嫌なことをがあったことを語っている。 「そうは言っても、美人とかが目の前にいたらそうなっちまうって。むしろ誇って も良いんじゃねーのか。何も感じられ無いより少しでも気にしてもらえる方がマシ だろ」 「……ふーん」  納得がいかない顔をするメディ。  まあな。昔からチヤホヤされるタイプには縁がない話だろうよ。  俺みたいに小さい頃から目立てば苛められ、黙っていれば根暗と思われ無視され る存在だった気持ちなど気軽に理解して欲しくない。  希に『かわいそうだから止めなよ』などという優しい言葉で止める優等生がいる が、正直言って彼らの『かわいそう』は鬱陶しいだけで、むしろ妬みや嫉みに変化 しやすかった。  彼らの『かわいそう』は自分達が『かわいそう』じゃないから出来ることなんだ と。そういうことを、学校を変え、性格改造してから再認したのだった。 「ね、それよりさ」  俺の思考をメディが止める。 「美人ってホント?」 「はぁ?」 「さっきさ『美人が目の前にいたらそうなっちゃう』って言っていたじゃない」 「……」 「ねーねー」 「……ありゃモノの例えだ」 「まーたまた。正直言っちゃいなさいよ」  うぷぷぷっ、と変な笑いをしながら自分の身体をファッションモデルのようにク ルリと回すメディ。  ……馬鹿だコイツ。 「だれが馬鹿よっ!」  ゲシッ。  ぐおおおぉぉぉ。か、踵落としは反則だぞぉ……。  教訓。  二度有ることは(以下略)  ――などと漫才みたいな事をやっている場合ではない。  いつから俺はこういうキャラクターになってしまったんだ。不本意だ、冗談じゃ ない。  ひょっとしたら俺はこのままこの女に虐げられるのだろうか。  いや待て。落ち着け。  所詮この屈辱も、完全に言葉を覚えるまでのこと。我慢だ我慢。周りモノが全て 敵で固められた小学生の頃に比べればなんて事はない。言葉さえ覚えてしまえばこ んな女からさっさとトンズラしてしまえばいい。薬代の請求だって踏み倒し確実。 要は目先の苦労に囚われるなという――  ガスッ。 「ぐはっ」  俺の腹に熱い拳がブチ当たった。 「いつまで寝てるのよ。食事の用意が出来たから早く食べなさいっ」  いててて。このアマはもう少し手加減できんのか。  殴られた腹を押さえ辺りを見回した。 「……」  なぜ俺は地面に這いつくばっているんだ?  顔を起こす。  焚き火を中心に香ばしい香りが辺りを覆っていた。その香りが俺の鼻に飛び込む と連鎖的に腹の虫が騒ぎ出す。  見るとメディは既に何かを食していた。 「いつの間に準備していたんだ?」 「カザマが死んだフリしている間」 「……」  それは気絶というのでは……?  メディの踵落としで気を失ったのか、俺は。 「女の蹴りで……はぁ……情けない……」  がっくりと肩を落とした。 「どーでもいいけど食べないの?」 「頂きましょう」 「……立ち直り早いのね」 「腹の虫が勝手に返事しただけだ」 「じゃあ要らないの」  冗談じゃない。 「余ってしまうだろ」 「余らないわよ。残り物はフレイアにあげるから」 「……」 「……」 「……すみません、食べさせてください」  陥落。  今日だけで何敗目だ?    二十三 「で……こうなったワケだが……」  ビシッとカメラ目線だ。 「どっち見て言っているのよ」  そんなことはどうでも良い。  さて、その食事だが、彼女がオスタード『フレイア』に積んであった荷物の中に はパン、肉、果物、固形スープに調味料&調理具、挙げ句の果てには酒まで入って おり、俺が気絶している間に作った簡易釜戸(少し大きめの石が二つ並べてあるだ け)にて、ジュージューと料理したらしい。  いまメディの目の前には出来上がった料理の数々が木皿に盛られている。その数 総勢11種。見た感じ全ての食材を使っているようで、どう考えても一人では、い や二人でも食べきれない量だ。  もちろんそれを見て俺の腹が高鳴りを増したことは言うまでもない。ちゅーか、 腹がうるさくてメディの言葉が遮られるほどだった。 「た、食べていいのか?」 「ん? もちろん」 「じゃ、頂きます」  サッと豪華料理に手を出そうとすると、メディが俺の目の前に何かを突き出した。 「はい、あんたの食い物」 「……はい?」  メディが突き出していたモノ。  釜戸で焼き蒸しされたトカゲ。それは俺の目の前に鎮座されていた。 「……これは何だ?」 「見たまんまよ」 「俺の飯はコレなのか……?」  暫くの間ボーゼンとした。  トカゲが刺さった木の枝を指先でぐるぐると回してみる。黒ずんだ木に両手両足 を大の字に広げて刺さっている。とても痛そうだ。おそらく緑色だったろう皮膚は 無惨にも赤黒く焦げ付いており、臭いはまるで海産物の『ホヤ』を煮たような臭い だ。普通はホヤは煮たりしないのだが、何も知らない奴が鍋で煮てしまい、部屋中 が致死量の臭いで充満してしまった。さすが海のパイナップル(手榴弾)と呼ばれ ているだけ有る。それはそれは凄まじい力で俺も友人もぱたぱたと倒れたもんだ。  そのトカゲから視線をずらし、メディが食しているモノと比べてみた。  こんちくしょう。  俺の視線に気がついた彼女はこっちをチラチラ見ながら、相当の量の料理を、そ れも見るからに無理して抱え食べている。 (なんて意地の悪い野郎だ)  訂正。  意地の悪いアマだ。  しかし、こちらとてタダ飯を食わせて貰っている身、歯ぎしりしか出来ない。お まけに感情的になるとこちらの考えを全て読まれてしまうためブツクサと文句も言 うことが出来ない。たいへん胃に悪い状況である。  諦めて再度トカゲと向き合った。  何度見ても美味そうに見えない。おまけに飛び出るくらいにギョロッとした目が 食欲を更に減らしていく。その目に『睨むなよ』とは言いつつも、空腹には負けた 俺は鼻をつまんで口に放り込んだ。  メディは俺のその一連の挙動を面白く見ていたらしい。口に放り込んだ俺を見て クスクスと笑った。 (こんちくしょうっ)  俺は噛みしめた。 「……」  一瞬感覚が鈍ったかと思った。  二度三度噛む。 「こりゃ――」 「ふふん〜。どう?」 「美味い!」  どうなってんだ。  見た目や臭いとは反してすげえ美味い。  プリプリとして弾ける皮の感触がまるでポークウインナーを思わせる。味も加熱 ベーコンに似ていて嫌な感じがしない。ホヤばりの臭さも皮だけだとわかると、後 は一心不乱に口を動かすだけだった。  はむはむと食べる俺を彼女は嬉しそうに言った。 「結構いけるでしょ」  うんうん、と頷く。  まだ数本同じものが有ったので俺は続いてかぶりついた。 「見た目に騙されちゃだめなのよ」 「美味い美味い」 「そのトカゲだって結構貴重品なんだから」 「はむはむふむふむ」  俺は彼女の言葉を中途半端に聞いていた。  いやぁ、嫌な奴だと思っていたけど、結構良い奴じゃんか。  俺は先程まで悪態をついていたことを心の中でわびた。三秒だけ。 「さーて、私の方もお腹一杯になっちゃったし」  ぽむぽむと腹を叩くメディ。  一体あれだけの量がどこに入ったんだ? 全然体型が変わってないぞ。  確かに残り物はあるがそれも一人前あるかないかくらいだ。少なくとも三人前は 食べているんじゃないのか? 「げぷ」  満腹の吐息(?)をしてから、彼女は残った食べ物を一つの木の皿に纏め始める。 といっても残飯のようにかき集めるのではなく、さあ食べてくださいなといわんば かり丁寧に盛り合わせしていた。  ラストのトカゲを頬張っていた俺はその皿が大変気になっていた。ひょっとした ら俺にくれるかもしれないと言う淡い期待を抱いていたからだ。  ……ぜんぜん淡くないか。  たしかにトカゲは予想外に美味かった。しかし幾ら美味くてもメディが食べてい たモノとは雲泥の差があるような気がする。よれよか圧倒的に量に差があった。い くら大きめのトカゲでも鳥の唐揚げサイズしかない。胃に入る量はたかがしれてい る。育ち盛りの高校生にはかなり酷な状態なのだ。  するとメディがその残り物を盛った皿を持って俺の方を向いた。  ひょっとしたらひょっとすると、マジで俺にくれるのかもしれん。なんだかんだ 言ってもコイツは俺を助けてくれたり飯くれたりと世話好きだし。  三秒だけワビるなんて失礼だったな。今度は三十秒ぐらい謝っておこう。  などと思った瞬間、 「フレイア〜、ご飯よ〜」  ……自分のペットに全部くれやがった。  三秒でもワビた自分が馬鹿だ。  おまけにメディはニヤニヤとこっち見てやがる。  ムカツク。  っていうか、食い物ごときで目くじら立てている俺って……(汗) (はぁ……)  まったく……。  調子が狂ったまま元に戻らない。  鍛え抜かれた冷静さは何処へやら。あの爆発と共に冷静の『れ』の字すら異次元 の彼方へ置いてけぼりされたみたいだよ。きっと今頃迷子になってぴーぴー泣いて るはず。いや、泣きたいのはこっちか。  腹の虫がまた鳴り出した。  中途半端に食べたせいで腹の減り具合が悪化してしまったのだろう。もう今日は 寝るに限るかもしれない。多少なりとも食にありつけたのはありがたいと思うしか ない。  ともかく、その日は寝ることに決めた。  メディも同じ事を思ったらしく、荷物の中から毛布を数枚出して自分の身体に巻 き付け、寝る準備をしていた。  その毛布の一枚を俺に投げてよこす。 「はい、風邪引かないようにね」  その優しい言葉に普通はじーんと来るだろう。が、俺は思いっきり疑いの目で睨 んだ。  彼女もそれをわかったらしく、鼻息をふふんと立てた後、 「じゃあ、焚き火の火を絶やさないようにしてね」  と言ったもんだ。 「……寝ずの番をしろ、ってことか?」 「あったり〜」  なんでそんなに嬉しそうなんだ? 「なによ〜。か弱い女の子にそんな当番させないわよね〜ぇ」  横にいるフレイアに同意を求めてどうする。 「……俺は一応怪我人だぞ」 「なにいってんの。あの程度なんて唾付けておけば治るわ。それなのに高級な私の 薬をたーーーーくさんつかったんだから感謝しなさいよ。だいいち不寝番くらい自 ら進んで名乗り出なさいよ。気がきかないわね。それともなに? こんな可愛い子 が近くで寝ていたらコーフンしちゃって番どころじゃないって? やだわ、変態っ。 あんまり近寄らないでよっ」  コイツの舌は連射装置でも付いているのか?  こういうの相手にするとキリがない。 「へーへー、勝手に言ってろ。番してやるからさっさと寝ろ」  俺は毛布を肩に掛けながら彼女に背を向けた。  メディはふーんっだ、と一声発した後、ゴロンと横になる。  いるんだよ、こういうやつ。  素直じゃない奴…………………(汗)  俺は自分の身に覚えがあるのを振り払らう。  そして溜め息をついた。 「はぁ……」 「キュ〜〜」  俺の溜め息とハモる声。顔を上げるとフレイアが首を傾げながら俺をのぞき込む ように見ていた。 「……なんだよ」 「キュ〜〜」 「あのアマじゃねーからわかんねーよ」  言った瞬間、背中から何か飛んできそうな錯覚を覚え、やべっとその場に身を伏 せて振り返った。  だが、何も飛んでくるものはなく、それどころかメディは既に睡魔に負けてぐー ぐーと寝息を立てていた。  いつの間に寝たんだコイツは。  やれやれと伏せた身を起こす。 「……なにをビビっているんだ俺は」  頭をかいた。  自分でも苛立ちが隠せない。腹が減っているからだろうか。 「キュ?」  そんな俺をまたフレイアが覗き見る。 「なんだよ、しつこいな」 「クークーキュ」 「わかんねって……おおっ!?」  俺は声を上げた。  フレイアの足下には先ほどメディは盛り込んだ夕食の皿がそのままの形であった のだ。俺がその皿に気がついたのをわかると、フレイアは長く尖った鼻でずりりっ と俺の前まで皿を寄せてくる。そしてもう一度『クークー』と鳴いた。 「……ひょっとして食っていいのか?」 「クークー」  マジか?  なんで飼い主よりコイツの方が良い奴なんだ!?(注:メディに助けられたこと などは全て忘れています) 「しかし、腹減っていてもペットに与えられた食べ物を取るのもなぁ……」  こんな俺でもプライドってモノがある。  かなり脆いが。 「キュ〜」  そんな俺を察したのかフレイアが空になっていた皿を持ってきた。そして空の皿 と食事が盛られた皿を並べて、首を左右に振りまくる。 「は?」 「キュキュ」 「……もしかして半分個にしようって言っているのか」 「ク〜〜〜!」  当たりらしい。  マジですか?  メディもフレイアは頭が良いって言っていたけど、そんなに賢いんでスカイ? 「……しかし」  ぐう。  腹の虫がでっかく鳴った。 「……頂きます」  お父さん、お母さん。  俺はこの変なところに飛ばされたショックで、冷静だけじゃなく自制心や理性も かなり失ったみたいです。  困ったもんだ。  追伸。残り物で冷めていても、美味しいモノは美味しいです。    二十四  パチパチッ。  小枝が燃え落ちる音。  草と岩しかない草原では焚き火の明かりが随分と目立つ。煙も雲一つない暗闇の 空に舞い上がりうっすらと消え、そこには何もなかったように静かに風が吹いてい た。  その情景を俺は見上げ考えていた。  俺はこれからどうするべきか。  無知と言うには余りにも境遇が異なる。なにせ俺はこの世界のことを何も知らな い。ましてやメディの魔法が無ければ会話も満足にできないらしい。  こんな世界に来たことが考えられないほどの偶然ならば、彼女と出会ったことも 考えられないほどの偶然だろうか。  それにしては出来過ぎている。  まるで誰かに仕組まれたように出来過ぎている。  しかし、そんな推測が立証できるわけがなく、むしろ全てに否定的であって当然 であった。  俺は今現在生きて考えているのであって、TVゲームのRPGなどでよくある、 現状に違和感を得て仕組まれた謎を察知及び推測し、今後の流れを読んだり最善の 予防策を練る……などという第三者の外枠思念性とは全く違うからだ。つまりゲー ムとして先読みが出来る状態とはまるっきり違うのだ。  希に現実の世界で混濁したは思念を、妄想の壁をうち破ることなく、ただ単にリ アルな夢と平行してしまうことがある。それは、俺がこの世界だったらこう生きる な、こう行動するな、などと勝手な物語を自己分別な世界で進めてしまうことだ。  ゲーム画面と向き合っているときは大して深く考えなかったが、いま自分の立場 になると随分間抜けな行動だと理解できる。けれど逃避という手段では最適なのか もしれない。  だからといって今現在の自分を歪曲して鑑みる事など出来ない。  深く認知しなければいけないのは、ここでは、リセットボタンも無いし、セーブ やロードなども無いと言うことだった。  ……あったら怖いが。  パキッ。  燃える薪が火力に負けて折れる。  俺が掻き集めた小枝は種火として使ったので既に無くなっており、今焚いている 薪はメディが荷物としてフレイアに積ませていたモノだった。普通は旅用に薪など 荷物に含まない。しかしここの草原では薪など探すことすら難しいだろう。彼女は それを知っていて前もって薪を用意してあったのだ。  俺が知ること、知っておかなければいけないこと……それは多くあるはずだ。  けれど俺はそれを拒否するわけにはいかない。  あくまでも俺はここにいるのだから。 (ふう……)  疲れた。  一日がこんなに濃く感じたのは始めてであった。  毎日テープのように繰り返される授業風景に植え付けられ、俺としての存在感は いつも危うかった。それを紛らわせてくれたのがあの三人の友人達だった。  佐山、久保田、北島――。 (あいつら、どうしているかな……)  ひょっとしたら俺と同じようにどこか見知らぬ世界に飛ばされているかもしれな い。はたまた向こうの世界で普通に暮らしているかもしれないし、考えたくはない が死んでしまっているかもしれない。  心から人の心配をするのは自分の両親の他は始めてだった。 (母さんや父さんも……心配しているだろうな)  ゆらゆらと揺れる薪の炎を見つめた。  唇を噛む。 (なんで……なんで俺はここにいるのだろうか……)  炎は答えてはくれなかった。