ノーシス人類学
ノーシス人類学
秘法ナワリズムのふるさと

            

変身,それはわれわれの魂の希求であり、また怖れでもあった。
前者は,希望のしるしとしての後者は,原罪の認知としての。
アステカの人々が言葉少なに示したのは前者の,希望にみちた
福音である。われわれの異次元世界への願望を人類進化の真
の姿として実現したナワリズムの源泉がここにあった−−−
  

秘法ナワリズムのふるさと
秘法ナワリズムのふるさと
秘法ナワリズムのふるさと
                            文・写真 メキシコ人類考古学者
    ミゲル・ネリ   
「学研ムーNo20号」掲載
 

ワシの騎士たちの
     寺院へ参入する


  物質の秘奥に通じ、死をも克服するというナワリ
ズム。私は、アステカに残る言い伝えや や古文献
の研究を通して、あるいはカスタネダの驚異の書を
通 して、その超常的な秘法に魅いら れてきた。
レビテーション
空中浮揚、水上歩行、炎上歩行、さらに敵の目をく
らますために、ナワールに変身する術・・・。ナワ リ
ズムの秘儀をマスターしたものには、不可能なこと
がない。

  ナワールに変身することは、影やワシ、トラなど
に変身して、雲の近くまで跳び上がったり、山々を
疲れることなく疾走したりすることだ。

↑寺院への登り口−幽明の境  マリナルコ山景−糖尿病に対する薬効で有名なノパル(サボテ
                      ン)が群生している。

   この技芸を教える「学校」が、メ キシコ・マルナリコのシェラ・
マドレ山脈の高地に今も存在する。これを知った私は、さっそ
く現地へ足を運んだ。

  元来、この学校は「ワシの騎士」 「タイガーの騎士」(必要に
応じてワシやタイガーに変身し、人間の肉体的条件を克服した
戦士達)の修行のために、アストラン(アステカの祖先の住む
世界)のすぐれ た職人・技師たちによって建てられたものであ
った。

  ここで、前述の秘法が伝授されたのである。しかも、ここで
は現在でも、その伝統が保存され、実際にナワリズムを教え、
かつ実行していると いう。

  マリナルコは、メキシコの首都メキシコ・シティーの南西110
キロのところにある。メキシコ・シティーから海抜3千メートルの
山々を越え、トルーカの火山付近を通り、左に折れて、有名な
聖地チャルマの寺院まで行く。

  ここからはすでに、奇妙な形をしたマリナルコの岩だらけの
山々が見える。巨大な桧の木の林をくぐりぬけ、左に折れると、
道の両側にトウモ ロコシ畑が続く。

  この地方の原住民たちは、トウモロコシを主食とし、マゲイと
いう竜舌蘭に似た植物から、羊皮紙、せっけん、繊維をとる。

  成熟したあとには、幹のコラソンという部分からアグア・ミエル
(蜂蜜の水 の意)を吸い出し、プルケという日本のどぶろくに似
た、白く濁った発酵酒を造る。

  山のふもとに着くと、小さなマ リナルコの村である。村に入る
と すぐ中央広場にでる。そこにメルカードという市場が並び、一
隅に16世紀に建てられたというアウグスティン派の修道教会が
たたずんでいる。


1枚の岩を彫り崩して
      造られた寺院
 

  ここから、いよいよ目指す学校へと登る道が始まるのである。
少し進むと、とくとくと湧き出 ている泉にぶつかる。この泉のあ
ふれんばかりの清水は、ずっと昔から村の飲料水・農業用水
として使われているという。

  さて、ここまでくると、遺跡の 一部が視界に入ってくる。ほと
んどが破壊されていて、往時のおもかげはしのぶべくもないが。

  その上、後にキリスト勢力がこの地にものびてきて、同じ場
所に、ミ カエル大天使を祭る寺院を建てたのだ。

  このすぐ裏手から山へ登る階段が続く。ノパルという名のサ
ボテンが豊富に見られるようになる。このサボテンの実(ツゥナ)
が、たいへんおいしい。  
 

寺院全景−1枚の岩をくりぬいてできたこの寺院でナワリズムの秘法が伝授され
   ていた。
上から  マゲイの木と住民たち−マゲイから羊皮紙、石けん、プルケ(どぶろく)
  などをつくる。  プルケ−マゲイの幹の一部から蜜状の水を吸い出して発酵さ
  せる。  赤い受益を出す不思議な木、コロラド。

 葉も、トゲを とって食用にするが、栄養価
が高 いだけではなく、直接チャクラ(内分泌
腺)に作用するので薬用としても重宝されて
いる。

 とくに糖尿病に対する薬効は有名である。
ぶ厚い肉の、しかもやわらかい菓をミキサー
にかけ、どろどろの液体を作り、一晩中、夜
気にあてて寝かしたあと、翌日の朝食前に
飲む。

  直接、膵臓(すいぞう)の働きを促進させ
るので、7日間続けると、糖分の含有量を
下げる、と言われる。

  この近辺には、コロラドというめずらしい木
がある。見かけはふつうの木だが、樹皮に傷
をいれると、真赤な血のような樹液を出すの
だ。コロラドというのは、「色のついた」という
意味である。  
  
 さて、息を切らして頂上にたどりつくと、やっ
と目的の学校=寺院が目に入る。岩山を切
り崩し、掘って造ったものだ。

 その独特な造りは、心なしかチベットのラマ
教寺院を思わせる。

境内から入り口を見たとこ
   ろ。山と山の間にV字型の
  出口が見える。ワシの騎士
  たちはここを通って無限の
  宇宙へ飛び立った。
  メソアメリカには、何千という数の寺院やピ
ラミッドが存在するが、この寺院のように、岩
山の岩自体を彫ってできた1枚岩のものはた
いへんめずらしい。
戦いの訓練をするワシの騎士。いざとなればワシに変身して戦う。
上の大きな写真は寺院の入口。蛇の口を形ビっている。異次元への関門である。右は上から,入口横の蛇の頭,入口階段のタイガー,隣り
  の寺院の床(天文観測用の池)。

下は境内。ワシとタイガーが彫られている。これらすべてが同一の岩をくり抜いたもの。

   16O万キロの岩を彫り崩したもので、階段や他の造作、ワシや
タイガーの彫刻など、すべて同じ1つの岩でできているわけだ。

   巨大な蛇が口を開いた形の入口を入ると、円形の神聖な広場
だ。

 寺院の敷居をまたぐことのできる者は、蛇にのみこまれなけれ
ばならないのだ。それは、物質世界を超越し、精神(魂)の世界に
よみがえったことを意味するのである。

  ただ、ここを潜り入ればよいというわけではない。日常の姿で
入っても何も意味はないのだ。

   いまではこの寺院、ナワリズムの初級を卒業した人が、アスト
ラル体(星気体)となって初めて入門が許されるのである。

  かつてのワシの騎士やタイガーの騎士たちが、異次元世界でいまも、下界の人間たちの魂の飛翔を待っている。

   丸い境内には、ワシとタイガーの彫像が坐り、異次元への入門者の品定めをしているようだ。私はそれら彫像の放つ異様
な、あるかなきかの視線に、ナワリズムの豊かな未来を感じざるを得な かった。

   求めよ、さらば…と、それは言っているのだ。

  
→「ナワリズムの秘法」に続く