身体中どこもかしこもぬるぬるして気持ち悪い。

「やめてどいてお願い!!」

 鼻を突く、鉄錆に似た匂い。もう誰のものかわからないくらい、血にまみれた身体。

「聞け、ません……」
「なら命令よ!! 誰の指示があってこんなことしているのっ、さっさと私の上からどきなさい! でないと……っ」
「……あなたも、わからない人ですね。聞けないと……言った、はず……はっ」
「……お願いよ、どいてちょうだい。でないと、あなたが……!」

 死んで、しまう。
 庇うように小さな身体を抱きしめていたカラダが、銃声と共にはねた。びくりとしてその腕から逃れようとするけれど、子供の力では大人にかなうわけがない。

「貴女が、こんなところで死ぬのは、早すぎる……」
「あなただって死ぬには早いわ! だから……っ」

 今さら彼が少女の上からどいたところで、状況は変わらない。それでも。
 それでも自分を庇って誰かが死ぬのはもう見たくなかった。

「だから、ここをどいてぇ……っ」

 涙交じりの声はのどを引きつらせた。混乱していた精神はそれ以上持たなかったのか、そこで少女の記憶はぷつりと途切れる。
 そして、その次に目覚めたときには。
 少女をかばって身体の上にいたヒトは、ただの肉の塊になっていた。
 人は死ぬとこんなにも冷たく重くなるのか、と。
 変に冷静な頭の隅でそう考えた。



 ――ただ、なにも考えたくなかった。
 



女神様の秘密



「ちわーっす、デュランダル議長いますかー?」

 どっかの御用聞きのような口調で、がブザーを鳴らした。呆れるレイのその前で、何事もないように扉は開く。

博士。どうしてこのようなところに」
「あらご挨拶。話せって言ったのは、そっちじゃありませんでしたか?」

 にっこり笑って言うと、相手はわかったような表情をしてから身体を引いた。

「まさか本当に話してくれるとは思いませんでしたから」
「一度話すと言ってしまいましたからね、聞きたくなければ私も話しませんが」
「いいえ、ぜひ」

 断れないような返事の仕方である。
 目の前に通路を作られては通らないわけにも行かず、あんなことを言っておきながらもは部屋に入るべく足を前へ一歩踏み出した……が。

「…………」

 その姿勢のままで、何故だかフリーズした。
 そうしてそのままの姿で数秒固まった後。

「…………」

 また同じように無言で足を引っ込めた。

博士?」

 不思議そうに呼んでくるギルバートの顔を見もせずに、眉間に皴を寄せた顔でぐりんっと回れ右。

「私たち、この前通された部屋で待ってますので」

 そのまま振り返ることなく、どかどかと廊下を進む。

「どうしたんですか」
「どうしたもこうしたも。どうせ私はお子様ですよ、潔癖ですよ、でも嫌なのよ!!」

 あんなとこで話ができるかああぁぁぁ!!! 
 鼻息も荒く肩を怒らせて歩くの後姿に、わけがわからないとレイは首を傾げた。





「議長殿にわざわざ御足労いただきまして、悪うございますねっ」

 カガリが座っていたところとちょうど同じ位置に、はふんぞり返っていた。なにが彼女の気に触ったのか、先ほどとはえらい態度の違いである。

「……なにか……お気に障ることでも?」
「いーえぇぇ、私が勝手にイラついてるだけです、お気になさらずっ」

 恐る恐る聞いたギルバートに、ぷいっとカナンはそっぽを向いた。……態度は明らかに三歳児なのに、さっきからのしかかってくるこの重圧は何なのか。
 なんともいえない気まずい思いをしている二人を前に、さすがにも悪いと思ったのか。大きく息をつくと、居住まいを正した。
 両足をそろえて座るその姿は、ちょこんと表現するのが正しいとすら思える。けれど、すっと両の目を開いたその途端、周りの空気ががらりと変わる。
 軽くあごを引いて、視線は真っ直ぐに。背はぴんっと張っていて、先ほどまでの雰囲気とはまるでかけ離れている。
 “大人”ですら気圧されそうな。
 その雰囲気をまとったまま。

「とりあえずレイくん、なんで立ってるのか知らないけど議長か私の隣、どっちかにお座んなさいな」

 母親のようなことを言う。

「いえ、俺は……」
「上から見下ろされるのって、威圧感を感じて嫌なんだけど。悪いこともしていないのに、取調べを受けてる気分」
「いや……」
「まだ拒否するつもりなら、そこの床に正座してなさい。座って話す人の話を、立ったまま聞くもんじゃないわ」
「………………わかり、ました」

 わけのわからない迫力に、ついにレイが落ちた。疲れたように小さく息をつくと、ギルバートの隣に着く。
 それをは満足そうに、ギルバートは笑いをこらえる様に見てから。

「一応確認させていただきますが、お二人はどこまで“博士”の私を知っていますか?」

 表情をころころかえて話す様はいつもどおりのなのに、先ほどから受ける重圧は明らかに普段のにはないものだ。
 それに多少気圧されながらも、二人はちらりと目を交わした。

「――遺伝子工学者だと聞いています」
「歳や外見、コーディネイターなのかナチュラルなのか、男性なのか女性なのか、そもそもそんな人物が本当に存在していたのか――まさか、こんなかわいらしい方だとは思いませんでしたが」
「お世辞をどうもありがとうございます。
 の名前で、男か女なのかの区別くらいつくでしょう。その他には?」

 ギルバートの台詞をさらりとかわして、はその先を促す。重要なのは一部に蔓延している情報ではなく、もっと核心を突いたもの。
 真っ直ぐに聞いてくるの瞳に迷ったような表情をした後、ためらうようにレイが口を開いた。

「――コーディネイターの研究者である、と」
「…………」

 しんっと沈黙が降りる。かすかに聞こえる機械の駆動音が救いだった。
 真っ直ぐな視線は変わらず、睨み合う(?)こと数秒。ふっとの表情が崩れた。
 なぁんだ、と諦めたように呟いて。

「名前を売った覚えはないけど本当、その通りだわ」

 ため息と共に吐き出した。
 泣き出しそうに笑ってから、は少しだけ首をかしげるように傾けた。束ねていない髪が小さく揺れる。

「正しくは“研究者”ではありません。どちらかというと“製作者“の方が正しい。言葉は、悪いですけどね」

 あの頃の私は幼すぎて、大人の言うままに研究を続けていた。――もちろん、幼かったからといって許されることではないとわかってはいるけれど。
 ただ、あの頃と同じようにと言われてもできない。
 あのときの、なんともいえない痛みはもう感じたくないから。

「――私が見せられるカードは限られています。こちらも身の危険が増えるようなことはしたくないですからね。身の上話も得意じゃないので、質問形式ということになりますが。
 それでもいいなら、お話いたしましょう」

 両の手のひらを見せてにっこりと。

「あなた方はなにを知りたいですか?」

 利用されていたとしても、最大限の力で守ってくれたあの人たちの傍へは早々いけないから。
 だから、生きるための方法を。




情事の後のお部屋で話が出来るほど、神経図太くないので。
なんだかわけのわからない書き方しちゃいましたが、ようはあれです。キラくんのおかーさんたちと同じようなことをさんはしていました。
いろいろあってもう昔のようには出来ませんが、さんにもいろいろ思うところがあるようです。



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