第一部 2 死に勝利したマリア
今日、あの敬虔にして唯一独特の乙女が、超宇宙的な天の聖所に移されました[1]。そしてこの乙女は、純潔をとても熱心に熱望されましたので、清純きわまりない火のような処女性が与えられました。実際、すべての乙女は、妊娠によって処女性を損なうものですが、かのじょはしかし、ご懐妊の前にもご懐妊の後にも、そしてご出産の後でも、乙女のままであり続けたのであります。
今日、生ける神の神聖にして生命ある聖櫃が、ご自分の造り主をその胎に宿した聖櫃が、ひとの手によらない主の神殿に安置されました[2]。そして、この乙女の祖先であり、(またある意味で)神の父祖であるダビデ[3]は、お喜びください。もろもろの天使たちよ、ともに踊ってください[4]!
大天使たちよ、手を打ち鳴らしてください!
力の霊たちよ、栄光をたたえてください!
支配の霊たちよ、ともに喜んでください!
権威の霊たちよ、歓声を上げてください!
主権の霊たちよ、歓喜してください!
玉座の霊たちよ、大祭典を催してください!
ケルビムたちよ、賛美の歌を歌ってください!
セラフィムたちよ、栄光を誉め歌ってください[5]!
なぜならかれらにとって、栄光のおん母の栄光をたたえることは[6]、(神の栄光をたたえることに勝るとも)劣らず名誉なことだからであります!
今日、この上もなく神聖な鳩が、混じり気なく純真な魂が、しかも神的な(聖)霊によって聖別された魂が、聖櫃もろとも、すなわち、神を受け容れ生命の源となったおん身体とともに(もろもろの天に)舞い上がっていかれました[7]!
そして、そのおん魂は、可知的な世界へと昇り、汚れのない天の嗣業地に幕屋を建て、「ご自分の両のおん足を休める場所を[8]」見出されたのであります!
今日、新しいアダムの(地所である)エデンが、み言葉の楽園[9]を迎え入れました!
そしてそのなかで、(原罪の)有罪判決が解かれ、生命の木が植えられ、わたくしたちの裸体が被われたのであります!
たしかにわたくしたちは、もう裸体ではありません。着る物のない状態にはありません。また、わたしたちは、神的な像の輝きを帯びていないのでもございません。(聖)霊の不滅の恵みを奪われてしまっているのでもございません。わたくしたちはもうこれからは、以前の裸の状態を嘆きながら、「わたしは、自分の衣を脱いでしまいました。わたしはどうやって、(再び)それを着ることができるでしょう[10]」などと言うことはないのです。なぜならこの楽園には、あの蛇が這いり込む余地などないからであります。ところで、あの蛇というのは、かつてわたくしたちがその唆しに引っ掛かって、偽りの神化[11](という果実)に手を伸ばした結果、わたくしたちが無思慮な家畜同然の状態になってしまった、あの蛇のことであります。実に、神のおん独り子みずからが、神にしておん父と同一実体である神の独り子おんみずからが、この処女にして純潔な土壌から、ご自分を人間として形造られたのであります[12]!
そして人間であるこのわたくしは、神とされたのであります!
死すべき人間が不死にされたのであります!
わたくしは皮の衣を脱いだのであります!
わたくしは、滅びを脱ぎ捨てて、神性の被いに包まれたのであります[13]!
今日、純潔で汚れなく、地上の情念に駆られたことのない乙女が・・・、天上のさまざまな思いによって養われた乙女が、土に帰ることなく[14]、本当に生命ある天[15]と呼ばれつつ、天にあるかずかずの幕屋のなかにお住まいになられました!
実に、かのじょを天とお呼び申し上げて、真実を逸する人がいるでしょうか[16]。この乙女が比類のない卓越性によってもろもろの天を超えて上げられていったと、潔く言えない人がいるとすれば、この人こそたぶん真実を逸する人でありましょう。実に、もろもろの天の造り主であり保持者であるおん方が、宇宙の内外あるすべてのものの[17]造り主にして保持者であるおん方が、見えるもと見えないものの造形者であるおん方が[18]、そのお方を収める場所など万物のなかにはないにもかかわらず
なぜかと申しますと、場所とは、その内部になにかを収めるものと定義されるからであります
、とにかくそのようなおん方が、この乙女のなかで、男の助けも借りずに、ご自身によって胎児として造られたのであります[19]。そしてそのおん方は、この乙女を、すべてのものを満たすご自分の神性の、しかも(場所に)限定されざるただ一つの神性を収める広々とした寝室としてお示しになったのです。そのおん方ご自身は、いかなる受動性も被らずに、その全体において乙女のうちに収縮し、しかもそれでいて、その全体において外におられたのであります。そのおん方ご自身は、(場所に)限定されないにもかかわらず、ご自身を(乙女の胎内に収められた)場所として保持されたのであります[20]!
今日、ああ・・・、わたくしはこの厚かましく向こう見ずな舌でなんと申し上げればよいかわかりませんが・・・、生命の宝殿が、恵みの深淵が、生命をもたらす死に覆われました[21]!
しかも、死を破壊するおん方を身に宿したこの乙女が、ひるむことなくこの死に向かっていきました! たといわたくしが、生命をもたらすまったく神聖なかのじょのこのご他界を[22]、まさしく死とお呼びしなければならないとしても、であります。
実際、すべてのもののために、真の生命をほとばしり出した乙女が、どうして死の虜になりえましょう。ところがかのじょは、ご自分のおん子のお定めになった法則に従いました。そして古いアダムの娘として、先祖のかずかずの刑罰に服従いたしました。それは、生命そのものであるかのじょのおん子も、これらの刑罰をお拒みにならなかったからであります[23]。しかしながら、かのじょは、生ける神さまのおん母でありましたから、それにふさわしく、神さまのおんみ許へ移されました[24]。かつて神さまは、最初に作られた人間が、「もはや手を伸ばして、生命の木から実を採り、それを食べて永遠に生きることのないようにしよう[25]」とおっしゃいました。そうだとすれば、元もなく絶えることもない生命を、元の限りにも終わりの限りにも服することのない生命を[26]受け容れた乙女が、どうして無限の代を生きないでありましょうか。
[1]
乙女たちが王の神殿に連れて行かれることを描写する『詩編』45,15.16が反映しているかもしれない。
[2]
Sh,meron
h` i`era, te kai. e;myukoj kibwto.j tou/ zw/ntoj qeou/( h` to.n e`auth/j
tecni,thn kuoforh,sasa( evn naw/| Kuri,ou avceirotmh,tw| katapau,etai;『詩編』132,8を参照せよ。この詩編は、契約の櫃のエルサレム入場を歌っている。
[3]
Dabi.d
o` tau,thj propa,twr kai. qeopa,twr
[4]
2
S.6,4;1 Ch.15,25.
[5]
Cf.Is.6,3;Ps.29,9.
[6]
th/|
mhtri. th/j do,xhj th.n do,xan prosne,montej
[7]
evkpta/sa
th/j kibwtou/( tou/ qeodo,cou fhmi. kai. zwarcikou/ sw,matoj
[8]
Gn.8,9.
[9]
o`
logiko.j
para,deisoj
[10]
Ct.5,3.
[11]
h`
yeudh/j qe,wsij
[12]
Cf.Gn.2;
乙女マリアのご胎における受肉は、大地の塵からの人間の形成によって予表されている。この処女地の概念は、乙女マリアの豊饒性の象徴として、本教話で再三利用されている。
[13]
Auvto.j
ga.r o` tou/ Qeou/ monogenh.j Ui`o,j( Qeo.j w;n kai. tw/| Patri. o`moou,sioj(
evk tau,thj th/j parqe,nou kai. kaqara/j avrou,raj e`auo.n peplastou,rghken
a;nqrwpon) Kai. teqe,wmai me.n o` a;nqrwpoj( o` qnhto.j hvqana,tismai( kai.
tou.j dermati,nouj citw/naj evkde,dumai) Th.n ga.r fqora.n avphmfi,asmai(
peri,keimai th/| peribolh/| th/j qeo,thtoj)
[14]
Gn.3,19.
[15]
e;myucoj
o;ntwj ouvrano,j
[16]
tavlhqou/j
a`marth,setai
[17]
panto.j
evgkosumi,ou te kai. u`perkosmi,ou
[18]
Col.1,16.
[19]
evn
tauvth| pro.j
e`autou/ avspo,rwj bre,joj dedhmiou,rghtai
[20]
kai.
tauvthn tamei/on euvru,cwron de,deicei th/j ta. pa,nta plhrou,shj auvtou/
kai. mo,nhj avperigra,fou qeo,thtoj( o[loj avpaqw/j evn auvth/|
sustello,menoj( kai. me,nwn o[loj evkto,j( kai. to,pon e;cwn e`auto.n
avperi,lhpton)
[21]
o`
th/j zwh/j qhsauro,j( h` th/j ca,ritoj a;bussoj ))) qana,tw| zwhfo,rw|
kalu,ptetai
[22]
th.n
auvth/j pani,eron kai. zwtikh.n avpobi,wsin
[23]
生神女の死が宣言され、その死の十全な理由が示される。それは、おん子との全き一致である。
[24]
pro.j
auvto.n avxi,wj metakomi,zetai
[25]
Gn.3,21.
[26]
th.n
zwh.n auvth.n ))) th.n a;narco,n te kai. a;lhkton( th.n mh,te avrch/j mh,te
te,louj douleu,san pe,rasin