第二部

全教会の中心である聖なるシオン

 

  さあ、ここで、この神聖な神のおん母の身の上に起こったかずかずの瞠目すべき出来事[1]を、力の限りを尽くして描き出し、あるいは推測し、あるいはその概略をたどっても、場違いにはならないと、わたくしには思われます。わたしたちはそれらの出来事を、まるで子どもが父親から受け取るように、昔からの言い伝えとして、ましくそしてとても要領よく受け取ったのでございます[2]

わたくしには次のような光景が、彷彿と思い浮かんでまいります。尊い乙女マリアさまは、聖なる人たちのなかでも最も聖なるお方、神聖な人たちのなかでも一際神聖なお方であり、マンナの収められた甘美な、いやむしろいっそう真実な泉と申し上げた方がよいかもしれませんが、とにかくそのようなマリアさまが、神々しく高名なダビデの都で、すなわち周囲に威容ち、あまねく知れ渡ったあのシオン[3]で、寝台のようなものにの上に横たえられておりました。この都のなかでは、律法の与え主であるキリストさまが予型としてのパスカを成し遂げ、旧約と新約の神さまがのパスカをお与えになりました[4]。またこの都のなかで、世の罪を取り除いた神の子羊が、ご自分の弟子たちを神秘的な食事に招き[5]、かれらのためにご自身をいわばよくえた子牛としてり、のブドウの木からそのを取っておりになりました。この都のなかでキリストさまは、死者のうちから復活して、使徒たちに見られました。そして、ご自身が神であり主であること、またご自身のうちに二つの本性を、しかも死者のうちから復活した後も持っておられること、さらにそれら本性に対応する二つの働きと自由な意思とを代々かぎりなく永遠に持っておられることを、トマスをして、またトマスを通して地の果てまでも、信じさせるに至ったのであります[6]。このシオンこそ、もろもろの教会の[7]、使徒たちのらぎの場[8]。そしてこのシオンのなかで、この上もなく聖なる霊の大音響を伴った火のような多くの舌が、使徒たちにがれたのであります。このシオンのなかでこそ、あの神の語り部(である福音記者聖ヨハネ)が、神のおん母を引き取り、その必要をったのであります。このシオンこそ、全地に広がる諸教会の母[9]。おん子(キリスト)の死者からの復活の[10]、神のおん母の御在所[11]となったところなのであります。とのかくこのようなシオンのなかで、幸いな乙女は、三重に祝福された寝台のようなものの上に[12]身を横たえられておりました。



[1] ta. evpi. th/| i`era/| tau,th| tou/ Qeou/ mhtri. tetelesme,na qea,mata

[2] a] metri,wj kai. li,an sunoptikw/j( to. dh. lego,menon( pai/j evk patro.j a;nwqen pereilh,famen; この演説者が思い起こすのも場違いではないと宣べている聖母マリアに関する以下の伝承は、特にエルサレムの教会に伝えられたものであろう。

[3] エルサレムのマリア伝承は、エルサレムの別名しもなるシオンに、マリアの生存とご死去とを位置づけている。説教者は、キリストの過越の秘義の舞台であり、使徒たちの宣教の出発点となったこのシオンの特殊性を描き出している。シオンは、教会の発祥の地なのである。とても早い時期にこの町は、「聖なるシオン」、「全地に広がる諸教会の母」として敬われた。マリアの遺体が安置されたと伝えられる場所には聖堂が建立され、今日そこには、ご就寝教会が建っている。

[4] evn h/| to. pa,sca to. tupiko.n o` nomodo,thj Cristo.j evktete,leke( kai. pa,sca to. avlhqe.j o` palaia/j kai. ne,aj diaqh,khj Qeo.j parade,dwken; 予型としてのパスカで、死から復活そして昇天の過ぎ越が、真のパスカで、聖体の制定が暗示されているのであろう。

[5] to. dei/pnon musitiko.n toi.j e`autou/ maqhtai/j o` avmno.j tou/ Qeou/ o` ai;rwn th.n a`marti,an tou/ ko,smou memustagw,ghke

[6] kai. Qwma\\/n pistou/tai kai. dia. tou,tou ta. pe,rata( wvj ei;h Qeo,j te kai. Ku,rioj( du,o fu,seij fe,rwn evn auvtw|/ kai. meta. th.n evk nekrw/n avnabi,wsin( kai. tau,taij katallh,louj du,o evnergei,aj( auvtexuo,sia, te qelh,mata( eivj aivw/na to.n a;peiron aivwni,zonta)

[7] tw/n evkklhsiw/n h` avkro,polij

[8] tw/n maqhtw/n katagw,gion

[9] h` mh,thr tw/n avna. pa/san th.n oivkoume,nhn evkklhsiw/n

[10] meta, ge th.n tou/ ui`ou/ evk nekrw/n avnafoi,thsin

[11] evndiai,thma

[12] h` makari,a parqe,noj evpi, tinoj trisolbi,ou kli,nhj kate,keito)