朱門岩夫

初期キリスト教の声(その3)

1999年8月22日某公的機関紙に掲載

最終更新日19/01/30


 

 教皇ピウス十二世が一九五〇年十一月一日公布した『処女聖母マリアの被昇天の教義決定』の典拠の一つに、最後の教父ダマスコの聖ヨハネ(六七五頃~七四九頃)の『終生乙女なるマリアの栄えあるご就寝』がございます。この時節に相応しいかと存じますので、その一部をここにご紹介申し上げます。ギリシア語原文から無理をして訳したので、なにぶん読みにくいところが多々あるかと存じますが、この拙い訳文を通して信仰の遺産の一部を垣間見てくだされば幸いでございます。

 

 ああ、それにしても何ということでありましょう! 私の主のおん母であり生命の源であるお方が、お亡くなりになってしまったのです! そうです! 土から作られたものは、再び土に戻らねばならなかったのです! こうしてそれは、体を土に返すことによって、土に恵みとして与えられた不滅の生命を再び得て、天へと復活しなければならなかったのであります! 死すべきこの肉体は、ちょうど黄金のように、死という釜戸のなかで陰惨な死という土塊をかなぐり捨てて清く不滅の肉体となり、不滅の光に輝きながら、墓から復活していかなければならなかったのであります!

 シオンよ! 生命ある神的な山がお住まいになった神性にして聖なる山よ! 喜びなさい! あなたのところから、彼女のおん子が、天の高みへと上げられていったのです。

 イスラエルの娘たちよ! 王妃の後に従って、彼女のみ側で聖霊によって若やいだ乙女として振る舞いなさい! そして彼女を花婿のところまでお連れして、主の右にご案内しなさい。主よ、来てください! こちらへ降りてきてください! そしてあなたが受けた養育の然るべき費用をおん母にお支払いください! 神々しき両のおん手をお広げになって、おん母の霊魂をお受け取りください! ああ! 十字架の上でご自分の霊をおん父のみ手に委ねられたお方さま! 何かしら甘美な言葉で、彼女に囁きかけてください!

 来なさい、親愛なる美しい乙女よ。乙女の美しさで太陽よりも照り輝く娘よ。あなたは私に、あなたの持てるものを分けてくださったのです。こちらへ来てください。私と共に私の持てるものを共に享受しましょう。さあ、お母さん、息子のところに来てください。 さあ! 来てください。あなたから産まれ、あなたと共に貧しさに耐えたこの私と、一緒に世を治めましょう!

 ご出立ください! 女王さま。ご出立ください! モーセのように、ネボ山に登って死んではなりません! むしろ、お亡くなりになって、お昇りください! 塵から出たものを尊い死によって塵にお返しください! そうすれば、塵から出たものは、あなたさまと共に天に上げられていくことになるのです!

 さあ、皆さん! ご出立なされた乙女と共に、私たちも知性によって出立しましょう! さあ皆さん! 神聖な讃歌を歌おうでありませんか! 拍子を付けて歌おうではありませんか!

 

 めでたし、聖寵満ち充てるおん方。主は御身と共にまします。めでたし、あらかじめ定められた神のおん母。めでたし、お喜びください! 代の始まる前に神のみ旨によってあらかじめ選ばれた神のお母さま!