朱門岩夫

初期キリスト教の声(その4)

2000年1月16日某公的機関紙に掲載

最終更新日2000/01/16


 

前回と同様、最後の教父ダマスコの聖ヨハネ(六七五頃~七四九頃)の『終生乙女なるマリアの栄えあるご就寝』の一節をご紹介いたします。この教話のテーマは、聖母マリアの受胎告知であります。少々くだけた日本語がございますが、ギリシア語原文自体がそうなっておりますのでご容赦ください。

 

  神々しい使徒が言っておりますように、「時の充満が訪れたとき」、天使ガブリエルが、神によって遣わされ、この本当に神の娘であるお方のもとに来られました。ガブリエルは彼女に向かって、こう言っております。「めでたし、聖寵充ち満てるおん方。主はおん身とともにまします」と。天使にまさる乙女に向かって発せられた天使の挨拶は、すぐれて見事なものであります。なぜなら天使は、全宇宙の喜びを運んできたからです。ところが、そもそも男性との会話に慣れていない彼女は、「この言葉に困ってしまいました」。彼女は、乙女の操(みさお)を堅く守ることに決めていたのです。そこで彼女は、「あら? この挨拶は一体どういうことなのかしら」と、心のなかで「思い巡らしました」。続けて天使は、彼女にこう言っております。「マリア、怖れることはありません。あなたは神のみ前に恵みを得たのです」。そうです、マリアさまは本当に恵みを得たのです! なぜなら彼女は、恵みにふさわしいお方なのですから。・・・ そうです! マリアさまは恵みを得たのです! なぜなら彼女は、ふたえの処女性を無事に守ったからです! つまりマリアさまは、体の操にまさるとも劣らず、心の操を無傷に保ち、さらにこの心の純潔によって、そのお体の純潔を保たれたのであります!

「さらにあなたは男の子を生むでしょう。そしてあなたは、その子の名をイエスと名づけなさい」と、天使ガブリエルは言っております。・・・ この言葉に対して真の知恵の宝物庫であるマリアさまは、何とお応えになっているでありましょうか。マリアさまは、エバを見習うつもりはございません。むしろマリアさまは、エバの不注意を正そうとなさっているのであります。そして、自然の法則を盾に取って、たぶんこんな風に天使の言葉にお応えになったのではないでしょうか。

「どうしてそんなことがわたくしに起こるのですか。わたくしは男を知らないのですよ」。あなたさまは、無理なことをおっしゃいます。あなたさまのお言葉は、造り主がお与えになった自然の法則を破るものではございませんか。でも、わたくしは、第二のエバと呼ばれて、造り主のみ旨を受け流すのはいやでございます。ですからもしもあなたさまが、神さまのご意思に反することをおっしゃっていないのであれば、このわたくしに受胎の仕方をお教えください。そしてこの困惑を解いてください。

 

 と、こんな風にマリアさまはお応えになったに違いありません。そして真理の天使は、彼女にこう言っております。「聖霊があなたに降り、いと高きおん者の力が、あなたを覆うでしょう。それゆえ生まれてくる聖なるお方は、神のおん子と呼ばれます」。ここに成し遂げられる出来事は、自然の法則に従うものではないでしょう。しかし自然の造り主であり支配者であるおん方は、ご自分の思いのままに、自然の法則を変更することがおできになるのです。そこで、常に慕い求められ尊ばれるべきこの神のおんみ名を、神聖な面持ちで謹んで聴いていたマリアさまは、畏れと喜びに満ちた従順の言葉を申し上げたのであります。「ご覧ください。わたくしは主のはしためです。あなたさまのお言葉どおり、この身になりますように」。