朱門岩夫 著

初期キリスト教の声(その5)

2000年6月18日 某公的機関紙に掲載

最終更新日2000/07/02


 

 以下にご紹介いたします教話は、四世紀のローマの聖ヒッポリュトスが書いたとされる『聖なるパスカ(過越)について』という論考を下敷きにして書かれた作者不明の教話で、作成年代は、四世紀前半であると推定されております。取り扱われているテーマは、キリストの復活と昇天でございます。

 

キリストがご復活されるのを最初に見たのは婦人たちでした。なぜかと申しますと、世の中に罪を最初に導き入れたのは女性でありましたから、同じように女性が、最初に生命の福音を世に告げ知らせるのです。婦人たちは、あの神聖なみ声を聞きます。「婦人たちよ、歓びなさい」。それは、最初の悲しみが、ご復活の歓喜によって飲み込まれるためでありました。そしてキリストはしばらくの間、地上にお留まりになり、ご自分の神聖なるご復活を証して、信じていない人たちにも復活の信仰を持つようになさいました。それは、ご自身の、死者からの身体を伴った復活が信じられるようになるためです。またキリストは、「古き人」を脱ぎ捨てて、神の像である人間を天に属する人間にお変えになり、この身体と共に諸々の天へと昇って行かれました。そしてこの偉大なる神秘を、すなわち、神と共に人間が昇天していくのを見た霊たちは、歓喜の叫びを上げて、天の軍勢に命じています。「支配者たちよ、お前たちの扉をあげよ。永遠の扉よ、あがれ。栄光の王が入る」と。そしてこの未曾有の驚異を目の当たりにした天の軍勢は、こう叫び返します。「その栄光の王とは誰か」。問い返された諸々の霊はたちは、再び答えます。「諸々の力の主、この方こそ栄光の王、力強く、戦に強いおん方」と。

 おお、何という神秘な合唱!、おお、何という霊的な祭典!、ああ、何という神的なパスカ!、神的なパスカであるキリストが諸々の天から地上に降りてこられ、再び地上から諸々の天へと昇っていかれたのであります。おお、万民に共通の祭日!、宇宙的な大祭典!、ああ、万物の歓び、誉れ、糧、ご馳走!、死はこの神秘によって滅ぼされたのであります。そしてこの神秘によって、生命がすべてのもに及んだのです。諸々の天の扉は開かれ、神が人間として顕れ、人間が神として天に昇っていかれたのであります・・・。

 ですから神、霊的に永遠な神なる主、主なる王キリストよ、私たちはあなたにお願い申し上げます。どうかあなたさまの偉大な両のおん手で、あなたさまの神聖なる教会とあなたの聖なる民とを覆い、常にお守りください。そしてすべての敵に戦を挑み、戦陣を構え、戦いを交えて、打ち伏せてください。逆らう者たちを目に見えぬおん力で打ち破ってください。神なる主、主なる王キリストよ、あなたさまは、私たちの諸々の敵に打ち勝ったのですから、どうかいますぐ、私たちのための勝利の品々をおんみずから高々とお掲げください。そして私たちが、モーセと共に凱旋の歌を歌い上げるおん恵みをお与えください。実に、栄光と力とは、代々とこしえにあなたのものだからです。アーメン。