４ ｢そして私はその地から人間と家畜を取り去る。たといそのただ中に、かの三人の人物がいたとしても[1]｣。どのようにして｢三人｣の人物が罪深い｢地｣に同時に暮らすことができるのでしょうか。どのようにして、はなはだしく異なった時代に生きた人たちの生活が互いに結び付けられるのでしょうか。目下の個所で私たちは、これらの三人が罪深い｢地｣に同時にいたことを読んでいます。すなわちノア、彼は洪水のときにいました。そしてダニエル、彼はバビロンの捕囚のときに生きていました。そしてヨブ、彼は太祖たちとモーセの時代に生きていたと言われております。たしかに私たちは、この時代にヨブの生活を見出します。では、私たちは何を言えばよいでしょうか。私たちは、次のことを思い起こさねばなりません。既に私たちがしばしば申し上げたことですが、人間が人間を生むのと同じように、イスラエルはイスラエルを生んだということです。実際、｢イスラエル｣がヤコブであったとき、彼はイスラエルの民を産みました[2]。また私たちは、イスラエルという名前が、一人の人間について言われるよりも、民全体について言われているのを聖書のなかに見出します。同じようにイスラエルだけがイスラエルを生んだのではなく、ルベンもルベンを生み、シメオンもシメオンを生み、レビもレビを生み、ユダもユダを生んだのです。そしてユダ族に含まれるその他すべての人たちは、ユダの根に由来するがゆえにユダと呼ばれます。またユダ族に関する聖書の叙述は、ユダのさまざま名前で進められているのです。モーセがヤコブによるルベンとシメオンとレビとユダの祝福やその他のことについて述べていることは[3]、太祖たちに当てはまるというよりも、彼らの子孫であるがゆえに彼らと同じ名前を持つ人たちに当てはまるのです。｢ベニヤミンは、噛み裂く狼。朝に(獲物に)食らいつき、夕べに獲物を与える[4]｣とあります。かの｢ベニヤミン｣は、決して｢噛み裂く狼｣ではありませんでした。かの｢ベニヤミン｣は、決して｢夕べに獲物を与え｣たりしませんでした。しかし｢ベニヤミン族から｣生れ、｢ヘブライ人のなかのヘブライ人、律法の点ではファリサイ派、八日目に割礼を受けた[5]｣あの人は、若かったときには、｢朝に(獲物に)食らいつく狼であるベニヤミンとして知れ渡っておりました。しかし彼は、信仰を持つようになって、自分の建てた教会に霊的な食べ物を配給するようになったとき、｢夕べに獲物を与える｣ようになりました。したがってベニヤミンはベニヤミンを生むのです。ですから人間が人間から生れ、ベニヤミンがベニヤミンから生れるように、ユダがユダから生れ、ルベンがルベンから生れるのです。たしかに｢ルベンは生き、死ぬことがありません。そしてその数は増す[6]｣のです。この言葉は、太祖だけに関わるものではありません。太祖から生れてくる民にもかかわるものだったのです。なぜこの言葉を引用したのでしょうか。それは、私が、ノアとヤコブとヨブに関わる目下の個所を説明したからです。すなわち、イスラエルがイスラエルを生み、ヤコブがヤコブを生み、ルベンがルベンを生み、その他の太祖たちがその他の人たちを生むように、ノアも、ノアを生みます。そして私は、ノアの子らのなかでセトはノアでしたが、ハムはノアではなかった言いたいと思います[7]。なぜならハムには、その父と似たところがなかったからです[8]。そしてアブラハムから出たすべての人がアブラハムではなく、たとい彼の種から出ていても、罪人であるかぎり彼の息子らではないのと同じように、ダニエルの行いを真似る人は、ダニエルとなり、ヨブの苦しみに倣う人はヨブとなるのです[9]。ですからあなたは、ノアは幸い、彼は、洪水のときただひとり主によって選ばれ、他の人たちが濁流によって滅びたのに、彼はその家族の人たちと無事に救われるに相応しい者となった、と言わないようにしてください。むしろあなたも、ノアの行ったことと同じことをすれば、ノアになるとお考えください。あなたは、救い主のみ言葉をお聞きください。救い主は、｢もしもあなたがたがアブラハムの子らなら、あなたがたはアブラハムの業を行うはずだ[10]｣と言っております。ですから、もしもある人が｢アブラハムの子｣であるなら、その人は｢アブラハム｣の行いを｢するのです｣。もしもある人がノアの子なら、その人はノアの業をします。もしもある人がダニエルの子なら、その人はダニエルが行ったことを行うのです。もしもある人が、ヨブが｢栄えある者[11]｣となった道を辿るなら、たとえば、自分の生活の糧を失い、家の財産の喪失や子どもたちの死を忍耐強く堪え忍び、｢主は与えてください、主が取り去った。主の思いのままに、事は行われる。主の名は代々にたたえられよ[12]｣と言う人や、身体の害悪に苦しめられ、さまざまな悪の苦しみに打ちひしがれ、それでもそれらの責め苦のなかで神に栄光を帰す人、またヨブのように、責め苦のなかにあって神的な言葉を投げかけ、預言の言葉を発することのできる人は、ヨブの模倣者となっているのです。そして実にこのような仕方で、ノアとダニエルとヨブは、同じ時代に再び見受けることができるのです。