47 神によって兄弟エンリケに与えられた聖なる命と恩寵

 

パリの人びとに話をする時などに、主は豊かで素晴らしい恩寵を兄弟エンリケの言葉に与えられた。生々とした効果のある彼の言葉は、聞き手の心に激しく浸み込んだ。われわれの時代の人で彼のように若く、彼のように流暢で、彼のようにすべてに魅力的な宜教師がパリの聴衆の前に現われた、ということはほかにない。

豊かでさまざまな恩寵を、神はこの選ばれた器に貯めておられたのである。常に従順であろうと心掛け、忍耐力を失うことなく、温和な性格を乱すことなく、快活さで人を魅惑し、愛徳にあふれんばかりであった。清い生きかた、純粋な心、貞潔な肉体が輝いていた。一度として、不純な意図をもって女性に近づいたり、見たり触れたりしなかった。

話しかたは慎み深くて上品な言葉を用い、天才の鋭さをもち、容貌は美しく態度には気品があった。すぐれた文章家で書くことに熟練し、声は耳に快よくひびいて天使のようであった。彼が悲しげで迷っているように見えることは一度としてなく、-平静で常に楽しそうであった。慈悲心を完全に自分のものとしていたので、正義は過酷な手を彼にはのばさなかったともいえるであろう。困難も感ぜずに人びとの心に影響を与え、またみんなに非常にやさしく接したので、少し話をするだけで、親友であるように思われてくることであろう。そして幸運にも豊かな恩寵を神から恵まれたこの人物は、当然みんなに愛されていたことであろう。すでに述べたことすべてについてだれよりもすぐれ、そういった恩寵のひとつひとつにおいて抜きん出ているように思われても、それゆえにうぬぼれることはなかった。それは以前にキリストかわ、心の柔和で謙遜な人間でいることを学び取っていたからである。