57 ローマにおいてある若者を生き返らせたこと

ドミニコがローマに滞在中、ステファン・デ・ホッサノバ司教の甥にあたる青年が乗馬中、不用意に馬を駆り地上に投げ出された。そして重傷を負い、人びとの悲嘆の中を運ばれて行った。みな彼がいまわの際にいるか、あるいは死んでしまったと思っていた。死者の周囲の人びとの嘆きが一段と強くなったとき、聖ドミニコが、善良で信心深いローマの修道院長である兄弟タンクレードを伴って現われた。この修道士がこの奇跡を語ってくれたのである。兄弟タンクレードはドミニコに言った。「なぜ偽わるのですか。主に嘆願しないの・ですか。隣人のあわれみはどうしたのですか。神への信頼はどうなってしまったのですか」。修道士の嘆願に動かされ焼けつくようなあわれみに負けて、若者とともに一室に入り、祈りによって彼を生き返らせた。そして皆に無事な若者の姿を見せたのである。