〔妙秀〕「打付け(うつけ)の申す事なれども、何とて加程世をすて玉はば、都の内をもかけ離れて、片山里の庵をも結び玉わぬそ。処せき(ところ狭き)都の内にては、争か(いかでか)朝夕の御勤めも事遂げ玉はんや」と尋ねしに、

〔幽貞〕「げに理(ことわり)の不審也。仰せのごとく、いまだ年も若ければ、片山陰に引き籠り、人気遠く成り侍らば、世の物云うさがなさにて、あらぬ憂き名を立ちぬべし。此の家の主は、自らが為には祖父にて侍れば、且つは親にも順い孝行をも尽くし、且つは又、市中の山居と云う事もあれば、更に不審も有るまじき」と宣えば、

〔妙秀〕「ただ大方に思しに、げにまたも思いとり給う人哉。心の至り深さよと、世を離れたる栖(すみか)よりも、却って貴くぞ心得ける。さて、貴理師端の教えは如何なる事にて侍るそ。仏の教え玉う三界建立の沙汰をば、如何に心得玉う。先ず、大方()聴聞申して、浅きより深きに入り、道をも、かつ踏みならわし侍らばや」とぞ云いける。

 

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