25 兄弟レジナルドの奇跡的回復

 

ドミニコが忍耐強く祈りを続けていると、非常に美しいふたりの婦人に伴われた聖母マリアが、高熱に喘いで寝ることもできずにいたレジナルド師の前に現われた。女王の言葉は甘美であり、「何か欲しいものを言いなさい。それを与えよう」と言われた。考えていると、天の女王の供をしていたあの婦人のひとりが、「聖母の御心にすがり、慈悲の女王が与えようとされているもの以外の物を望まぬように」と彼にさとした。称賛すべき忠告を受け入れ、答えをせず、彼女が望んでいる物を彼女の許しのもとに与えて下さるよう神の御母の選択に全てを任せた。すると彼女は汚れなき御手を拡げ、携えて来た香油を病人の目・耳・鼻・口・手・足・腰に塗ったが、その各々の箇所にふさわしい祈りの言葉を唱えられた。腰や足に塗油された時、大体次のような言葉をいわれたと推察できるであろう。「貞潔の紐でそなたの腰がまかれるように」。「平和の福音を説教する資格をそなたに与えるため油を塗ります」。そして言い加えた。「これより三日目に、そなたが完全に健康を回復するよう、聖油壷を与えましょう」。そして説教者兄弟会の修道服を示して言った。「見よ。これがそなたの修道会の着衣です」。そして病人の目から夢の中に見た姿が消えた。

天の女王からこのような治療を受けたレジナルドは、健康回復の聖油を調合できる御方の聖母によってその聖油の塗られた場所が快よくなり、即座に回復した。

次の朝ドミニコが来た。そしてどのような具合いか親しく訊ねたので、「もう健康です」と答えた。霊魂の健康のことを言っているのだと解したドミニコは答えた。 「真実健康であることは知っていますよ」。彼はもう健康を回復しているのだ、ど言って反駁した。肉体の健康のことを言っていることにドミニコが気付かなかつたので、レジナルド師は詳細に夢を語った。それで彼らは、損なわれた人びとを治療し、傷ついた人びとに薬を配られる救世主に感謝を捧げた。私の考えによれば、その感謝は深い信心をもってしたに違いない。医者はみな、生命はないと予想した人がどのような薬を用いて回復したのか知らなかったので、これほど急に回復したの目前に見て呆然とした。そのようなことは全く期待で きなかったのである。

そして三日目に施療修道会のある修道士を伴ったドミニコが、レジナルドと坐っていると、その修道士は聖母が近づき、その手でレジナルド帥の全身に聖油を塗るのをはっきりと見た。そしてあの天のものなる聖油は聖なる人レジナルド師の肉体を強めたので、燃える熱が消えたばかりでなく、彼自身後になって告白したごとく、それ以後邪淫の熱も軟らぎ、官能にいら立つこともなくなった。レジナルドの死後、ドミニコはこの夢を修道士に語った。兄弟レジナルドは、自分の生存中はその出来事をだれにも語らず、告解の秘密を守るように頼んだからである。

レジナルドは聖なる仲だちによって健康を回復したのち神に身を捧げ、誓願の絆によってドミニコと結ばれた。

まだロlマに滞在していたオルレアンの司教はこれを聞いて、ドミニコに自分の父(レジナルド師をこうよんでいたを、少なくとも巡礼から帰るまでは彼に任せてもらいたいと頼んだ。司教の友情に動かされた大勢の人びとも、それほど切望している人の願いを聞き入れてくれるよう神の僕ドミニコに嘆願した。一方レジナルドは、総長ドミニコに従うことを固く決心し、それに備えて全く心を動かさなかった。

しかしドミニコはあわれみに満ちていたので同情し、聖地を訪ねたら修道会に入会するという条件で、レジナルド師を巡礼から帰るまでの間前述の司教に任ねた。兄弟レジナルドは回復した体力を内にたずさえ、オルレアンの司教について海を越えた。巡礼を終えると、十二月二十一日にボローニャへ帰った。そこで説教に肉体と霊魂を引き渡し、多数の霊魂をキリストのために獲得し、快よい刺戟をボローニャ全体に及ぼした。そして大勢の人びとが、彼を慕って説教者兄弟会に入会し、そのとき以来修道士の数はきわだって増大した。