29 スぺインへの帰国――悪魔を通して

 

レジナルド師の入会後、ドミニコはスペインへ向かって旅立った。そして、そこにふたつの修道院を設立しだが、ひとつはマドリードに、もうひとつはセゴビアにある。前者は現在女子修道院となっており、後者はドミニコ会士のスペインにおける最初の修道院になったものである。スペイン滞在中、グアルダハラとよばれる村で悪魔が彼の供をしていた修道士たち何人かに、聖人から離れ去るように誘惑した。これは実現される前に発見されてしまった。聖なろ人ドミニコは、はなはだ残忍な龍が大きな目を開いて、彼の伴侶の修道士を奪い去るのが見えた。神の霊に満らたドミニコは、修道士たちに降りかかる悪魔の誘いという重大な危機が近づいていることを悟った。それで夢を彼らに語り、勇敢に誘惑者に抵抗すること、人は自由意志により自分を売り渡すことがない限り、だれにも捕えられろことはないと忠告した。

少し時がたち、夢で龍に呑み込まれた修道士たちは実際そうなった。なぜならドミニコといっしょにいたと思われる者は、三人すなわち兄弟アダムとふたりの改宗者を除いたほかはみな悪魔の迫害によって離れていった。三人のうちのひとりに、やはり立ち去りたいのかとドミニコが訊ねると、彼は答えた。「愛する父よ、頭を捨てて、足だけ行くことは決してない」。

聖なみ父は、見捨てて行った人びとに腹を立てるどころか、あわれんですぐに祈りの隠れ家に引き籠った。忠告によって引き止めることのできなかったあの人びとは、神に懇願すると戻って来た。神の恩寵により、ほとんどの者が少したつと、彼のもとに戻って来たのである。