39 甘美な芳香の波――快よい香油の壷

 

至福なる人ドミニコが行なう奇跡が増えていくにつれてその輝きが強まり、彼の聖性を隠すことができなくなった。それで兄弟たちは敬虔の心から、彼の身分にふさわしいさらに立派な場所へ遺体を移すことに決めた。すなわら疑いもなくその霊魂が風によって永遠の憩いの家に運ばれたと信じられているその人の骨が、土におおわれ人間の足の下にあるのは不適切と思われたのである。

最初に安置された墓は、何も内部から出来ないよう、また何も外部から入らないように、大きな石と石灰で固められていた。それを破り鉄棒で石と石灰を取り除くと、にわかに快よい芳香が墓から立ちのぼり、その薫は墓で焚かれているばかりでなく、全境内で焚かれているように思われた。

そして真実、汚れを知らぬ完全さをもち、聖霊の肢体として腐敗していなかった彼の純潔の遺体は、快よい香油の壷であるし諸徳の住み家であり、神より豊かに与えられた知識の店であった。その薫は極めて豊かかつ素晴しいもので、人間によって使われたことのないあの芳香はすべての香水に優り、自然のいかなる香精とも似ていなかった。聖なる遺体の骨や塵および棺から薫が発散していたばかりでなく、これらの物に触れた修道士たちの手からも匂った。それゆえ、肉体が塵となってもまだ快よい薫を放っているあの人の霊魂が、天において享受している歓喜はいかに限りなく大きいものか解るであろう。