宇宙世紀0079。
スペースノイドの自治独立を掲げ、月の裏側にあるサイド3はジオン公国を名乗り、地球連邦政
府に対し独立戦争を挑んで来た。
当初、数に優る連邦軍が圧倒的有利と見られていたこの戦いは、公国軍の新兵器の前に脆くも
崩れ去り、為す術の無いまま地上の半数近くを占領され、戦争は膠着状態へと陥って行った。
機動戦士ガンダム外伝〜永久凍土の地で・・・
この戦争が始まって既に十ヶ月余り。
日常化する戦いに慣れ、人々は生活の一部として受け入れ始めて行った。
終わりの無い苦しみの中、誰もが十字架を背負い日々を生きている・・・。
【地球連邦軍ジャブロー本部】
「この様な計画、私は断固反対です!」
言葉の勢いと共に硬く握られた拳を叩き付け、無意味に広い机を打ち鳴らす。
派手な音にも関わらず何事も無かったかの様に、相手はゆっくりと深く腰掛けた椅子ごと振り返
り、チラリと視線を向け面倒臭そうに言葉を発する。
「今更君の意見等聞いておらんよ、是は既に決定された事だ。」
怒りの収まらない巨漢の将校に対し男は涼しい顔で、手にしたファイルを投げ渡す。
「是は?」
投げ渡されたファイルを開くと数人の男女の履歴が収められていた。連邦の制服を身に着け、
一人一人細かなプロフィールが添えられている、まだ若い訓練兵のようだ。
事実それを裏付ける様に、訓練中と思える様々な写真も添えられている。
「今回の計画の第一陣だ、くれぐれも丁重且つ、厳しく運用してくれ。そうでなければ意味が
無い。」
緩慢な動作で机の引き出しを開け、何かを探る。
もう終わったと言わんばかりに男は目線を合わせようとしない、僅かな静寂が室内を支配する。
「・・・分りました。是以降は全て私の権限でやらせて頂きます。」
音を立ててファイルを閉じ、憤りを隠さない表情で目の前の男を睨み付ける。
「構わんよ、計画書通りに動いてくれるならば全て君に任せよう、万が一の時は君が責任を追う
事になるがな。」
薄ら笑いを浮かべながら引き出しの中から取り出した葉巻を咥え、火を付け深く吸い込む。
一気に吐き出された煙の匂いが室内に充満する、独特の甘味を帯びた匂いに顔をしかめる。
「あ〜スマン、君は吸わないんだったな。」
詫びる気持ち等微塵も感じられない言い方で、男はようやく目線を合わせる。
「用件は以上でありますか?」
必要以上に大きな声を出す、これ以上この男と話しても時間の無駄だ。早々に話を切り上げ様と
するが、怒りの収まらない拳は小刻みに震えている。
「用件は以上だ、くれぐれも事の詳細は洩らさないでくれよ。」
「失礼します!」
制帽を被り、退室しようと扉のノブに手を掛けたとき・・・
「楽しみにしているよコーウェン君・・・クックックッ。」
イヤラシイ笑を込め、男が笑う。
何処までも人の神経を逆撫でする男だ。
コーウェンと呼ばれた男は何とか怒りを堪えて部屋を後にする。
少々乱暴気味に扉を閉めた扉から大きな音が響くが、その音さえも先程の男を喜ばせるだけだ
ろう。閉められた扉を背に堪えていた物を一気に吐き出す。
「是が我が連邦軍のやり方か!」
上級将校用のオフィスが並ぶジャブローでも最も安全な区画。
その無意味に広い通路を怒りに任せ大股で歩く、いつの間にかその傍らには一人の女性が付き
添っていた。
「だいぶ御怒りのご様子ですね。」
早い歩調に合わせる様に小刻みに足が動く、普段のコーウェンならば相手に合わせて歩くだけ
の気使いを無意識の内に出来のだが、ここまで頭に血が昇ってはそんな事にも気が付かないら
しい。
「当たり前だ、こんな馬鹿げた計画を実行するなぞ軍人の風上にも置けん!」
その歩みを止め、手にしていたファイルを渡す。
「これは?」
手渡されたファイルにキョトンとしてしまう、ファイルの表紙には最高機密を表す記号が描かれて
いる。その記号が目に入ると女性の目付きが少しだけ変化した。
「この計画の全容だ、君に総指揮を執ってもらいたい・・・と、言うより、君にしか出来ないだろう。」
その言葉を聴き閲覧の許可が出たと判断し、ファイルを開く。最高機密の為、僅かに指先が震え
る。
分厚い表紙をめくり、最初のページに書かれている計画の趣旨が目に入ると、先程とは違った意
味で表情が強張る。何が有っても笑顔を絶やさない彼女にしては極めて珍しい表情だ、先を読
むに従い更に険しい表情に変わって行く。
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・・・わかり易い表記を用いるのならば、彼らの事を【人質】と呼んでも差し支えは無い。本作戦の目
的は先にも記述した通り、我が軍に利益をもたらす事を目的と・・・・・・・
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「准将・・・これは・・・」
彼女の声から生気が失われている。
「見ての通りだ、これが我が連邦軍のやり方だ!」
吐き棄てる様に言い放つ。
「・・・・・。」
言葉が失われる。
「候補者メンバーを見てくれ・・・」
苦しげな声で先を促され、震える指先で恐る恐るページをめくる・・・。
「!」
「私の記憶が正しければ、皆君と何かしらの関わりがあると思ったのだが・・・。」
「・・・・・ええ。」
女性も返事をするのがやっとの様だ、手にしたファイルが震えているのが分る。
「すまない水瀬大佐・・・俺にはこの馬鹿げた計画を止める事が出来なかった。」
廊下の壁を力いっぱい叩く、激しい音が通路中に鳴り響く、何事かと警備の兵士が顔を見せるが、
その様子を見るや、すぐさま姿を消してしまう。
「お心遣いありがとう御座います、コーウェン准将。」
水瀬と呼ばれた女性がペコリと頭を下げる。それを受けようやくコーウェン准将も冷静さを取り戻
したのか、姿勢を正し女性に向き直る。
「水瀬大佐、これより本計画は全て貴殿の手に委ねる物とする。私の出来る範囲の事ならば、私
の承認を得ずとも之を認める事とする。君の思う通りにやってくれ・・・・・・すまない水瀬君、これ
位しか今の私に出来る事は無い。」
「はい、謹んでお受けいたします。・・・・お心遣い有り難う御座います。」
敬礼をする水瀬大佐。
准将も精一杯の誠意を込めて敬礼を返す。
この瞬間、『カノン小隊』の設立が決定した。
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