第一話『カノン小隊、任務完了!』
【宇宙世紀0079〜10月下旬】
現在我が小隊は、かつて大英帝国があったこの地の、北の外れにある小さな基地に配属されて
いる。ベントランド海峡を挟み、オークニー諸島にあるこの基地は、バルト海に本拠地を構える
ジオン潜水艦隊に対して対潜哨戒任務を課せられた航空基地だ。
立地的には最前線の様に見えるが戦略的価値が低い為、直接的な被害はまだ無い。
我が小隊に配備されたMSの完熟訓練と、その母機となる2機の輸送機の運用訓練をこの基地の
施設を間借りし、執り行っている。
本当の所はこの小隊の設立目的が余り大きな声で話せない事もあり、連邦勢力下でも比較的辺境の
この地に追い遣られている訳だ。
しかもその背景がある所為で与えられている装備は最新鋭の物ばかり、実績の無い坊ちゃん、
嬢ちゃん部隊と影で囁かれる次第だ。実際その通りな事もあり、言い返せないのが悔しい。
「作戦はいつも唐突だ、・・・・イヤ失礼。」
【哨戒基地近辺:訓練地域】
普段、悪天候である事が既にデフォルトとなっているこの季節、久々に朝から太陽が顔を出して
いた事もあって、予定されていたスケジュールを変更し、延期されていた新型携行バズーカの
試射テストを行う事にした。
従来型よりも幾分銃身を切り詰め、取り回しが容易になっている物だ。
観測用に支援用ホバートラックを借り出し、意気揚揚と隣接する射爆場へと俺と北川そして佐祐理さん
の三人で向かった。
他のみんなもこの機会にと、晴れていなければ出来ない訓練を行う為、朝から忙しそうに走り回
っている様だった。
慌しい日常・・・これが戦争で無ければどんなに充実した日々と為ったのだろうか?
全てのセッティングを終え、屋外で簡単な昼食を取る。
多少寒いがせっかく晴れたので野戦用テントを建ててテーブルを広げた。
佐祐理さんが弁当を作ってきてくれたので、マズイ携行食料を食わずに済んだのはラッキーだ。
佐祐理さんの作る弁当は基地の食堂と同じ材料とは思えない程、とても美味い。
基地の人達には悪いが特別扱いと思われてもこれだけはやめられない。
「さ〜て、始めるとしますか?」
少々食べすぎで苦しいが、楽しみにしていた新型携行バズーカの試射だ、気持ちがはやる。
「もう少し、休んでからにしよ〜ぜ〜。」
ダレた声で抗議の声を上げる北川、当然無視だ。
「ふぇ?そうですよ〜祐一さん、あれだけ食べたのですから、もう少しお休みした方がよろしいで
すよ〜あははっ〜。」
ううっ、その笑顔には弱いんですよ・・・・。
「他のみんなは何してるんだ?」
佐祐理さんの入れてくれた珈琲で一息つきながら北川に尋ねる。
軍用のアルミ製のカップとは違い、佐祐里さんの用意してくれたカップは陶器の物だ。恐ろしくて
聞けないが何かブランド製の物らしい・・・。
「お前・・・・それでもMS分隊長か?」
呆れ顔で言ってくる、コイツいつか殺す!
「舞と天野さんは新しい不正地踏破のプログラムを、試す様な事を言ってましたよ?お代わり如
何です?」
俺の残り少ないカップを見て、ポットを差し出す。
「ありがとうございます、頂きます。」
差し出したカップに珈琲を注いで貰うと芳醇な香りが立ち込める。
「美味しい珈琲ですね、佐祐理さんのブレンドですか?」
何も加えずブラックで頂く。
「あはは〜っ、ありがとうございます。でもこのブレンドは佐祐里がしたんじゃないんですよ〜、ど
なたがしたか分りますかぁ〜?」
笑顔で問い掛けられ、一口含み確かめる。
「そうですねぇ〜このブレンドのイメージからして・・・秋子さんですか?」
「はずれですぅ〜、秋子さんは紅茶専門ですよ〜。」
う〜む、それでは一体誰なんだろう?こんな繊細な事が出来そうな人物が他に居ただろうか?
まぁ、あゆと真琴でない事だけは決定だな。
「分りませんか〜?」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ、」
もう一口あおり必死で考える、名雪・・・は苺物専門だし、香里・・・だったらもう少し深いローストと、
酸味が強い感じがするし・・・栞・・はアイス専門か・・・う〜む。
「時間切れで〜す、正解は〜舞なんですよ〜。」
正直言って、驚いた。舞にこんな特技が有ったとは・・・。
「驚いたな・・・、意外な一面も有るんですね。でも俺このブレンド好きですよ。」
「意外は置いておいて、舞に言ってやってください、きっと喜びますよ〜。」
「お〜い、おれも仲間に入れてくれ・・・・・」
すっかり北川の事を忘れていた。
仮設の目標物までの距離は約800、精密照準を用いなくとも確実に当る距離だ。
念の為照準を覗いて見ると細かい所までクッキリと見える。
中心部に《ココに当てる事!》と落書きがされている。北川の仕業だろう。
バズーカなのだから、当れば吹っ飛ぶと言うのにご苦労な事だ・・・。
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