四天王論
(2023年01月07日発表)

はじめに:
 ロマ1の物語の大きな柱の一つとして四天王のお遣いイベントがある。
 本稿ではこの一連のイベントをもとに、ゲーム内や文献では語られない四天王の過去について言及する。

1.四天王の所持するお遣いアイテムについての謎
 水竜からアフマドの娘を取り返す際に、水竜は次のように語る。
 「ベイル高原の真ん中にグレートピットというでかい穴が開いている。そこにアディリスという奴が棲んでいる。そ奴に雨雲の腕輪を貸したままになっている。それを取り戻してこい。」(ゲーム内の台詞)

 そして、アディリスのもとに訪ねると、アディリスは次のように語る。
 「北バファルのスカーブ山にタイニィフェザーが棲んでいる。そいつから疾風の靴を借りてきてほしいのだ。」(ゲーム内の台詞)
 

 それから、タイニィフェザーのもとに訪ねると、タイニィフェザーは次のように語る。
 「トマエ火山の中にフレイムタイラントが棲んでいる。そいつから火神防御輪という頭輪を貰ってきてくれ。」(ゲーム内の台詞)

 最後に、フレイムタイラントのもとに訪ねると、フレイムタイラントは次のように語る。
 「俺は凍気を発する武器や魔法が苦手だ。それでそういう武器やアイテムを自分で集めて自分の安全を確保しているのだ。そこでだ、アイスソードという武器があるらしい。それを持ってきてくれ!」(ゲーム内の台詞)
 

 以上の台詞から関係を整理すると、四天王それぞれがもともと所有していたお遣いアイテムは、
 ・水竜       :雨雲の腕輪(これをアディリスに貸し出していた)
 ・アディリス    :無し
 ・タイニィフェザー :疾風の靴
 ・フレイムタイラント:火神防御輪
 となる。

 これらのアイテムは邪神封印戦争の際に四天王がエロール側についたことに対するエロール側からの信義の現れであろうから、アディリスだけ無いというのは不公平である。
 そこで、公平にすることを考えると、アディリスはエロール側のアイテムではなく、エロールの独演会チケット(「涙を拭いて」イベント)を貰ったと考えることができるだろう。
 従って、四天王それぞれがもともと所有していたお遣いアイテムは、
 ・水竜       :雨雲の腕輪
 ・アディリス    :エロールの独演会
 ・タイニィフェザー :疾風の靴
 ・フレイムタイラント:火神防御輪
 となる。
 

 しかし・・・である。
 四天王の台詞やイベントをもとに整理すると上記のようになるが、実際にはアディリス、タイニィフェザー、フレイムタイラントは自分の背後にもう一つずつお遣いアイテムを持っている。
 即ち、四天王それぞれがもともと所有していたお遣いアイテムは、
 ・水竜       :雨雲の腕輪(アディリスに貸し出していたもの)
 ・アディリス    :雨雲の腕輪(アディリス背後の宝箱)、エロールの独演会
 ・タイニィフェザー :疾風の靴、疾風の靴(タイニィフェザー背後の宝箱)
 ・フレイムタイラント:火神防御輪、火神防御輪(フレイムタイラント背後の宝箱)
 となるのである。
 

 そうすると今度は水竜が一つ足りなくなるので、公平性を保つために水竜も雨雲の腕輪をもう一つ貰っていたすると、四天王それぞれがもともと所有していたお遣いアイテムは、
 ・水竜       :雨雲の腕輪×2
 ・アディリス    :雨雲の腕輪、エロールの独演会
 ・タイニィフェザー :疾風の靴×2
 ・フレイムタイラント:火神防御輪×2
 となる。

 上記の分配はゲーム内の事実と公平性をもとに推測したものであるから現時点では確証はない。
 しかしながら、この分配を前提とすると(不思議と)四天王に関わるいくつかの真相について説明することができるのである。
 ということで、以下では上記の分配から見えてくる四天王の真相について言及する。

(1)雨雲の腕輪を貰ったことの真相
 上記の分配でまず気になることはアディリスも雨雲の腕輪を貰っていることである。
 「水」の水竜だから雨雲の腕輪、「風」のタイニィフェザーだから疾風の靴、「火」のフレイムタイラントだから火神防御輪というのは司る属性が対応しているので分かりやすいが、「土」のアディリスが雨雲の腕輪というのはイレギュラーである。

 そこで、四天王のステータスを眺めてみる。
■水竜
HP
9851/9928 74 101 74 74 74 74 74 0 74 4 - - -
- - - - - - - - - - - - -
1:牙14(毒牙、麻痺牙)
術法:なし

■アディリス
HP
10817/10902 74 111 74 74 74 74 74 0 74 4 - × -
- - - - - - - - - -
1:毒霧14(毒霧(憑依))
2:牙14(毒牙、麻痺牙)
土:99/99/0(なし)

■タイニィフェザー
HP
9339/9412 74 96 74 74 74 74 74 0 74 4 - - -
- - - - - - - - - - - - -
1:くちばし14(石化くちばし)
術法:なし

■フレイムタイラント
HP
9825/9902 74 101 74 74 74 74 74 0 74 4 - - -
- - - × - - - - - - - - -
1:炎14(炎(全))
2:牙14(毒牙、麻痺牙)
火:99/99/0(なし)

 上記のように、それぞれの属性耐性に着目すると、耐性のある属性と同系統のアイテムを貰っていることが分かる。
 つまり、水竜とアディリスが「水属性耐性あり」だから雨雲の腕輪、タイニィフェザーが「風属性耐性あり」だから疾風の靴、フレイムタイラントが「火属性耐性あり」だから火神防御輪ということである。

 これで水竜だけでなくアディリスも雨雲の腕輪を貰ったことについてのそれなりの説明はついたように見えるかもしれない。
 しかしながら、水竜とアディリスが雨雲の腕輪を貰ったことの本当の理由は実は別のところにあるのである。
 では、その真相である雨雲の腕輪の持つ(本来持っていた)耐性を見てみましょう。
名称
58:雨雲の腕輪 3 1 - - - - - - - - - - - - - -
 上記のように雨雲の腕輪はゲーム内では耐性効果は無いが、本来は雷属性と石化属性に対して耐性を持っていたのである。
 そして、雷属性と石化属性を持っている攻撃方法と言えば、
技名 対象 属性 (追加)効果 特性 タイプ 算出
石化くちばし 0 5 近1

石化
石化 - 3-4 物単(石化剣)
 言わずもがな、石化くちばしである。

 かつての邪神封印戦争ではミルザと四天王のエロール派、そして邪神一派が入り乱れて闘う混戦状態が予想された。
 その際、邪神をも恐れさせたというタイニィフェザーの石化くちばしは味方側にとっても脅威であった。
 つまり、混戦の中でタイニィフェザーの石化くちばしが味方に誤爆した場合、フレイムタイラントは火属性耐性を持っているため石化することは無いが、水竜とアディリスは石化くちばしに対する耐性が無いため下手したら石化してしまうのである。
 そのような最悪の事態を避けるために、水竜とアディリスは雷属性と石化属性耐性を持つ雨雲の腕輪を装備することで石化くちばしの誤爆による石化を未然に防いだのであろう。

(2)雨雲の腕輪×2の効果
 上述の分配では、雨雲の腕輪を水竜はもともと2つ、アディリスは1つ持っていたことになっている。
 つまり、アディリスは雨雲の腕輪を既に1つ持っていたのに、ゲーム開始時には水竜から1つ借りて2つ所持する状態になっている。
 一方で、水竜は雨雲の腕輪をアディリスに1つ貸し出しても、手元にはまだ1つ残っているにもかかわらず、アディリスから返してもらって2つ所持する状態に戻そうとしている。
 このように、上記の分配をもとにすると、水竜とアディリスは雨雲の腕輪を常に1つは持っているにもかかわらず、2つ所持した状態にしようとしているようなのである。
 これは一体何故であろうか?

 この疑問についての答えは四天王の中での水竜とアディリスの共通点に着目することで見えてくる。
 それは「自分の住処に生息しているモンスターを制御できているかどうか」ということである。
 タイニィフェザーが一言発すればスカーブ山内部に生息しているモンスター全てが「お前達とは戦わないようにボスに言われてるぞ。」状態になることから、タイニィフェザーはスカーブ山内部のモンスター全てを支配下に置いていることが分かる。
 また、トマエ火山の炎系モンスターは全てフレイムタイラントの支配下にあるし、トマエ火山に生息するそれ以外のモンスター達もフレイムタイラントとがその気になれば鎮圧させることができる。
 #フレイムタイラントとの交渉により、トマエ火山内部とジェルトンの炎系ではないモンスターは全ていなくなる。
 

 このようにタイニィフェザーとフレイムタイラントは自分の住処のモンスターを制御できているのであるが、一方で水竜とアディリスにはそのような気配が見られない。
 おそらく水竜とアディリスは自分の住処にサルーイン一派のモンスターがうじゃうじゃと徘徊していることを不快に思っていたことでしょう。
 #特に、アディリスの住んでいるフロアの一つ上階は虫だらけでさぞかし嫌な思いをしていたことでしょう。
 

 そんな状況に対しての特効薬が雨雲の腕輪×2であったのである。
 かつての大戦において水竜は雨雲の腕輪を2つ貰っていた。
 なぜ2つなのかと言うと、1つは石化くちばしの誤爆対策としての防御面での目的のためであり、もう1つは他の四天王に比べて攻撃方法に乏しい水竜の攻撃方法を増やすという攻撃面での目的のためであった。
 雨雲の腕輪単品でも大雨を降らすことができるのであるが、水竜が雨雲の腕輪を2つ装備したことで、想定外の効果が表れたのである。
 それは大洪水であった。
 雨雲の腕輪を同時に2つ装備していることで大雨を圧倒的に凌ぐ大量の水を呼び出すことができてしまったのである。
 雨雲の腕輪×2にはこのような効果があったので、水竜は自分の住処にモンスターが溢れてくると定期的に雨雲の腕輪×2を使用して大洪水を引き起こして害虫駆除を行っていたのである。

 そして、その噂を聞きつけたアディリスは自分の住処でも害虫駆除をしたいと考えたが、自分の手元には雨雲の腕輪は1つしか無く雨を降らせることしかできなかった。
 そこで、アディリスは水竜から雨雲の腕輪を1つ借りてくることで大洪水を起こして害虫駆除をしたわけである。
 #アディリスも水属性耐性があるから大洪水でも大丈夫。

 それから時が流れ、水竜の神殿内に再びモンスターが沸いてきたので、水竜は害虫駆除をしたくなってきた。
 ところがアディリスに雨雲の腕輪を1つ貸し出しているため、自分の手元には雨雲の腕輪が1つしかなく、大洪水を引き起こすことができない。
 それが「アディリスから雨雲の腕輪を返してもらってこい」というのがロマ1の物語における水竜からの依頼につながるわけである。
 

(3)その他についての理由
(i)火神防御輪×2
 フレイムタイラントは冷気が弱点であるから、本当は冷属性耐性防具が欲しかった。
 しかしながら、ロマ1の世界には冷属性耐性のある防具の存在は確認されていないのである。
 それ故に過去の大戦時もフレイムタイラントは自分の望む冷属性耐性防具を手に入れることができなかった。

 ではどうして火神防御輪なのか?
 火神防御輪の耐性は、
名称
96:火神防御輪 4 7 - - - - - - - - - - - - - -
 上記のように、「火属性と水属性に耐性あり」である。

 フレイムタイラントは、
HP
9825/9902 74 101 74 74 74 74 74 0 74 4 - - -
- - - × - - - - - - - - -
1:炎14(炎(全))
2:牙14(毒牙、麻痺牙)
火:99/99/0(なし)
 上記のように水属性が弱点ではないものの、耐性は無いので、火神防御輪を身につければ水属性耐性を得られるという利点はある。
 しかしながら、「冷気が苦手だから冷気を発するものを集める」というフレイムタイラントの慎重な性格から察すると、水属性耐性を得るという目的よりは、「自分の得意な炎を無効化できるものも集める」という理由から火神防御輪×2を貰ったのではないだろうか。

(ii)タイニィフェザーの依頼
 タイニィフェザーは冒険者にフレイムタイラントから火神防御輪を貰ってくるように依頼してくるが、タイニィフェザーはどうして火神防御輪を欲しているのか?
 おそらく、タイニィフェザーはサルーインの復活の兆しを感知しており、そのために再戦に備えて自身の強化(耐性強化)を計ったのである。
 その際にターゲットになったのはフレイムタイラントの火神防御輪である。
 かつての大戦でもフレイムタイラントは火神防御輪を貰ったものの、上述した通りコレクション目的であったため戦いの中で用いることは無かった。
 それ故に、「使わないなら私が有効活用してやるからよこせ!」というのがタイニィフェザーの理屈である。

(iii)疾風の靴×2
 疾風の靴は素早さを上昇させる効果を持つ防具である。
 無論、巨鳥であるタイニィフェザーが人間用の疾風の靴を履くことなどできないが、古代の英知で作られた疾風の靴をタイニィフェザーは身につけるだけで(履くのではなく、文字通り身につけるだけで)その効果を引き出せたのであろう。
 そして、水竜とアディリスが雨雲の腕輪を2つ同時に使うことで1つの場合を凌駕した効果を引き出したように、タイニィフェザーも疾風の靴を同時に2つ身につけることで1つの場合を凌駕した効果を引き出した。
 それは神速・・・タイニィフェザーの速さはまさに目にもとまらぬ領域に達したのだった。

 かつての大戦の際にミルザはアディリスに乗って戦った(大全集, 小林画伯のイラスト)。
 空中戦ならばアディリスではなくてタイニィフェザーに乗ればいいのに・・・と以前は思っていたのであるが、疾風の靴×2を身につけたタイニィフェザーは速過ぎて、とてもじゃないが乗り物としては使えなかったわけである。

 また、速過ぎるが故におそらくタイニィフェザーもその速さを制御しきれていなかったのであろう。
 それ故に、石化くちばしの誤爆も多発しがちだったため、水竜とアディリスが雨雲の腕輪で石化予防をすることは必須だったのである。
 

(iv)アディリスの依頼
 アディリスは冒険者にタイニィフェザーから疾風の靴を借りてくるように依頼してくるが、アディリスはどうして疾風の靴を欲しているのか?
 おそらく、アディリスもサルーインの復活の兆しを感知していた。
 それ故に、タイニィフェザーと同様に再戦に備えて自信の強化(素早さ強化)を計ったとも考えられるが、アディリスとしては別の意図があったと考えられる。
 それは「タイニィフェザーを遅くする」ことである。
 かつての大戦の際に疾風の靴×2を身につけたタイニィフェザーは制御できないほどの神速で飛び回り、誤爆も多発していた。
 それ故に、「次の戦いではそんなに速くなくていいから、疾風の靴は1つに抑えておけよ!」というのがアディリスの要望である。

2.「涙を拭いて」の真相
 1.においてかつての大戦時に四天王がエロール側から貰ったアイテムの配分とその理由について述べたのであるが、まだ一つ謎が残っている。
 それはアディリスが貰ったエロールの独演会チケットである。
 言い換えれば、これはロマ1の物語においても理由が不明なままである「どうしてアディリスはエロールに『涙を拭いて』を演奏してもらっているのか?」という謎の真相に直結する。
 

 ロマ1研究の歴史において「涙を拭いて」イベントの発生条件を解明されたOvertureの降雪氏は、「意外と知られていないんじゃないですか。フレイムタイラントを殺してからアディリスに会うとこの曲が聴けるというのは。」という大事典に記載された対談をもとに、「『涙を拭いて』は本来はフレイムタイラントを殺害後限定のイベントであった」という立場のもとで、
 >「悠久の時を共に生きた仲間の死に心痛めたアディリスを、ハオラーンが静かに慰める」
 >それこそが「涙を拭いて」であると私は思いたいところです。
 というように、「涙を拭いて」は「フレイムタイラントの死を悼むための演奏である」というように推察されています。

 しかしながら、虎の巣のロマ1論の立場としては「ゲーム内での事実」を一番に重視します。
 従って、ゲーム内において「涙を拭いて」の発生条件に全く関係の無いフレイムタイラントの生死を「涙を拭いて」の演奏理由として納得することはできかねます。
 つまり、フレイムタイラントが生きていてもエロール(ハオラーン)は「涙を拭いて」を演奏するわけですから、「フレイムタイラントの死を悼んでいるわけではない」と判断せざるを得ないのです。
 そこで、本章ではゲーム内の事実をもとにして、どうしてアディリスはエロールに「涙を拭いて」を演奏してもらっていたのか?の真相について言及する。

(1)GBサガにおける「涙を拭いて」
 そもそも「涙を拭いて」とは何なのかと言うと、GBサガ1、2において特定の登場人物の死の際に流れるBGMである。
 #後作のロマ2では壊れて動かなくなったコッペリアに話しかけた際に流れる。
 従って、「涙を拭いて」が流れる場面は誰かの「死」を伴う場面であると考えられるのであるが、ではアディリスに関わる「死」とは何なのであろうか?

(2)アディリスの異常性
 ゲーム内で登場する四天王のアディリスは四天王の中でも特異な存在である。
 具体的には以下のようなイレギュラーな特徴を持っている。
 ・四天王の中で唯一専用グラフィックではない(ドラゴンS系と同じ)。
 ・四天王の中で唯一エロールに「涙を拭いて」を演奏してもらえる。
 ・四天王の中で唯一司る属性と耐性属性が一致していない(「土」属性を司るが、土属性耐性は無く、水属性耐性がある)。
 ・四天王の中で唯一状態異常耐性も充実している(不動、即死耐性だけでなく、幻、毒、麻痺耐性も持っている)。
 ・四天王の中で唯一超再生能力を持っていて不死身である(討伐されても階層切り替えで復活する)。
■アディリス
HP
10817/10902 74 111 74 74 74 74 74 0 74 4 - × -
- - - - - - - - - -
1:毒霧14(毒霧(憑依))
2:牙14(毒牙、麻痺牙)
:99/99/0(なし)

 四天王のステータスの基本値は74でどれも同じであり、HPと腕力の違いは種族による違いとして容認できる範囲である。
 しかしながら、「専用グラフィックではない」、「エロールに演奏をしてもらえる」という点を除いたとしても、他の3点については明らかに他の四天王とは異質な特徴である。
 これらの事実からアディリスは四天王の中でも特殊な存在であるということが言える。

 そこで、(3)ではこれらの事実をもとにして四天王の過去のエピソードについて推察する。

(3)四天王の過去
 「サルーインはモンスターの父だ。しかし、奴にとって俺たちは道具でしかない。俺は1000年前の戦いの時、水竜、タイニィフェザー、アディリスたちとエロールについた。」(ゲーム内の台詞)とフレイムタイラントが語るように、四天王はサルーインに造られたモンスターであるが、サルーインに不信感を抱いたため裏切った。
 不信感を抱かせる原因となった「奴にとって俺たちは道具でしかない。」と四天王に確信させるだけの出来事があったはずであるが、一体何があったのか?
 

 時は邪神封印戦争の頃、サルーインに造られた四天王はモンスター軍を率いて各地で暴れていた。
 そんな中、エロールが10個のデステニィストーンを作って結界を作り、サルーインの封印を目論む。
 負けず嫌いのサルーインはエロールに対抗して11番目のデステニィストーン「サファイア」を作り、巨大蛙モンスターに埋め込んでジュエルビーストを造り出した。
 その際、その素材となった巨大蛙モンスターは、水竜が「だがデステニィストーンのあまりにも強い力のために奴は狂ってしまった。」(ゲーム内の台詞)と語ることから察すると、おそらく四天王とは旧知のモンスターであったのであろう。
 #「奴は狂ってしまった」ということは狂う前を知っているということだから。
 

 サルーインはジュエルビーストを造ったものの、ジュエルビーストは暴走状態になってしまったため、サルーインにとっては失敗作であった。
 そこでサルーインはジュエルビーストを僻地に破棄し、別の手段でモンスターの強化を図ることにした。
 その手段とは・・・モンスターの合成である。
 そして、その標的(実験台)としてサルーインの目にとまったのがアディリスであった。

 ジュエルビースト造りに失敗したサルーインが次の実験材料を探して世界を見渡してみると、2匹のドラゴン(ドラゴンS系)が目にとまった。
 サルーインは考えた。
 「あの2匹のドラゴン、合体させて双頭のドラゴンにしたら面白いんじゃね?」
 邪悪な興味が2匹のドラゴンに向けられた。

 2匹のドラゴンの1匹は土属性で、もう1匹は水属性。
 この土属性のドラゴンがアディリスで、2匹はおそらくつがいであった。
 2匹1組で幸せに暴れていたのであるが、2匹の眼前に突如邪神サルーインが現れた。
 そして、サルーインは「お前たちは仲がいいなー。だから、お前達を永遠に一つにしてやろう!」と語ると、アディリスらの返答を待つことなく、合成を決行した。
 その結果・・・2匹は合成されたのであるが・・・サルーインの意図した双頭のドラゴンにはならず、見た目は合成前のドラゴンSと全く変わらなかったのである。
 「・・・失敗か・・・」
 サルーインはそう呟くと、失敗作の前から姿を消した。

 その場に残された合成されて1匹になったドラゴンは意識を取り戻した。
 その意識は・・・アディリスだった。
 サルーインの合成実験によって、もう1匹の相方の力はアディリスに取り込まれたが、相方の意識はもはやどこにもなかった。
 この合成実験により、アディリスは土属性耐性を失ったものの、相方の水属性耐性を受け継ぐとともに、状態異常耐性や超再生による不死身の力を得たわけである。
 アディリスは自身に流れる水の力を感じることで、相方が消滅してしまったことに気付き、ただただ悲しみの咆哮をあげるのであった。

 サルーインによって旧知の巨大蛙モンスターは狂わされ、アディリスら2匹のドラゴンは合成させられてしまった。
 このようなサルーインの改造実験が「自分たちはサルーインの道具でしかない」と四天王に不信感を抱かせたわけである。
 「次は自分が実験台にされてしまうかもしれない。」
 そんな疑念を四天王が抱えていたところに、アディリスが「相方の仇をとる!」とサルーインに反旗を翻した。
 こうして、これに同調した他の四天王とともに、四天王はエロール側についたのであった。
 

(4)名前の意味
 (1)では挙げなかったが、アディリスが他の四天王と異なっている点がもう一つある。
 それは、
 ・四天王の中で唯一名前に込められた意味が不明である。
 ということである。
 「水竜」ならば「水の竜」、「タイニィフェザー(Tiny Feather)」は「小さな羽」、「フレイムタイラント(Flame Tyrant)」ならば「炎の暴君」というように、名前が体を表すような側面があるが、「アディリス」だけはそうではないのである。

 しかしながら、アディリスに(3)で述べたような過去があったとしたらどうであろうか?
 アディリスは「Adilis」と表記する。
 おそらく2匹のドラゴンはアディリー(Adily)と呼ばれる種族のドラゴンであったが、1匹に合成されてしまったため、「合成されても2匹である」という意味を込めて複数形の「Adilies」・・・アディリースと名乗ることにした。
 そして、アディリースが縮まってアディリスとなったのである。

 そんな都合よく、名前が変わるのか?と思うかもしれないが、よい例がタイニィフェザーである。
 先に四天王の名前の意味を列記した際に、タイニィフェザーが「小さな羽」という意味を持つ事については違和感を持った方も多いことでしょう。
 それもそのはずで、大事典にはタイニィフェザーについて「名前の通りに、小規模ながら天候を変える力がある」という説明があることから察すると、タイニィフェザーはもともと「タイニィウェザー」(Tiny Weather)という名前であったが、訛って?「タイニィフェザー」になっているようなのである。
 このような名前の変化があるのだから、「アディリース」が「アディリス」になったという話もありえないとは言い切れないでしょう。
 

 以上のように、「アディリス」という名前にも他の四天王と同様に体を表す側面、即ち「アディリー達(2匹のアディリー)」という意味が込められているのではないでしょうか。
 #なお、「アディリーって何?」という質問は「タラールって何?」とか「アムトって何?」と尋ねているようなものでナンセンスである。

(5)「涙を拭いて」の真相
 (4)で述べたような経緯で四天王はエロール側についた。
 そして、共闘についての信義の現れとして四天王はエロール側のアイテムを貰うことになったのであるが、3匹の四天王がアイテムを2つずつ貰ったのに対して、アディリスは石化くちばし対策の雨雲の腕輪を1つだけもらことにした。
 その代わりとして、消滅した相方を追悼してもらう約束をエロールをしたのである。
 従って、アディリスがエロールに「涙を拭いて」を演奏してもらっている理由は「1000年前にサルーインによって消滅させられた相方を偲ぶため」ということになる。
 

 この理由をもとにさらに推察を進める。
 「涙を拭いて」イベントは、
 ・戦闘回数576回の時間経過でエロール(ハオラーン)がアディリスの傍らに出現し、592回の時間経過で姿を消す。
 ・アディリスを討伐していなければ、エロールが「涙を拭いて」を演奏する。
 というイベントである。

 戦闘回数については、その時間に演奏をしてもらう約束になっていたということで何も問題ないが、「アディリスを討伐していない」という条件、即ち、アディリスを討伐すると演奏してもらえなくなるのは何故だろうか?
 この疑問も(4)で述べた過去のエピソードを前提とすれば説明することができる。

 アディリスは消滅した相方を偲ぶためにエロールが訪れるのを待っていた。
 すると、冒険者が訪れて戦いを挑んできた。
 1000年もの間、誰にも敗北することのなかったアディリスであるが・・・冒険者は強かった。
 まさかの敗北を喫して、合成獣となって初めて絶命したのである。
 ・・・その時、奇跡が起こった・・・
 臨死体験でアディリスは1000年ぶりに消滅した相方と再会することができたのである。
 そこでどのような言葉が交わされたのかは分からないが、超再生の力により復活したアディリスは幸せそうな顔をしていた。
 

 そんなアディリスのもとにエロールが訪れて演奏を始めようとすると、アディリスはそれを制した。
 アディリスは呟いた。
 「・・・もういい・・・再会できたのだから・・・」
 このような理由により、アディリスを討伐した場合にはエロールの演奏を聴くことができないのでしょう。

 ゲーム内においてアディリスを討伐してから再度話しかけると、もう依頼をしてくることはなく、「よく来たな。帰りは裏の近道を使っていいぞ!」(ゲーム内の台詞)を言うだけである。
 この台詞により実際に裏道を通れるようになるし、加えて「スカーブ山」の地名も記載される。
 何も知らなければ「討伐されたことでアディリスは服従したのか?」と思うかもしれません。
 しかしながら、実際はそうではなく、「1000年ぶりに相方に再会させてくれた冒険者に対するアディリスからの感謝の気持ち」なのではないでしょうか。
 

おわりに:
 本稿では、四天王の過去と「涙を拭いて」の理由について言及した。
 「巨獣達の宴」においてアディリスは四天王で最強の力を持っていることを示したが、その強さの理由は今回言及したアディリスの悲しい過去にあるのではないでしょうか。
 つまり、合成獣だから強いという肉体面での強さはもちろんのこと、それだけでなく、相方の死(消滅)も背負っているから精神面でも強いのである。

 四天王アディリスと言えば、専用グラフィックの無い不遇なイメージが強いかもしれませんが、本稿によってアディリスに対する見方が変われば幸いである。
 

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