今宵のつぶやき

私的感想

no.60

『イフからの手紙』 湯川薫

待ちに待った新作です。今回は葵を中心に事件が起こります。隣り合う隠里同士の敵対関係。そこに流れる長年の積もった感情と古くからの伝聞。まるで運命の糸と言うものがあるとすれば、その糸に手繰られるように葵は青年と出会い、導かれ、里へと足を運び、自分の家系に纏わる歴史を紐解くようでもあります。いくつかの”失踪事件”が葵を惑乱し、隠里という地理的状況下で手詰まり(?)になり、恭介に助けを求めるとそこでまた、葵と恭介の歴史的な因縁のようなものが垣間見えます。所々に、そうした歴史的関係図や時空図や写真的記憶などが散りばめられていて、ただ単に”事件”追うというものではないように感じました。最後の手紙にはなんとも言えぬものがありましたし、生きていて欲しいと思える人が死んでしまうのですね。

 

no.59

『火蛾』 古泉迦十

帯に『かつて誰も見たことのない本格世界が展開する』とあったので、本格ミステリィなのかと思って読むと、どうも違うように思いました。確かに密室とも思える殺人事件も起こってはいるのですが・・・。作品自体は面白いように思います。私自身が過去に通った道程を思い出すという感じでした。何というのでしょうか、人生は山あり、谷ありで自分を殺す事はあるように思います。他人と係わり合いながら生きていれば、衝突や自分の意見や考えを押し通す事が出来ず、結果、自分を殺す。そして、人それぞれに分岐点なり、転換期なりがあると思います。行者という題材で人のもつ業や背負っているもの、歩む道筋を現しているのではないか、たくさんある宗教のそれぞれの教義をどう捉えるかで分岐点や転換期も変わるのではないか、そんな事を思いました。ですから、精神というミステリィを描いた作品という印象がしました。

 

no.58

『魔剣天翔』 森博嗣

名前だけで登場しないので、最初の方でたぶん同一人物ではないかと思いました。半分当たりという感じで苦笑。暗号文は一応解けたと思うのですが正解がわからないのでどうなのかしら? 逆からひとつ手前の文字で当たってるのかな?! 犯人はわかり易かったように思いました。保呂草の行動は相変わらず、怪しいし、依頼者はなぜ嵌められそうになったのだろう?! 依頼とは別の次元でたまたまそこにいたからなのだろうか? 犯人と依頼者のそのまた依頼者には関連がなさそうに思うので、そう理解するしかないのでしょうが、それにしては彼女の周辺の怪しさから掛け離れているような・・・。うぅん、どうもそこのところがわからない。どうでも良い事ですが私はどうしても祖父江七夏が好きになれない。読み続ければ、続けるほどその気持ちが増す模様で、出来るなら自分の側にはいて欲しくないタイプの女性の気がします。この先もずっとそうなのかしら?! 

 

no.57

『QED 百人一首の呪』 高田崇史

最近は万葉集や古今和歌集などの和歌の本を読む事ないですし、お正月に百人一首で遊んだのはいつの事という感じでしたのでとても懐かしいと思いました。その手の本が好きな方は一読すると良いように思います。殺人事件より百人一首の謎を解くのが面白かったです。最終的には繋がるのですが別個のモノと考えた方が良いような気もしました。比重が事件よりも百人一首の方が重いかな。そのせいなのか、事件はトリックというトリックもないですし、犯人も目星がつき易かったです。マンションを各地に与えた理由も、すぐに五茫星を浮べてしまい結界のつもりではないのかと思ってしまいました。とても、面白く読んだのですが百人一首の謎に興味があるか、陰陽道などに興味がないと愉しめないかも・・・。

 

no.56

『スクリーミング・ブルー』 藤木凛

読みながら、昨年読んだ「イツロベ」を思い出しました。醸し出す雰囲気が似ているように感じました。書いた方が同じなのですから当たり前と言えば当たり前なのですが。美しい情景とは相反した猟奇殺人。忘れた過去を思い出した時、事件の真相の扉が開く。祭祀はその土地、その土地で色々な物があります。この事件が起こる土地、沖縄にも独特とも思える祭祀には驚きを隠せませんでした。そして、沖縄という場所に抱えさせた数々の問題が過去の歴史の中で繰り返された略奪し、支配して文明を破壊した行為を思い出さずにはいられない。日本という国に存在するのに・・・。事件の裏側には脈々と人の犯した過ちの歴史が流れているのだと思いました。人はそれぞれ過去を抱えて生きています。大抵の場合、過去は過去としていますがその過去の妄執に執りつかれた時、犯罪を犯してしまうのでしょうか?! 絵画を思い浮かべてしまう美しい描写の翳で語られる真実はあまりに辛く悲しいかったです。

 

no.55

『龍と魔法使い 外伝2』 榎本洋子

待ちに待った外伝2です。物語は3篇。
「時の魔方陣」は愛するがゆえの行為が愛する者を苦しめる。それが切ないけれどとても優しい気持ちにしてくれました。
「回想」はレンのドタバタ振りが笑えました。
「幻想祭」は子供ながら母の為に頑張る少年が悲しいままでは辛過ぎます。だから少年の想いが行き着いた先は優しい光の射しこむところで読み終えた時ホッと息をつきました。

 

no.54

『高校王子』 七海花音

新シリーズが開始。なんだか切ない本でした。高校生が抱えるにはあまりにも大きなモノのようで。自分の事は自分が一番良く知っているようでいて知らないモノでもあります。心に抱えるモノは話さなければ当然他人にはわかりません。それでも何が一番大切なのかを教えてくれるのはそういう自分以外のモノや人なのかもしれません。ここに登場する少年は優しい心とは裏腹に妬みや嫉みを持つ自分に嫌気を抱いてしまう。100%良い人などいないのに・・・。悪い事柄は全て自分の所為に受け取り、殻に閉じ篭る。誰しもそういった経験はあるのではないでしょうか? 長く生きればその分だけ物事が見えるようになりますし、経験が打開作を提示してくれる事もあります。若いという事は未来が無限に広がっているのと同時に経験が不足している為、誤った判断を下してしまう。それでもその経験を生かせれば次はもう少しましな判断が出来るようになるでしょう。こういう物語を読むとつい年寄くさい事を考えてしまいます。さて、作品としては登場人物が面白いです、特に編集者は笑えるし、5歳のお子様はとても愛らしいく、グリグリしてくなりました。今回はベースに『幸福の王子』が流れています。懐かしさと共に子供の頃に読んでとても悲しかったのを思い出しました。

 

no.53

『密室は眠れないパズル』 氷川透

鮎川哲也賞の最終候補に残った作品を改稿改題したものだそうです。デビュー作の時も思いましたが本の中で展開される氷川の語る持論がとても好きです。本格推理の話には「それってあるかも」と頷く自分がいました。犯人は誰だろうとミステリィを読むたび、まず必ずと言っていいほど考えます。最後まで読んでそれが正解だとちょっと嬉しかったりします。しかし、トリックとなると考えるのですが正解には辿りつけない方が多いのでどこか諦めてしまう。今回の作品も犯人は早い時期に判りました。どう考えてもその人物以外には当て嵌まらないし、伏線とも思えるものも提示されていましたから。密室の成り立ちはやはり判らなかったというか、考えがそこには至らなかった。答えを知った後もそんな面倒な事をよくやるよなぁ〜と思ってしまいました。自分を犯人の枠外に出す為とは言え・・・。作品全体として面白く読めました。事件が面白い具合織り成すものには感嘆する部分。

 

no.52

『遠日奇談』 椹野道流

今回の作品は外伝短編集です。龍村先生が天本との出会いや学生時代の思い出を語っていて、「そうだったのかぁ〜」と妙に納得。高校時代の天本が何故か愛らしく感じてしまいました。龍村は学生の頃から苦労性なのだと判るし、小一郎の生まれたての頃も判るというシリーズをずっと読んでいた者には美味しい一冊でした。

 

no.51

『ああ言えばこう食う』 檀ふみ 阿川佐和子

ご紹介頂いた本をやっと入手して読めました。ホントに面白くて声を出して笑い転げながら読了。独身で妙齢の女性なら同じような経験はたぶんあると思いますし、似たような会話を友人としている事もあるのではないでしょうか? 私自身は事実としてあり、その会話が出た時、どこかで聞いた(若しくは言った)セリフと笑うに笑えぬ場面も多々ありました。思う事は一緒なのね・・・といった感じでしょうか。それからお二人の『食』に対する姿勢には敬服する部分も。