新規サイト001



掌の中の廻る世界



見慣れぬものが有った。
それは掌に収まる程の大きさで筒状の形をしている。
興味を引かれ、手に取ってみる。
ただ手に取ってみただけでは一体どのような用途に使用するものなのかは判らない。
軽く振って見るとからからと乾いた音がする。何かが入っているのは間違いなさそうだ。
しかし、それだけではやはりこれが何なのか判別は出来ず、手に持ったまま暫し考え込んでいると
「それがどうかしたのか」
「ハクレン」
後から食堂へ入ってきた友が訝しげに声を掛けてきた。
「ここに来たら置いてあったから何かと思ってさ」
その問いに答えてまたそれと睨み合う。
考えれば考える程、用途が想像出来ない。
食堂に有ったということは調理道具か、とも思ったが、それらしき機能は無さそうだ。かと言って何かの武器……という線は薄そうに見える。
「それは本気で言っているのか」
「なっ!!なんだよ!」
その珍しい動物に出会ったと言わんばかりの目は―――続きは敢えて言葉にしなかった。いや、寸出の所で止めた。それを言ってしまっては、己で己自身を珍獣と認めるようなものだという本能の警告が聞こえた気がしたからだ。
そんな葛藤が行われているとは露知らず、ハクレンは俺の手の中からそれをひょいと奪い取った。
そして、陽光の差し込む窓辺に向かってそれを翳し、何やら中を覗き込みながらくるくるとそれを回転させている。
「何やってるんだ」
「これは、こうやって使うものなんだ」
「使うって……」
どのような目的で?と問い掛ける前にそれを再び手渡された。
用途は判らないが先程ハクレンがやっていたように使用するものらしい、ということは判った。
恐る恐る、それを覗き込んで見る。
「うわぁ………」
そこにはとても鮮やかな、色とりどりの世界が広がっていた。
ゆっくりと筒を回転させていくと、その世界は次々と形を変えていく。只の筒状の、こんなにも狭い世界の中で、それは様々な色を見せてくれる。
「凄く、綺麗だ……」
思わず感嘆の声が漏れる。
今まで出会ったことのない小さな世界は、俺に不思議な感覚を与えた。
「俺も昔……母上に買って貰ったことがあってな。初めてそれを覗き込んだときは今のお前のように驚いた」
「………うん…」
くるくると変わる世界。
先程の不思議な感覚は、何時までも見ていたい、という俺自身の願望に近いものだったのかもしれない。
それだけの魅力が、この筒には詰まっているように感じた。



「何をしているのですか?二人とも」
「あ……カストルさん」
筒から目を離し、声の主を振り返る。
「これを、見ていたんです」
そして、それを差し出す。
「これは―――恐らく先程まで食堂に居た子供たちの誰かが忘れていったものでしょう」
筒を受け取り、小さく彫られた持ち主の名を示しながらカストルが言った。
「そうですか……それじゃあ返してあげないと」
少々名残惜しいが、仕方が無い。
名前を彫るほどの物だ。きっと、今頃心配しているだろうから。
自らも気づかぬうちに、その思いが言葉に端に出てしまっていたのだろう。カストルが「そうですね」と言った後、
「お二人共、これから時間はありますか」
「えっ………」
その問い掛けに、やや下降気味だった思考回路がこれからの予定を瞬時に導き出す。
「特に……無いです」
そう答えると、司教はにこりと微笑み
「では、これからこれを作ってみませんか」
一つの提案を投げ掛けてきた。
一瞬、呆気に取られたが、
「これ、俺にも作れるんですか」
素っ頓狂な声が零れる。
その提案はとても魅力的ではあったが、何かを作るという方面に対して己が不器用なことを知っている。だから、こんな明らかに複雑そうな物を自らの手で作る、等ということは無理だと思ったのだ。
「勿論ですよ。難しそうに思えるかもしれませんが、意外とやってみれば出来るものですよ」
「本当ですか!?」
「はい」
不安から一気に期待が大きくなる。
こんなにも何かに対して胸が高鳴るのは久しぶりだ。
「では、これから作ってみましょうか」





くるくると変わる筒の中の、今はまだ小さな世界
それは、神様では無く、俺自身が作る世界





End.



>Main
>Top