Title:083
今日はどうも朝から体調が優れなかった。
体がだるいから始まって、次に悪寒、そしてとうとう熱が上がりだしてしまったのだ。
原因はわかっている。昨夜のあれだろう。
「自業自得だ」
親友の言葉を思い返す。
アイツと一悶着やった後、小休止のつもりがそのまま眠ってしまったのが原因だ。間違いなく。
目覚めたらそこは自分の寝台の上だった。
その時にはもう朝になっていて、先に目を覚ましていたテイトにどうやってここまで戻ってきたのかを聞かされた。
どうやらテイトの中では俺が夜に一人であの塔へ登り何故か眠っていたところを自分が探しに来た、ということになっているらしい。どのようにして記憶が改竄されたのかは、思案したところで答えは決まっている。
(……アイツ、がやったんだよなぁ)
そのせいで今朝は散々あんなところで何をやっていたのか、と質問責めにされた。
仕方無いので「眠れなかったからちょっと散歩に……」とはぐらかしておいたが、あまり納得はしていないようだった。
(でも何で一緒に居たはずなのに俺だけこんなことに……)
思わず溜息が漏れる。
とりあえず、今は治すことだけを考えよう。
そう自らを納得させ、暫し眠ることにした。
どれくらい眠っていたのだろうか。
今日の全講義の終わりを知らせる鐘の音を聞きながら、眠りから目覚める。
窓の外を見やると、もう日も傾き掛けているということは、ほぼ丸一日眠っていたことになる。自分自身が思っていたよりも疲れていたらしい。
そろそろ起きなければと思いつつ、再び緩やかに睡魔が襲ってくる。
このままもう少しだけ―――と身を委ね掛けたとき
「おい」
ちょうどテイトが部屋に入ってきた。
「もう、大丈夫なのか?」
若干の不安を含んだ問いかけに
「ああ、ほぼ全快だ」
「そっか…良かった……」
ほっと安心したように呟く親友。
確かに、今日一日安静にしていたことで、体調は回復したようだ。風邪には休養が一番、というのは本当なのだと実感する。
「それで、これ……」
寝台の側までやってきたテイトが抱えていた紙袋から紅い林檎を取り出す。
「風邪にはこれがいいって聞いたことがあったから」
差し出された林檎を受け取ると、甘酸っぱい良い香りが鼻腔を擽る。そういえば丸一日何も食べていなかったな、と気付く。
「テイト……」
「な、なんだよ」
「これ、このまま食べるのか?」
「あっ……」
「風邪といえばウサギ林檎が定番かな、とは思うんだけど……」
「な、なんだそれ!?ウサギが林檎なのか?」
慌てふためきながら顔を真っ赤にしているその姿に、知らず笑みが零れる。
「な、なに笑ってんだよ!!」
今度は照れ隠しのためか声に怒りが混じる。
本当に知らないんだな、ウサギ林檎。
「じゃあ、今度教えてやるよ。お前が風邪引いたときにな」
しゃくり、とそのまま林檎を齧る。
それはどういう意味だ、と横でテイトは怒っていたが、笑って受け流しながら林檎を口に運ぶ。
こんな幸せが続けばいいのに、と思う。
こんな些細なことでも幸せなのだ、と初めて感じる。
お前が知らないことがあるなら、これからいくらだって教えて行こう。
だから、少しはその痛みを俺にも分けて欲しい―――口には出さないし、この先出すことはないかもしれない。
でも、どうかこんな日々が、続いてくことを願わずにはいられなかった。
ただ望むものは、こんなささやかな幸せだったのだ
End.
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