Title:061
真っ白な花が咲き乱れていた。
思わず、立ち止まって、見とれてしまうような一面の白。
その穢れをまったく知らぬような純白に、少し、居心地の悪さを感じる。しかし、それではここに来た意味が無い。
意を決してその花弁に指先で触れてみる。一瞬、穢れた自分を拒まれるのではないか、という危惧が心を掠めたが、それは杞憂のようだった。
ほっと息を吐く。
本気でいきなり花が襲ってくると思っていたわけではないが、穢れの無いものに触れるのには今でも少々緊張する。
「どうしたの?テイト君」
花達の手入れをしていたのだろう、ラブラドールが声を掛けてきた。
「花を………」
庭園の主を見やり、再び先程の白い花へと視線を落とす。
そして、ここへ来た目的を告げる。
「この……花を少し分けてもらえますか?」
さわさわと風が髪を掻き乱していく。
腕の中には真っ白な花束。風に攫われないようそれをしっかりと胸に抱く。
一歩、また一歩と歩みを進めて目指すその先には翼竜の子が落ちていたという木がある。
風が冷たい。恐らく嵐が来る前触れだろう。
思わず身震いをする。
向かい風に阻まれながらも、そこへ辿り着いたときには体はすっかり冷え切っていた。
「……ここが…」
ぎゅっと瞼を閉じ、花束を強く抱き締める。
そして、それをそっと根元へ置いた。風に飛ばされないよう石で固定するのも忘れずに。
これを贖罪にするつもりなんて、無い。
けれど、ここは終わりではなく、新たな始まりの場所なのだと信じたい、そう思えるようになった。だから、今日という日にここへ来る決心が付いたのだ。
「……………」
もう一度瞼を閉じ、込み上げて来る涙を押しとどめる。
ふわり、と甘い香りが鼻腔を掠め、空に消えていった。
「テイト!!」
遠くから名を呼ぶ声が聞こえ、ゆっくりと瞼を開ける。
声の主である戦友がこちらへ小走りにやって来た。
「どうして……」
「これから天気が悪くなるというのに外へ出たまま帰らないから探しにきた」
「……そうか…」
「ほら、早く帰るぞ」
やや呆れたような声音の中に、焦りの色が見え隠れする。
ああ、確かに先程よりも空には暗雲が立ち込めていた。
「明日は大事な日なんだ。風でも引いたらこれまでの努力が水の泡だぞ」
「そうだな……」
本当に判っているのか?とハクレンは訝しんでいたが、だからここへ来たのだ、と答えて小さく、本当に小さく微笑む。
ハクレンは一瞬、面食らった様に口を噤む。が、それはほんの一瞬のことで、次の瞬間にはくるりと踵を返していた。あまりに一瞬過ぎて、その表情を伺うことは出来なかった。
「……とにかく、いつも言っているように体調には気をつけろ。お前はそういうところが無頓着だからな」
言い終わるか終わらないかのうちに足早に歩を進める。それが彼なりの気遣いだと、気付くのに数秒の間があったが、
「ああ……そうだな」
そう言って、やや遅れて自らもその背を追う。
知らず、また微笑みが零れる。
そして、数歩進んだ所でもう一度背後に佇む木を見上げ、
「行って来る」
それはもう一つの空の中での出来事。
End.
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