摘蕾遊戯/side Light
それは、彼にとっては当たり前のことだった。
当の昔に日課となっていたその行動は、当たり前すぎて、不可思議だと感じることなど無かったからだ。
しかし、今日は少々事情が違っていた。
ぱちん、ぱちん、と薔薇の蕾を落としていくその行動を不思議そうに見つめる少年が居た。
先程からその司教見習いの少年は、じっとその様子を観察している。
少年は、暫く司教のその行動を観察し考え込む素振りを見せていたが、己の中でその疑問に対する答えが見つからなかったのか、
「それは何をしているのですか?」
その疑問に対する答えを司教に尋ねた。
「……?」
司教は初め、何を問われているのか理解が出来なかった。
一瞬、思考が止め、再度その問いを頭の中で反芻する。
少年が彼に問うた事。それは彼が現在行っている行動に対する素直な疑問だということに、思考が辿り着く。
「これはね……」
そして、その問いに答えを返す。
摘蕾。
小さい蕾を摘み取り、一つの花をより大きく、美しく咲かせる為の作業だと伝える。
「………」
その答えに少年は驚きの表情を見せ、そして再び考え込んでしまう。
何故、疑問を持つのか。それは、この行動を当たり前のこととして行っている司教には皆目検討の付かないことだった。
しかし、実際に少年はこの司教にとっては日常的に行われている行為を訝しんでいるのだ。
徐々に司教は少年が疑問に思う、その理由に興味を惹かれていった。
「これ………」
その疑問を問い掛けようとした時、少年が切り落とされた蕾の一つを手に取り、言った。
「これ……貰ってもいいですか?」
再び司教にとっては不可思議な願いを口にした。しかし、
「かまわないよ」
「本当ですか!?ありがとうございます」
今度は寸分の間も置かず、肯定の言葉が司教から少年に伝えられた。
司教がその願いを承諾すると、少年は一瞬驚いたような表情を見せたが、それは直ぐに喜びの笑顔へと変わった。
少年は礼の言葉を司教に伝えると、その地に落ちたまだ小さな蕾を拾い始めた。
その様子を、微笑ましさと疑問とが入り混じった複雑な面持ちで司教は何を言うでもなく見守っていた。
そうして掌に持てるだけの蕾を拾い集めた少年は再び司教に礼を言うと、くるりと踵を返し背を向けて歩き出す。
その背に、
「テイト君」
己の名を呼ぶ司教の声に、少年は足を止め、振り返り「なんですか?」と小首を傾げる。
「どうして、それが欲しかったの?」
司教は、ずっと己の中に蟠っていた疑問を少年に投げかける。
「……えっと…」
その問いは少年にとって想定外のものだったのか、言葉が途切れ、視線が宙を彷徨う。
「花瓶に活けたら花が咲くかな、と思いましたし……それに、」
「それに?」
「まだ、蕾なのに可哀想だなって思ったからです」
そう言って、少年はほんの僅か複雑な感情を宿した表情を浮かべ、微笑んだ。
得られた答えは、本当に、包み隠さない少年の思いで、それが直に伝わるからこそ司教にとってはそれが真実なのだというとこが判っていた。
「そっか……優しいね。テイト君は」
「そ、そんなことはないですよ!!だた何となくそう思っただけで深い意味は無いというか……」
少年は真っ赤な顔で慌ててていたかと思うと、「あ、ありがとうごいました」と再び礼を言い、今度は早足で庭園を後にした。
後に残された司教は足元に落ちた蕾を一つ手に取り、空に翳す。
可哀想。
少年のその言葉が己の中で反芻する。
そして、瞼を閉じ、
「本当に、優しいね。テイト君」
誰も居ない庭園の中。
その言葉の中に、ほんの少しの歓びが含まれていたことは、彼自身も知ることは無かった。
今はまだ咲く兆しの見えない花
それでもその小さな蕾は大輪の花を咲かせる日を夢見ている
End.
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