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摘蕾遊戯/side Darkness



ぱちん、ぱちん、と摘み取られていく物。
それは大輪の花を咲かせるはずだった物。
しかし、自ら摘み取ったそれは咲くことが出来ないまま、地に堕ち枯れ果てていった。


何度洗っても、纏わりついたこの臭いは消えない。
錆びた生暖かい、生命の暖かさを持っていたはずの臭い。それはいつしか赤黒い壁を形成し、俺を閉じ込めていた。
いや、閉じ込めていたというのは正しくない。
閉じ篭っているのだ。自らの意思で。
「……………」
意識の闇に飲み込まれる感覚。
それを振り払う為、蛇口を捻り、冷水を顔に浴びせ掛ける。
そうするとたとえ一瞬だったとしても背後から忍び寄るその闇を振り払うことが出来る。
そう、何時もと同じだ。戦場から帰還した直後は。
だから大丈夫だった。
意識を心の海の奥深くまで沈め、二度と浮上しないように鍵を掛けてしまえば良いだけなのだから。

「………?」
何時もと何ら変わることの無い、自らに与えられた部屋の窓際。
普段ならばそんな行動を取ることは無い。だか、今日ばかりは違っていた。
ただ、目に留まったのだ。
ほんの戯れのつもりで外界に広がる庭に目をやった時。
何やら薔薇の手入れをしているらしき庭師の行っている行動に、興味を引かれた。
ぱちん、ぱちん、とまだ花を咲かせていない蕾を鋏で摘み取っている。それも、沢山。
何故、そのようなことをするのだろうか。
まだ、これからだというのに何故、摘み取ってしまうのだろうか。
ざわざわと闇が背後から忍び寄る。ぴたりと背後に張り付いたそれは、じわじわと俺の中を侵食していく。
最初はだたその行為が気にかかった。知りたいと思った、その理由を。
それだけのことなのに、いつの間にか己の中に入り込んできた闇は俺がそれを知ることを拒む。
相反する二つの意識の狭間でその庭師から視線を逸らせずに居た時、かたん、と背後で人の動く気配がした。
「………!!」
反射的に身構え、扉のある背後を振り返ると、
「クレナ……」
この屋敷に居るだた一人の女中の姿があった。
ほっと息を吐くと同時に、人の気配に気付けぬ程、意識を奪われていた自分に驚く。
今までこんなことはほぼ皆無だったというのに。
そんな自分自身に疑問を持ちながらも、視線は再び庭に戻る。
俺が何かに興味を引かれているらしい、ということを悟ったのかクレナは俺の傍までやってきて、その視線の先を見やる。
そうして俺に視線を戻し、何が気になるのか?といった疑問を含んだ瞳を向けてきた。
「あの人は……何をしてるの?」
庭園の手入れをしている庭師を指差し、素直な疑問を口にする。
彼女は再度庭師を見、俺の手を取った。
―――あれは、ああして小さな蕾を切り落とすことで一つの花をより大きく咲かせる為に行っているのです。
そう、俺の掌に指で書き、疑問に対する答えをくれた。
「そうか……」
だから、お前は俺がその行為の意味を知ることを拒んだのか―――背後に居るはずのもう一人の俺自身に問い掛ける。
落とす者と落とされる物。
それはまるで、
「……俺と同じだな」





いつか、あの蕾たちも陽の下で咲くことが出来る日が来るのだろうか
ただ、見果てぬ夢を祈った





End.



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