中学校美術授業ノート

鑑賞授業考え方

美術鑑賞の授業は、どうしたらいいのだろう?

鑑賞の授業をすると、解説的な授業になってしまって、何かちがうと思っていました。作品に関する知識や情報が増えても、それだけでは鑑賞したことにはならないように感じました。鑑賞って何なのか。どうすれば、鑑賞ができるようになるのか。
いくつかの資料を参考に試みているのが、この一連の授業です。

中学校の授業で、美術鑑賞をする?学ぶ?!

この一連の授業を考える上で、下記の本をから、多くのことを参考にさせていただきました。
参考資料
「まなざしの共有」  アメリア・アレナスの鑑賞教育に学ぶ 上野行一監修 淡交社(2001) 
みる・かんがえる・はなす アメリア・アレナス 木下哲夫訳 淡交社(2001)

アメリア・アレナスは、美術館で鑑賞支援をしている人だそうです。その対話型鑑賞という方法を、中学校の授業に生かせないかと考えました。

その上で、中学校の授業に取り入れるために、心配になったのは次のようなことです。


■ 生徒は、こんなに活発に意見を言ってくれるだろうか                           
生徒は、学校の授業という場では「正解」を要求されています。そのため、間違っているかもしれないことをいうよりも、黙っていようとします。 
■ 美術館と学校の違いは何だろう                                        
作品選択は学校の方が自由ですが、鑑賞はほとんどを複製で行います。
鑑賞をする意欲の点で比べれば、美術館の鑑賞者より、生徒の鑑賞意欲は弱いと思います。
学校の授業では、指導して、評価をしなければなりません。 
■ どのくらいまで進めるだろう                             
美術館の鑑賞の会は1回を単位に工夫されています。中学校は3年間の、連続性を考える必要がありそうです。

授業の目標 ・・・・ 鑑賞活動の方法や態度を体験を通じて学ぶ

生徒の日常的な視覚体験である、テレビやゲームを「見る」ことと「美術鑑賞」は、ちがう「見方」を必要としていると思います。ほとんどの生徒にとって、美術鑑賞は初めての体験です。そこで、この授業の目標は、鑑賞活動のために必要な「見方」の方法や態度を、体験を通じて知って、学ぶことだと考えました。
作品や作者、美術史、製作技法などの知識や情報があることで、鑑賞が深まることもありますが、まず身につけておくことを、アメリア・アレナスの考えをもとに、まとめると

よく見ること

何が描かれているのか
全体と細部を見ること
何が起きているのか
どのように作られているのか    など

感じること

どんな感じがするか
それは、なぜか
作品のどこからそう思うのか    など

考えること

作品について知っていることはあるか
似ている作品、ものはあるか    など
以上のことを鑑賞体験を通じて知って、学ぶことが鑑賞の基礎になると考えました。
中学校の授業ならば、3年間を計画的に工夫して、鑑賞を学ぶことができます。
将来「主体的で自立した鑑賞」ができるようになる出発点として、鑑賞活動の体験を積み重ねる授業を工夫しようと考えました。

鑑賞活動をするための手立て ・・・・ Q&Aつくり

教師を中心に鑑賞を進行するのではなく、生徒がグループで意見交換をしながら鑑賞をすることを考えました。
意見を交換するためには、鑑賞した対象から質問=Qをつくって友達に尋ねて、答え=Aをもらうことで鑑賞を進めるという方法を使っています。Qはよく見たこと、感じたこと。考えたことからつくるわけで、答える場合も同様です。自分がわからないことを、友達に訊くこともできます。教師は必要に応じて支援をします。

なぜ「Q&Aつくり」なのか

1 自分のアタマの中で起こっていること(鑑賞活動)を整理する

鑑賞活動では、例えば左のA1~A4ような「A」がアタマの中に浮かんでくることで進んでいきます。
これには、右のQ1~Q4ような「(Q)」が省略されています。


A1 人がいる ←→ (Q1) 何が描かれているか
A2 左下に女の子がいる ←→ (Q2) どの部分に、何が描かれているか
A3 輪を転がしている女の子がいる ←→ (Q3) 何をしているところを描かれているか
A3 女の子は影のようだ ←→ (Q4) 何がどのように描かれているか

Q&Aをつくることで、この過程を区別しておくことができます。
「A」がわからないことでも、「Q」として鑑賞した見つけた結果を、意識に定着できることもあると思います。
反対に「Q」にはうまく表現できないけれども、「A」はできるという場合もあります。
友達に「Q」を出すときには、(Q)はさらに作り直される場合があります。どのような「Q」を出せばよいのかを考えることは、自分自身の鑑賞を吟味することになります。よい「Q」を作り出すことは、この鑑賞で学ぶ要点です。
あるとき、第1回の授業の説明をしたところ、ひとりの生徒に「それって、自問自答をするということですね」と言われました。鑑賞活動は、そういうことだと思います。


2 意見交換を容易にする

Q&Aを使っての意見交換は、子どもがよくやるクイズ遊びのようなものですので、生徒にとっては楽しい活動です。
自分から質問をする場合、すでに自分の感じたことは「Q」と「A」に分けられているので、異なる意見や判断を返されても、自分と「A」は違うけれども「Q」は受け入れられた、と感じることができます。お互いが抵抗なく、鑑賞活動を交流できる仕掛けです。また、相手の「A」を受け容れて、自分の鑑賞結果を修正していくこともやりやすくなります。

3 「Q」が鑑賞を進めていく

自分が思いもよらなかった「Q」に出会うと、鑑賞は一歩前に進む可能性があります。
ただし、教師が見通しを持って作品の深い部分を解き明かすような「Q」を出すのとは違って、生徒相互のQ&Aでは、遊びがすぎてウケねらいに走ったり、浅い鑑賞に終わってしまうこともあります。
それでも、自分たちが主体的に鑑賞をしているという体験は、長い目で見ると大切だと考えます。
興味深いのは「Q」は生徒の中に、経験として記憶されていくことです。前に有効だった「Q」は、別な作品の鑑賞でも試みられる場合が多くあります。よい「Q」をつくることや、覚えておくことで鑑賞を進めていく道具になります。

4 計画的に鑑賞活動を学ぶ

Q&Aという同じ鑑賞方法を、繰り返し使うことで、教師としては見通しを持って、鑑賞の授業を工夫できるようになります。
生徒にとっても、しだいに慣れて「できる」ようになっていく感覚が持てるのではないかと思います。
昨年まで、大まかには下の表のような流れで進めてみました。

作者・作品 授業の目標・要点
鑑賞授業1 ジョルジョ・デ・キリコ
街の神秘と憂鬱
Q&Aを使って鑑賞する方法を理解する..
自分の考えを発表する。友達の発表を聞く。
鑑賞授業2 マルク・シャガール
誕生日
グループでQ&A交換による鑑賞を体験する。
たくさんの「Q」をつくること。
鑑賞授業3 エドヴァルド・ムンク
叫び
グループでのQ&A交換による鑑賞に慣れる。
「A」の理由、根拠を考える。
学級全体でひとつの「Q」を考える。
身体を使って考える。題名について
鑑賞授業4 葛飾北斎
富岳三十六景 神奈川沖浪裏 他
4作品を比較して鑑賞する。
どこから見て描いたのか。
鑑賞授業5 小野亮二
Flower Butterfiy Seris05
実物の大きな立体作品を鑑賞する。
どこから見るのか。スケッチをする。
擬態語で表す方法。言葉で説明する。
鑑賞授業6 アンドリュー・ワイエス
クリスティーナの世界
鑑賞の広がりと深まり。
鑑賞に対応した評価を考える。
鑑賞授業7 パブロ・ピカソ
ゲルニカ
複雑な対象を、注意深く見る。
情報や知識と鑑賞の関係。

以上のような考え方で、鑑賞授業をしています。
やってみると、生徒から教えられることが多くありました。考えなければならないことも、多く残っています。

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