富嶽三十六景・・・
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B
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凱風快晴
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C
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山下白雨
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D
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神奈川沖浪裏
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A
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両国橋夕陽
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葛飾北斎 *実際の展示位置の左から順にA~Dでワークシート記入 |
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比較という方法について
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Q&Aによる鑑賞では、知識や情報は各自が持っている限りのもので進められます。生徒は自分の知識や日常体験、以前に鑑賞した作品のなどを思い出して、目の前の作品と比べて鑑賞を進めていくことになります。「比較する」ことは、鑑賞活動の重要な手段だと思います。今回は、記憶ではなく並列した展示作品を行き来して、比較する鑑賞体験をしてもらおうと考えました。
今回の鑑賞は、以前に「神奈川沖浪裏」1点でのQ&A鑑賞を、すませた上での比較体験です。
ワークシートを配ったら、まず今日の鑑賞の方法を説明して、「富嶽三十六景」について、以下のことを を話しました。
葛飾北斎作「富嶽三十六景」は五十点ぐらいのシリーズであること。
浮世絵版画という木版画なので、同じ作品が複数あること。
ここにある4つは、その写真版で拡大してあること。
彫る、刷る工程は北斎ではなく職人がしていること。
4つの作品の題名、特に「両国橋夕陽」は、学校のすぐ近くの風景を描いたこと。 |
実際の鑑賞過程では、2と3は平行して行われていました。
| 1 Q&Aをつくる ・・・・・ |
この段階は第1回同様に個人で進めます。
作品をよくみて「気づいたこと、感じたこと、考えたこと」を質問と回答のかたちにします。
ワークシート4に記入します。
時間短縮のため、4作品にそれぞれ1つずつQをつくる構成です。 |
| 2 回ってQ&A ・・・・・・ |
今回は展示壁面と机を行き来する鑑賞なのでグループをつくりません。
周囲の友達2人にQを出し、Aをもらいワークシートに記入して、それぞれの友達に自分のAを言います。 |
| 3 比較してQ&A ・・・・・ |
4作品比較のQを、2つつくって2と同じようにQ&Aを行い、最後に鑑賞文を書いて提出します。 |
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校内の展示作品を使う
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学校に広い廊下があり、上記の4点が展示されていました。この作品は、区の所蔵品のデータから、写真版で拡大プリントした物です。
廊下には机と椅子があり、鑑賞活動によい環境がありました。
付近は、北斎ゆかりの地ということもあり、富嶽三十六景は、生徒にはなじみのある作品です。特に両国橋夕陽は学校から間近の場所が描かれた作品です。 |
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比較鑑賞すると
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展示作品を見ることは、プロジェクタで投影した大きな画面とはちがって、生徒にとっては新しい楽しい体験になったようです。
比較作品は、BとC(凱風快晴と山下白雨)、AとD(両国橋夕陽と神奈川沖浪裏)の組み合わせがほとんどでした。
BとCは同じ山かとか、AとDは同じ船かといった確認のQが多く見られました。BとCの描き方がちがうのはなぜかという問いもありました。かなりの生徒が、つながった物語を4つの絵から読みとろうとしました。これは今までの鑑賞授業が影響しているのでしょうかそれとも、マンガの影響でしょうか。比較という新しい鑑賞の体験をして、鑑賞の要点に気づいた生徒もいました。最後の鑑賞文は、短い時間にもかかわらず、全体に充実した書き込みが見られました。「比較する」方法は、まだ工夫ができそうです。
鑑賞文の例をいくつか下に挙げます。
| 富士山をいろいろな形や色でかいてあって、キレイだった。でも、どんな色になっても富士山はすごく、わかりやすいと思った。4作品を比べて、一つ一つそのときの天気などが想像できて楽しかった。たくさんの色を使っていて見やすい作品と、少しの色を使ってかいた作品、どちらもちがった感じがしてよかった。50枚近く、似たようなえがあると知ったので、ほかの作品も見たくなってきた。そして比べてみたいと思った。きっと、富士山が大きくかいてあるものから、AやDのように波などが中心となり小さく富士山がかいてあるものもあると思う。私は大きく富士山がかいてある方が、比べてて楽しいし、富士山のキレイさがわかりやすいと思う。 |
| 葛飾北斎は、小さい富士山(富士山以外のものがたくさん)をかくときは、真ん中当たりに見つけやすいようにかいてある。また、富士山を大きくかくときは、右よりにして、空との関係を表していると思った。またいろいろな自然なものと、富士山をかいていることが4つの絵に共通するものだなと思った。また、季節によって変わる雲の形や空の色や、時間帯(太陽の位置)によって変わる富士山の見え方(ふもとが明るく緑がよく見えるようになっていたり、黒く見えたりする)がわかりやすく、はっきり、大げさに描いてあると思った。・・・ |
| 今回の鑑賞で見た4作品は、今まで何度か見たことはありましたが、改めてよく見てみると、AとD、BとCの絵の構図がよく似ていて、それでいてとても対照的な絵であることに気づきました。AとDの絵は水を間に挟んで遠くの富士山を描いていますが、Aは夕方の町に住んでいれば見ることがたやすいであろう日常的な光景が描かれています。また富士山は夕方のためか影のみ見えます。それに対してDの絵は、荒波の中の富士山という希な状況を描いたとても非日常的な光景です。富士山も、空がくもって暗い割にとてもくっきりと描かれています。BとCの絵では、まったく同じ場所から見たように描かれていますが、天気がまったく違います。Bの絵は快晴の明るい富士山を描いており、周囲の木々なども見えますが、Cの絵では、白雨と呼ばれる土砂降りの中の暗い富士山が描かれています。そのためか周囲の様子も薄暗く、よく見えません。・・・ |
| A日常の風景ですごく江戸っぽいふぜいのある場面だと思う。私には朝方の風景に見えた。旅に出る人々や仕事に行く人々を描いたものだと思う。江戸のしたまちっていう感じで、いい雰囲気をかもしだしている。B快晴=オレンジみたいな想像ができると思う。山が赤っぽいのはそんな太陽の色を表したかったのでは?C全体的に暗い雰囲気がある。雨で気分が浮かないみたいな情景描写だと思う。D嵐みたいな風景が迫力があって一番好きな絵です。嵐で高くなった波から、かいま見える富士山がすごくきれいだと思う。 |
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どこから見て描いたのか・・・生徒のQ
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神奈川沖浪裏だけを取り上げて、鑑賞授業をしていると「どこから見て描いたのか?」という生徒のQか出てくることがあります。興味深いQなので、この問題をみんなで検討することがあります。
まず、このQがよく出てくる理由を考えると、一つは絵の持っている迫力やリアリティが、生徒にこれは実際の様子を描いたと思わせるためだと思います。もう一つは、もしかすると一部の中学生にとっては、まだ実在と表現の関係はあいまいで、描かれたものは「そのように存在した」と認識されているのかもしれません。神奈川は今の横浜あたりであることや、富士山の位置関係を地図で示すと生徒の関心は高まります。
生徒のAは
| 1 |
陸上から見ている ・・・・・・・・ 丘の上・海岸・望遠鏡でなど |
| 2 |
船の上から見ている ・・・・・・ もう一艘北斎が乗った船がある・この人物の中に北斎がいるなど |
| 3 |
家で、見ないで描いた ・・・・ 描かれた人物の体験談を聞いた・目撃した人の話を聞いた・全くの空想など |
作品に感情移入して、物語を作り出すことから一歩踏み出して、作者の制作過程が鑑賞の対象になることは、鑑賞の広がりと考えられます。
今回の4点を比較する鑑賞では、関心が拡散して、別の方向に行っているのか、このQは出てきませんでした。もし、4つの版画の視点がそれぞれ異なることに気づけば、新しい鑑賞が開けるかもしれません。
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