中学校美術授業ノート

鑑賞授業7

ゲルニカ

パブロ・ピカソ

情報を扱う鑑賞

3年間進めてきた鑑賞の授業の最終回です。今回の作品は、大きく複雑な画面です。基本に返って、何が描かれているのか捜すために、ワークシートを変えて鑑賞しました。プロジェクタで映す画面だけでは、細部が不鮮明だったので、資料集や教科書を使ったところ、ゲルニカに関する解説が書かれていました。そこで、前半のQ&Aまで終わった時点で、資料集の解説を読み説明を加えて、情報を扱う鑑賞を試みることにしました。

ワークシート配布と教科書や資料集の準備ができたら、1-1~1-3までは区切らずに進めます。
1-1 何が描いてあるか・・・・・・・
     (物・事・部分・全体)
何が描かれているか探し出します。一見分かりにくい画面ですので、いつものよく見る活動を強化します。
1-2 どんな感じがするか・・・・・・ 描かれた「もの」や「こと」から受ける感じを確認します。
1-3 Q&Aをつくる、する・・・・・・ 今回の鑑賞は特にグループをつくりません。雑談の延長のようなQ&Aです。
周囲の友達2人にQを出し、Aをもらいワークシートに記入して、それぞれの友達に自分のAを言います。
2   みんなで鑑賞 ・・・・・・・・・  教科書や資料集にあったゲルニカの解説を読んで聞かせます、
鑑賞文を書いて、当初の計画より短い時間になりましたが、自由に意見発表をしました。
ワークシートを提出して終了。

ゲルニカについて説明は

資料集の解説と私の説明は、だいたい以下のようなものです。
作者はパブロ・ピカソ 題名はゲルニカ
ゲルニカはスペインの都市名で、1937年4月にスペイン内戦の中でナチスドイツなどにより空爆されたこと。
スペイン人のピカソは当時パリにいて、それを知って、それまで描いていたパリ万博への出品作を変更して、1ヶ月ほどでこの絵を描いたこと。
絵の大きさ
当時はインターネットもテレビもない。写真はある。自動車や鉄道はある。新聞はある。ラジオは?電話は?

この一連の授業で目標にしているのは鑑賞活動を体験的に知って、学んでいくことです。その方法として、作品をよく見て、感じて、考え、友達と意見交換することだけを繰り返してきました。事前に知識や情報があると、生徒はそれを「正解」として、自分なりの鑑賞がしづらくなってしまうと思ったからです。とはいえ、鑑賞をより深めていくためには、知識や情報の扱い方も学ぶ必要があると思います。さらに、作品や作者、時代背景や美術史の知識などについて、自分で調べたり、情報を集めたりする方法を学ぶことも必要だと考えます、
今回、生徒には、最初に解説を読んだ者もいました。それ以前に、かなりの生徒が、ピカソの絵だということは分かったようでした。中にはゲルニカを知っている生徒もいましたが、ほとんどの生徒は、Q&Aが済んだ時点で解説を聞き、知識情報を得ました。

生徒は情報を聞いて、どう鑑賞したか

生徒の鑑賞文には以下のようなものがありました。鑑賞文は、解説を聞いてから書いています。
まず、私が絵を見て思ったことを書きます。子供も大人も、牛などの動物、花など全てが殺し合っているのか、それとも絵にはない他の誰かに殺されているのか、どちらか分からないけれど”死”という文字をこの絵を見て感じました。苦しくて、悲しくて、”助けて”って言っている様に私には見えます。
そして、絵の説明を聞いて思ったことを書きます。戦いというより殺されているように見えます。無差別という殺され方で、死んでいく人の悲しさや、苦しみ、痛みが絵に出ているんだと思いました。・・・
今回は説明の前に自分で考えることが先でした。だから自分で考えるのが大変でした。見たときは、こわい顔をして、助けを求めているような人たちがたくさんいて、牛や馬も鳥も書いてあってすこし怖かったです。また、ランプのひかり方が目のように光っていて印象的でした。ランプが使われているのに、暗い感じがして不思議な感じでした。そして先生から説明を受けると、このように描かれていた理由が分かりました。それはピカソが第二次世界大戦の悲劇を表している代表作だということです。・・・
この絵は全体的に一瞬みてみると、にぎやかだと思ったが、細かく見てみると、あらゆるところに普通ではないものがたくさんあった。・・私がこの絵で一番注目したところが、床に描いてある「矢印」の記号。私はその矢印が気になり、つい目で追ってしまったほどだ。追った先には特に目立つものはなかったが、後から、みんなが矢印の方向に向かっているのが分かったので、何かを意味しているのだと感じた。・・・私は後に「戦争」を表している絵と分かってから、矢印の意味を感じ取ることができた。みんなが矢印の方向を向いていることもあり、この矢印は「こっちに行けば助かる」という印なのではないかと感じたのだ。しかし、この矢印は間違ったことを言っており、みんなをだましているようにも感じ取れた。なぜならば、この絵の一番右側の人間が、すぐ横の扉のようなものに向かっているように見えるからだ。本当はこちらの扉が本当の出口で助かる道であり、向こうの矢印は人をだましているのである。私はこう思ってから、この矢印は戦争の本当の恐ろしさを表しているように思えた。・・・
この絵はピカソが見たゲルニカという場所で起こった悲惨な出来事をありのままに描いたものだと思います。最初に見たときは「作者の想像の世界のことなんだ。」と私は解釈しました。けれど、この絵の説明を聞いているうちに、第二次世界大戦の直前に起こった悲劇がテーマになっていて、そのときのゲルニカの悲惨さを知ると、なぜだか、本当のことのように見えてきて、この絵が伝えたいことが少し理解できた気がしました。・・
この絵の中で色々なものが入り乱れていて、特に動物がよく目に入る位置に描かれていたから、動物が人間を殺そうとしている世界だと思った。人間の心の中にいつか、人間が消えてしまうのではないかと思う気持ちが表れた絵に思えた。・・・白黒を基調として、モノクロで描いたのはすさんだ世界を表したかったと思った。・・・
空襲を受けた町の絵だと聞いたけど、全く空襲をイメージさせるものがない。絵を見て「悲惨」+「痛み」というのは感じるけど、日本の空襲の絵のような感じはない。日本の空襲の絵はたくさんの人が亡くなったり、何もかもが燃えたという、見たり聞いたりした情報が入っているけれど、この絵には人だけではなく、馬や牛も出てきているし、それに一つの部屋で出来事が起こっている。だからスケールの大きさや、直接の悲惨さは感じない。それでも悲惨さは感じる。絵がリアルでないことによって余計にそういったものが伝わってくる。描くとき写真を見ていないというのもあるとは思うけど、普通はこんな絵は描けないと思う。そういうところにピカソの「怒り」というものを感じた。
生徒の鑑賞文での知識や情報に対する態度は、以下のようにに分けられるようです。
自分の鑑賞中心で知識や情報は扱わない
自分の鑑賞と知識や情報を照合、混合 2-1 自分の鑑賞が主、知識情報が従
2-2 知識情報が主、自分の鑑賞が従
自分の鑑賞と知識や情報を併記
知識や情報に対する意見、質問 4-1 自分の鑑賞に基づく
4-2 自分の鑑賞に基づかない
知識や情報中心で自分の鑑賞を扱わない

このうちと4と5はごく少数です。ほとんどは2と3でした。
ほとんどの生徒が、情報=正解とするのではなく、自分の観察や感想を使って鑑賞文をまとめようとしました。今回は情報を聞いた時点で、すでに自分なりの鑑賞結果持っていたので、情報と照合したり、併記して考えを整理する記述が多くなったと思います。先に、知識や情報を知っていたとしても、同じようにできるかどうかはわかりません。
今のところ、情報や知識をうまく使って、自分の鑑賞を深めていくためには、、まず作品をよくみた後で情報を提示して、その情報は別枠に記入できるような、ワークシートを工夫してみることを考えています。それによって両方を比べて検証し、鑑賞を深めることができるのではないでしょうか。

鑑賞の深まり・・・・・自分の鑑賞に基づく意見

この鑑賞では、ほとんどの生徒は情報を、自分の鑑賞と照合したり混合した鑑賞文をまとめるか、情報と鑑賞を併記してまとめました。何人かの生徒は、情報について意見や質問を書きました。その中で上の鑑賞文の表の、6の生徒は、自分の鑑賞に基づく根拠を挙げて意見を述べました。

今回の授業では最後に、自由な発言を短時間持ちました。そのとき、6の生徒は、「この絵には飛行機も爆弾も描かれていないことから、ゲルニカの空爆を描いたのではないのじゃないか?」という意味の発言をしました。後で鑑賞文を読むと、日本の空襲を描いたものとの比較から気づいたことが分かります。(学校は東京大空襲があった地域にあります) その文では「でも、悲惨さは感じる」とも書いています。

私自身その発言を聞くまで、解説文などから「ゲルニカの悲劇を描いた」作品として、ぼんやりと認識していたので、この発言には驚きました。改めて作品を見ると、確かに画面にはゲルニカの文字も、それを個別に示すようなものも描かれていないように見えます。もっと情報を調べていけば、わかることもあるとは思いますが、ここでは情報を使いつつ、作品に沿って鑑賞を深めることが目標です。
授業でこの発言が出たとき、鑑賞を深める大切な要点だと感じたのですが、うまく生徒への質問=Qが見つけられずに、授業が終わってしまいました。後で「ゲルニカ(都市)の空爆を描いた」と「ゲルニカと題された作品を描いた」の差を考えてみればよかったのではないかと気づきました。Qとしては「ゲルニカにはゲルニカが描かれていないとしたら、何が描かれているのか?」と訊いてみればよかったと思います。(卒業前の授業で、その機会はありませんでした)

鑑賞における情報や知識の扱い方については、今後の課題の一つです。調べ方を学ぶこと、友達とのQ&Aの延長として、調べた資料と対話しながら、自分の鑑賞を深めていくことなど工夫していきたいと思います。
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