あまいいちゃいちゃ
(「あまい独り占め」おまけSS)








 部屋の中に晶真っぽいものが増えたな、と思うとき、貴裕はなんともいえない幸福な気持ちになる。
 緑色のラインの入った歯ブラシ、オレンジ色のTシャツ、猫柄の下着、ピンクの水玉のクッション、水色のスウェット。
 貴裕なら絶対に選ばない明るい色は、目に入ると晶真の笑顔を思い出させてくれる。
「お風呂上がったよー」
 コンパクトなつくりのワンルームは、バスルームのドアを開けるとすぐに顔が見える。白いドアから顔を出した晶真は、さっきと同じ服をちゃんと着ていて、貴裕は少しだけがっかりした。
「やっぱり、帰るの?」
「帰るよ、そう言ったじゃん。……貴裕のせいでシャワー浴びなきゃいけなくなったけど」
 やや恨めしげな眼差しで貴裕を見て、それでも晶真は貴裕の前まで来てくれた。床に座った貴裕の頭を、上から、さらりと撫でる。
「拗ねた顔するなよ」
「拗ねてない。残念だなと思って――でも、わかってるよ」
 こちらに――貴裕の家に入り浸りにならないように、晶真が気を使っているのはよくわかっている。貴裕はかるく微笑んで見せて、晶真の腕を引いた。
「まだ時間大丈夫だよね。座って」
「座ってって、うわっ」
「俺の膝の上ね?」
 引っ張られてバランスを崩した晶真の身体を抱きしめて、貴裕はくるりと彼の向きを変え、後ろから抱きしめ直す。首筋に顔を埋めると嗅ぎ慣れたシャンプーの匂いがして、もったいないなと思った。晶真の匂いのほうが、いい匂いなのに。
「っ……あんま、そこ、くっつかないでよ」
 困ったように、晶真はクッションを抱きしめて俯く。耳やうなじがほんのり赤いのは、シャワーを浴びたせいだけではないらしかった。照れられるとどうしてこんなに嬉しいのだろう、と貴裕は思う。
 シャワーを浴びる前だってそうだった。キスされて、だめだよと言いながら逆らえなくなっていく晶真の、恥じらいを含んだ色っぽい表情は、多少残っていた貴裕の理性を粉砕してしまったのだから。
(あんな顔されたら止まれないよね)
 挿入しなかっただけ、褒めてもらってもいいくらいだ、と貴裕は思いながら、晶真のうなじに顔を埋めた。
「明日までくっつけないから、晶真を補給しときたいんだ」
「んっ……補給、って……ん、ぅ、ちょっ……」
 甘く感じる皮膚にそっと唇を触れさせるとびくりと晶真の身体が強張って、触れた場所がさっと熱を帯びた。やわらかく吸ったり、かるく舌で押したりを繰り返しながら、キスだけだよ、と貴裕は囁く。
「えっちなことは、さっきさせてもらったから」
「っと、だよ……おかげで、シャワー浴びなきゃ、いけなくて……ん、ふ」
 息が淡く上がっている。クッションに顔を押しつけるようにして声を殺しているのが殊の外可愛くて、貴裕はキスをやめた。かわりに、あやすように膝を揺らす。
「そんなに硬くならないでよ。リラックスして、俺によっかかっていいよ」
「……なんかやだ」
「俺がくっつきたいんだよ、兄ちゃん。ねえ、いいでしょ?」
 耳をくすぐるようにして低めた声でねだると、またぴくりと震えた晶真はやがて、大きくため息をついた。
「兄ちゃんって呼べばなんでもすると思ってるだろ……」
「そんなことないよ兄ちゃん」
「嘘ばっか。ずるいよ、貴裕」
 不満げな声でぶつぶつ言いながら、晶真の背中が貴裕の胸にくっついて、ためらいがちに重みがかかる。俺やだよこんな格好、と呟く晶真の頬は真っ赤で、貴裕は彼から見えないことをいいことに微笑んだ。可愛い。愛しい。
 この部屋に晶真の色のものが増えるのは嬉しいし、それを見て幸福な気持ちになれるのもいいけれど、「本体」にはやっぱり敵わない。
「明日も来てよ。それとも、俺が実家に行く?」
「……仕事、だから、帰りに寄る」
 ぽそっと言って、晶真はちらりと貴裕を振り返った。「明日は絶対、えっちなことなしだからな!」
「――はーい」
 そんなこと言っても、ねだれば結局許してくれるくせに、とは声に出さず、貴裕は精いっぱい殊勝な表情で頷いてみせた。
 どうせ我慢なんかできないし、それは晶真だって同じなのだ。その証拠に、こうやって抱きしめれば振りほどいて逃げたりしないで――むしろ名残惜しそうに、身体を預けてくれるのだから。 






END



カバー絵SSでした。
照れて困っている晶真が可愛くて、そして後ろから我が物顔にがっちり抱き込んでいる貴裕が可愛くて(笑)このシーンを書きたいなあ!と思ったので、見たまま、です。
独占欲の塊の弟のラブっぷりを楽しんでいただけたら嬉しいです!



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