休日は犬とお片づけ
(『僕の犬のドSなご奉仕』おまけSS)









「休日は犬とお片付け」

「まず、洗濯物からにしましょうか。たまってる洗濯物があったら、洗濯機に入れてください。洗ったものはたたむか、クローゼットにかけて。それが終わったら、資料をあつめてひとまとめにします」
 同じ種類のものはまとめてやると片づけやすいですよ、と城田は言う。
 片づけがとにかく苦手な由鶴は、言われるまま頷いて、ランドリーボックスの中身と、入りきらずに散らかしていた洗濯物を洗濯機につっこんだ。
「由鶴さん、これはたたみますよ。この山は洗ってあるやつでしょ」
「うん。そう――って、ちょっと待ってそれ!」
 それは下着とかが入ってるはず、と思って慌てて振り返ると、ちょうど城田はパンツを手にしていた。かあっ、と顔に血がのぼる。
「しっ下着は自分でする!」
「俺はたたみたいですけどね、パンツ。あと靴下も」
 見せびらかすようにぴらりと広げる城田はたちの悪い笑みを浮かべている。「まあ途中でむらむらしてにおい嗅いじゃうかもしれませんけど、汚しませんよ?」
「だから、自分でやるってば!」
 ばっと奪い返して、由鶴はパンツを背中に隠した。恥ずかしい。なのに、城田は楽しそうにくすくす笑う。
「もっとすごいこともしてるのに、下着が恥ずかしいなんて変なご主人様ですね。今度命令してくださいよ。僕の下着を洗ってこい、って」
「絶対いやだ」
 バカなことを言いつつ、城田は散らかった雑誌類を手早くあつめていく。由鶴も急いで一週間分の洗濯物をたたみ、干しっぱなしのシャツ類をクローゼットに入れる。もう着ないものは城田に言われたとおり基準を決めてゴミ袋に入れると、見違えるくらいスッキリした。
 それから城田のあつめてくれた資料用の雑誌などを分類し、棚に入っていた古い分はまとめて縛り、あいた場所に新しいものを入れ直す。
 部屋が片付いたあとは買ってきたサンドイッチで昼食兼休憩を挟んで、キッチンを片づけた。流しと冷蔵庫の中身を整理して、綺麗に磨く。
 ベッドのシーツもはがして一度目の洗濯が終わった洗濯機に入れ、バスルームの小物を整理して、掃除機をかけたら終わりだった。
「すごい……1日で片づいた」
 自分でやろうとすると、たいていは資料類をなんとかしようとする途中で挫折してしまうのに、今日は一人ではなかったせいか、嫌になることもなく終えられた。
 今までになくすっきり片づいた自分の部屋と、片づけられた自分にけっこう感激して、由鶴は城田を見上げた。
「ありがとう」
 城田がいなければ、今日もきっと途中で挫折していたと思う。そう言おうとして、由鶴ははたと困った。
 今回はいい。でも、今日の片づけが完遂できたのは城田がいたからだ。それに、いつもは片づけても、二日もすれば元どおりの惨状になってしまうのだ。
 来週もう一回、自分だけでこの状態に戻そうとしてできるか、由鶴には自信がまるでない。
「由鶴さん集中力があるから、その気になればできるんですよ」
 城田は優しい表情でそう言ってくれて、ふっと壁の時計に目を向けた。
「もう四時ですね」
 言われて、由鶴は再びはっとした。
 そうだ、このあとはどうするんだろう。片づけのお礼に食事はおごるからといえば、食事は一緒にできるだろうけれど、問題はそのあとだ。昨日は1日城田の家でごろごろ(そしていちゃいちゃ)していたし、明日は会社だから――食事をしたら、「じゃあまた明日」と別れたほうがいいのだろう。
 食事をしたらそれで終わりだ、と思うときゅうっと胸が痛くなる。
 次はいつ、こんなふうに二人で過ごせるんだろう、と考えて、恋人同士ってどんな間隔でどんなふうに会ってどうすごすのか、まったくわからないことに気がついた。
 どうしよう。
 どうしたらいいか、全然わからない。由鶴は困って部屋を見回した。
「えっと、お茶とか飲む? っていってもお湯も沸かせないから、なにか買ってこなきゃだけど」
「そうですね。せめてポットくらいは買いましょうよ」
「うん、そうするけど――」
 買ったらまた来てくれる? ――などと言えるはずもなく、由鶴は口ごもった。
 来週はどうするんだろう。デートとか行くんだろうか。それとも、今週たっぷり一緒に過ごしたから、来週はばらばらとか? 城田にはなにか予定があるかもしれないし。
「えっと、そう、ポット買うのはいいけど、この部屋、長持ちするかなあ。今までも、週末はそれなりに片づけてたんだよ。でも平日にどうしても散らかっちゃって、綺麗なの長持ちしないんだよね」
 言いながら、これじゃまた手伝ってって言ってるように聞こえるかなと恥ずかしくなる。そのとおり、また家に城田に来てほしい、と由鶴は思う。部屋の片づけは手伝ってくれなくてもいいけれど、来週会えないかもしれない、と思うとそわそわしてしまう。
「も、もちろん綺麗にしようとは思ってるけど!」
 黙ったままの城田がいたたまれなくて急いでそう言うと、するっと抱き寄せられて、由鶴は息を呑んだ。
 腰を抱いた城田が、楽しげな表情で見つめてくる。
「片づけが苦手な人って、寂しがり屋らしいですよ」
「……そ、そうなの?」
 離れたくないと思っているのがばれた気がして、耳まで熱くなる。城田は唇だけで微笑んで、指で耳に触れてくる。
「……、あ、」
 かるく耳朶を撫でられただけで、期待するように身体が震えた。一昨日の夜からさんざん愛撫された記憶が蘇る。
「でも俺がいるから、由鶴さんはもう寂しくないですよね」
 つうっと指をすべらせて、城田が囁く。「だから、きっと部屋も、片づいたままですよ」
 自信たっぷりの、余裕に満ちた声だった。どう振る舞っていいかわからない自分とは正反対の、堂々とした感じが悔しくて、由鶴は城田を胸を押し返した。
「俺がいれば、とか自分で言うなよ」
「ん? 寂しいですか? こうしてるだけじゃ足りない?」
 きゅっと由鶴を抱く片腕に力を入れられて、密着する下半身にどきっとした。
「そ、そういう意味じゃなくて!」
「ああ、キスですか。ごめんね、察しの悪い犬で」
「んっ……ん、……ん」
 にやりとした城田にひどく自然に唇をついばまれ、逃げようとして、由鶴はくたんと力を抜いた。というか、抜けた。舌は入れずに、強く唇を押しつけあうだけのキスが、じゃれるみたいなのに胸が高鳴って、なにも考えられなくなる。
「キスしたあとの由鶴さんの顔、すごく可愛い」
 唇をかるく吸って離れた城田が目を細めた。
「とろってなってて、口元が緩んでて、無防備でさ。もっとして、って顔」
「……そんな顔、してない……」
 恥ずかしくてそう言い返したけれど、逃げられなくなっている自覚はあった。このまま城田の腕の中にいたら、どうなるか想像はついているのに、身体が動かない。
 力なく睨むと城田は指で唇を撫でた。
「手伝ったご褒美くださいよ。あとでくれる、って約束してくれたら、さきに飯食ってもいいですよ」
「あ、あとって?」
「これから外に出て、のんびり飯食って、帰ってきたあと、綺麗になったベッドで」
 ふわっと声が耳をくすぐって、由鶴は首を竦めた。ぞくぞくと背筋が震えるのは、きっと城田に伝わってしまっている。その証拠に、城田の手は思わせぶりに尻のほうに降りていき、唇が耳に触れてくる。
「片付けに5時間くらいはかかってますよね。同じ時間だけはたっぷり由鶴さんを舐めたいな」
「……そ、んなにしたら、ふやける……し、朝まで、かかっちゃ、う」
「大丈夫、由鶴さんが眠る時間は確保してあげます。ね?」
 ちゅ、ちゅ、と何度も耳にキスされて撫でられて、「仕方ないからあげる、って言ってみてよ」と言われたら、もう由鶴は逆らう気になれなかった。
(朝……まで、一緒でいいんだ……)
 また明日も、城田と一緒に目覚められるんだ、と思うととくとくと心臓が音をたてて、ふわふわ飛んでいきそうな心地のまま、口をひらく。
「しかたないから、ご褒美あげる」






END



『僕の犬のドSなご奉仕』の本編の最後の、翌日のお話です。
まだ舞い上がってる感じの由鶴と、そんな由鶴が可愛くてたまらない城田でした。
いちゃいちゃはずーっと書いていても飽きない不思議。
あっえっちも飽きません。



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