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死人探し屋ー黒電話
「今日はどんな相談者なんだ?」 
 受話器を置いた直後に背後から声がかかってきた。
 開き放しのドアの方を見ると、数分前に仕事に行ったはずの兄である豹がいた。
「…仕事に行ったんじゃなかったのかよ」
 そう聞くと、背広姿の豹は苦笑いを見せながら答えた。
「途中で今日は非番だって事に気付いて帰ってきたんだ」
 呆れた。
「仕事が好きなのはいいけど、休日の時はちゃんと休めって言ってるだろ」
「ん〜、前日まではちゃんと覚えているんだけどな〜…」
 25歳の豹は、俺達2人が住んでいるマンションの近くにあるボディーガード派遣会社で働いているボディーガードだ。
 好きでなった職業で、その若さで主任になる程の実績を持ち多くの信頼を得ている。
 働き者なのはいいが、 今のように一般人より少ない休日となる非番の日まで会社に行こうとするようなおっちょこちょい人間だ。
「豹兄は本当休日知らずだ………っ痛」
 俺は呆れながら電話を椅子の上に置き、いつものように背伸びをしようとした。
 だが、電話を置いた直後に右目に強い痛みが走った。
 電話の相手をした後は必ずこうなるのだが、今日はいつも以上に痛い。
 3回連続で仕事をやったせいだ。
 思わずその場にうずくまってしまった。本当に痛い。痛すぎる。
 豹は唸っている俺に呆れながら俺の肩をポンッと軽く叩いた。
「おまえも程々にな」
 そう言って、豹は背広を脱ぎながら部屋から出ていった。
 程々に…したいのは山々だが、この仕事は俺の都合も関係なしにくるから無理な話だ。

 俺の仕事の名称は“死人探し屋”と言う。
 こう聞くと何だか胡散臭いような詐欺業者のような感じがするだろう。
 警察で取り扱っている事件の中で、行方不明となっている被害者や加害者がいる事件がある。
生死問わず未だに見つからない事件がまだまだ多いようだ。
 そこで死人探し屋の仕事となるのは、死亡している事が判明・推測されている人物の居場所を探し出す事だ。
 同業者はそれ程多くはないが、それぞれの方法で死者を探している。
 俺の場合は、不明者が使用していた電話を使って死者と話す。
 これは2年前に病死した親父と同じ方法で、何故親父が電話を使って死者を探していたのかは今になっても分からない。
 ある程度の霊力がなければ出来ない方法のようだが、俺は難なくこなしている。
 この仕事には負担がかかる。
 死者と接する為にこちら側の生命力が無意識に吸い取られてしまうのだ。
 親父はそれが原因で病死した。
 俺は親父よりも霊力が高いが、それでも仕事後は右目が針に刺されたように痛くなる。

「ほらっ」
 と言われて豹が渡してくれたのはアイスシート。
 冷凍庫には数十個のアイスシートをストックしている。
「ありがと」
 リビングのソファーに座り、ズキズキと痛む右目にアイスシートを当てた。
 冷たさが幾分か痛みを抑えてくれる。
「その人は死んで何年になるんだ?」
 俺が痛みに唸っている間に私服に着替えていた豹は、俺が持っている写真に向かって聞いてきた。
「…事件が発覚して犯人が自害してからだから…2年は経っているな」
 写真に写っている女性は今から約2年前、仕事帰りに犯人に連れ去られ、両親が捜索願を出した数日後にナイフで自分の胸を刺し自殺した犯人を警察が発見した。
 犯人の側には遺書が残されていて、今までに約30人もの女性殺害事件に関与していた事が書かれていた。典型的な快楽殺人者だ。
 しかし、その遺書には行方不明となっている女性の居場所は書かれていなかった。
 警察は全力で捜しているが、犯人と関係がある場所を探しても一向に見つからない。
「身勝手だよな、人殺しを楽しむ人間は」
 こう言う殺人者がいるから、俺のような仕事人が存在する。
 素直に喜んでやれるような仕事ではない。
「父さんもよく言ってたな。人間皆身勝手だって」
 豹は俺の向かい側のソファーに座り、テレビの上に置いてある家族写真を見ながらしみじみと言った。
確かに、親父は毎日のように愚痴っていた。
「…もっと話を聞いておくんだったな、探し屋について」
 親父が死ぬ前までは、俺は普通に中学校に通っていた。
 そして普通に高校進学を考えていた。
 でも、親父が倒れてもう仕事が出来ないと分かった時、
何の迷いもなく俺は親父の仕事を受け継ぐ事を決めた。
 親父の仕事は家系である原家代々から受け継がれている伝統的職業だ。
 それをここで途絶えさせるわけにはいかない、そう思った。
 高校進学を諦め、入院していた親父からやり方を教わった。
「まだ分からない事でもあるのか?」
「そりゃーあるさ。仕事をやり続けていくと分からない事が沢山出てくる。まあ、親父だったらそんなの自分で考えろって言いそうだけど」