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死人探し屋ー玩具電話
 俺の名前は高橋狐(たかはしきつね)。多分20歳だ。
 この年齢だったら、大学とか専門学校とかサラリーマンとかフリーターの方が多いだろう。
 俺の仕事は逸脱している。
 高橋家は代々『死人掘り屋』を営んでいる。
 言葉通りに行方不明となった死体を確認出来るまで掘って取り出す仕事だ。
 掘り出すのが仕事であって、探すのは仕事ではない。
 『死人探し屋』と言う職人に死体がある場所を特定してもらってから俺の仕事となる。
 俺の『死人探し屋』の相棒は、原猫(はらびょう)と言って、俺より3歳年下。
 年下だけど、全くそんな態度は示さない可愛げない相棒だ。
 可愛げない態度でいる理由は、俺の力仕事とは正反対で、精神的な仕事だからだろう、と俺は思う。
 高い霊力を使って、幽霊となった死人と会話し、その会話で居場所を見つけ出すんだけど、
困った事に幽霊は時間が経過していくと、故意に埋められた自分の遺体場所を忘れてしまうんだ。
 死人と長時間接すると体力も精神力も減る為、猫は機嫌が悪いか体調が悪いかのどちらかだ。
これの繰り返しだから、気が休まる暇なんてないんだろうな。

 珍しく3週間程死人掘りの仕事が来ない。
直感で猫の所に死人から依頼が来るタイミングが分かる俺だが、それが全くない。
仕事がない事は猫にとっては良い事だろうけど、逆に心配になってくる。
プラスして俺も暇すぎるので、様子を見に猫が住んでいるマンションに向かった。
猫は、兄貴の豹と一緒に暮らしている。25歳のボディーガードマンで、仕事が好きすぎて休暇を 忘れてしまう事がしばしばある。
で、その二人が住んでいるマンションだが、とても疑問に思っている事がある。
実はペット専用マンションで、原兄弟以外の住人達はペットと一緒に暮らしている。
屋上にはペット達を自由に遊ばせる場所であるドッグランがあり、
部屋もちゃんとペットの事を考えて設計されている最先端なマンションだ。
ペットを飼っていない兄弟が何故このマンションに住んでいるのか、と豹に聞いた事がある。
豹は苦笑いを見せながら『会社に一番近いって事もあるが、一番の理由は猫だな』と答えた。
話によれば、猫は名前とは反対に犬が大好きで、どんな犬を見ても普段とは考えられない程の明るい表情を見せるらしい。
当初はかなり疑わしい情報だったけど、実際犬を見ている猫はずっと笑顔だった。
せっかく良い環境にいるのだから犬を飼えばいいのでは?と豹に続けて聞いてみると、
『猫さえ良ければ俺はいつ犬を飼ってもいいんだが…』と言葉を濁らせた。

原兄弟が住む部屋に行ってみたけど、珍しく留守だった。
豹がいない事は当然として、ひきこもり状態の猫までいないのは珍しい。
ふと考え、ドッグランがある屋上に行ってみた。
ドッグランには10匹以上の様々な犬が走り回っていて、飼い主達は楽しそうに談話していた。
数カ所にベンチがある中で、ドッグランの一番奥にあるベンチに猫が座っていた。
動物を引き寄せるのが上手い猫の周りには、5匹の犬達が集っている。
「ネコ〜!」
数メートル先でそう呼んでみると、猫以外に犬達も一斉に俺を見たので一瞬戸惑った。
「何もない時に来るなんで珍しいな、狐」
「何もないからこそだ。ひきこもり人間なネコが倒れてないかと思って見に来たんだよ」
「見ての通りだけど」
犬達とじゃれ合ってる為か、いつもと違って突き放すような言い方ではない。
今の光景だけを見れば、猫も普通の少年と思えるんだけど。
「ネコさ〜、犬飼わないの?」
単刀直入に聞いてみると、猫は犬の頭を撫でながら黙って俯いた。
「豹兄は了承してるし、良い場所に住んでるんだしさ〜」
「…でも」
顔を上げた猫は、何とも言い難い表情で言った。
「…また失うかもしれない」