さすが山だけあって、広さは並じゃなかった。
でも、笹藪は無く、広葉樹ばかりの森だったので比較的歩きやすい。
それでも運動不足な猫にはきついようだ。
「おーい、大丈夫かネコネコ」
「何で…こんなに…急なんだここは」
「山なんだから当たり前じゃん」
猫は息を切らせながら俺の後ろをゆっくりと付いてきている。
そんな時。
「ワンッ!」
「お?」
ようやく坂から平らな道となった所に、小さな犬が座っていた。
猫の知識からすれば、赤毛の柴犬と呼べる。まだ手に持てるサイズだ。
「ああ、おまえだな。シロの側にいたのは」
「ワウ〜」
やはり犬は犬好きな人間が分かるのか、子柴犬はトコトコと歩いて猫に抱きついた。
猫も疲れを忘れたかのように笑顔で子柴犬の頭を撫でた。
「俺達を迎えに来たのか?」
「ワンッ」
一声鳴いた後、猫から離れた子柴犬は、道を外れた草むらに入っていった。
「ワンワンッ」
「良い案内役じゃん」
「銃を持った殺人犯もいるかもしれないけどな」
げっ、そうだった。
俺達はなるべく音を立てないように子柴犬の後を追った。
慎重だったんだけど、無駄だった。
前を歩く猫がピタッと止まった。俺は小声で話す。
「どうした?」
「見ろ」
猫の肩越しにのぞきこんでみると、前にいる子柴犬の目の前に1人の男性が倒れていた。
背広姿の30代程の男性で、頭と胸に銃を撃ち込まれていて死んでいた。
どうやら、あの電話越しに聞いた銃声の被害者のようだ。
「おいおい、マジかよ。こんなにもあっさり見つかるもんなの?」
「放置してるって事は、まだ銃殺続行中って事だな」
子柴犬が死体を避けて再び歩き始めた為、俺達も死体を踏まないように跨いで歩いた。
ようやく草むらから道に出た直後。
「待てっ!」
猫が飛び出したと同時にバンッと言う銃声が辺りに鳴り響いた。
前にいる子柴犬を急いで抱き上げた猫の左肩に貫通した。
銃弾が飛んできた方向を見ると、
死体と同じくストライプ柄の背広を着た30代の男が拳銃を構えて立っていた。
「何者だ」
「…無節操なもんだな、あちこちに死体を埋めやがって」
「警察関係者か。運が悪かったな、私に出会ってしまって」
男が再び銃口を猫に向けた時、どこからかあの賑やかな音楽が流れてきた。
猫が持ち歩いてたあの玩具電話だった。
子柴犬を庇う時に勢いよく落ちて転がり、5メートル先の道端にあった。
その電話が鳴っている。
「な、何だこの玩具は!!」
男は俺達よりも先に玩具電話を撃ち抜こうとした。
だが、拳銃の引き金が何かの力によって全く動かず、微妙に焦っている。
逆にいつもの余裕を見せたのが猫だ。
「どうやら、あんたはここで7人の人間を殺して、5匹の犬も殺したようだな」
「な!?何故それをっ」
「全員あんたを取り押さえているんだよ。許せないって言いながら」
猫の言う通り、2人が拳銃を取り押さえ、3人が男にしがみつき、5匹の犬達は男の足や腕に噛み付いている。
その犬の中にはシロと思える秋田犬の姿もあった。
「何故だ、何故動かない!!!」
「警察だ!大人しく銃を捨てろ!!」
タイミングが良いのか悪いのか微妙だったが、阿部さんが部下数人を引き連れて現れた。
一斉に拳銃を男に向ける警察官達を見て、霊達は男から離れた。
男は拳銃を捨て、力を失ったかのようにその場に座り込んだ。
「猫!無事…じゃなさそうだな」
「これくらいは予想範囲内です。微妙なタイミングで来てくれて助かりました」
「微妙で悪かったな。よく分からない音楽を聞いてやっとおまえ達がいる場所が分かったんだから」
「あ、そうだった」
「お、おい怪我をっ」
阿部さんが止めるよりも早く、猫は子柴犬を抱いたまま玩具電話のところまで行った。
玩具電話のすぐ横に、霊となったシロが大人しく座っていた。
「シロがこの子犬を守っていたんだな、あの男から」
『ワンッ!!』
「ご苦労様。じゃ、今度はシロを外に出してやるからどこにいるのか教えてくれ」
『ワンワン』
「え、ここ?」
シロはその場を動かなかった。
偶然なのかどうか分からないが、
玩具電話が落ちた場所がシロの死骸が埋められているようだった。
「狐!」
「了解!」
指示通り、俺はショベルを構えてシロが座っていた場所を掘り始めた。
1メートルも掘らない内に、白骨化したシロの死骸が現れた。
「ワンッ」
地面に降りた子柴犬は、シロに向かって一声鳴いた。
すると、シロは子柴犬を何度も嘗め、すぐ横にいる猫の手も嘗め、そして消えた。
「他の死体も掘るか?」
「いいや、それは警察の仕事だ。俺が場所を教えるだけでいい。それより…」
ジーッと猫を見つめている子柴犬を両手で持ち上げ、お互い見つめ合った。
数秒間黙っていた猫は、笑顔を見せてこう言った。
「俺の友達になってくれるか?」
「ワンッ!!」
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