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死人探し屋ー携帯電話とカサブランカ

 俺の名前は原猫(はらびょう)。
 漢字のせいで、大半の人が『ネコ』と呼ぶ。
 小さい頃はかなり嫌だったが、今では諦めて、『ネコ』と呼ぶ事を黙認している。毎回修正してもらうのが面倒になったからだ。
 そう思うようになったのは、死人探し屋を始めてからだ。人に頻繁に会うだけでなく、死人との会話が増え、俺の名前を説明する時間がない、と言うより、自分の名前を忘れている死人に俺の名前を理解してもらうのが難しい。
 なので、手っ取り早く『ネコ』と名乗っている。
 名前のせいか、猫好きと思われている。確かに猫は好きだけど、それ以上に犬が大好きだ。
中学生の時に飼っていた犬が交通事故で亡くなってからは飼っていなかった。また、巻き込んで死なせてしまう、と思ったからだ。
 でも、その考えを払拭させる犬と出会ったのは今から2ヶ月前の事だ。
赤毛の柴犬の子供は、長い間霊気が集まりやすい環境にいて、さらに霊とも問題なく一緒にいた為か、霊感がとても強い。
それに、子供なのに俺の言う事をちゃんと理解して従順に動いてくれる。
 最高なパートナーである彼に、『明鉄(あきてつ)』と名付けた。
 明鉄の散歩は早朝一回、夕方一回と決めている。今まで家にひきこもる生活を続けていたけど、案外散歩という運動は気分が良くなる事だと気付き、今の所欠かした事はない。明鉄も散歩が大好きみたいで、時々俺よりも前を歩いて先を急ごうとする。

 この日もいつも通る高校の裏側の道を歩いていた。明鉄は高校には興味がないようで、一度も立ち止まらずに進む。
 だけど、この時だけは裏門の前でピタッと止まった。
「…どうした、明鉄」
「クゥーン…」
「?」
 明鉄は少し怯えた表情で裏門のとある箇所を見ていた。その視線を辿ってみると、裏門を封じている南京錠のU字部分に、黒いストラップにつるされた黒い折りたたみ式携帯電話があった。確か、1ヶ月前くらいに出たばかりの最新機種だ。
 最近、仕事がなく平穏な時間を過ごしていたが、その携帯電話を見た瞬間、今までにあまり経験していない悪寒を感じた。
あまりにも不自然な所にあるのも不気味だが、それ以上の何かがこの携帯電話から漂っている。
…それでも、仕事柄、見捨てるわけにはいかなかった。
「ウゥーッ」
 俺がその携帯電話を手に取ると、明鉄が俺に向かって唸った。
いや、携帯電話に対して唸っているのかもしれない。彼も何かを感じているらしい。
「悪いな、明鉄。忠告してくれているのは嬉しいけど、無視するわけにはいかないんだ」
「クゥ〜ン…」
「心配するなって。やばかったら焼き捨てるから」
 俺はそう言って自分のズボンのポケットにその携帯電話を入れた。

 帰宅後、すぐに問題の携帯電話を一通り調べてみた。とにかく不思議なものだった。アドレス帳には一件も登録がなく、メールアドレスの初期設定もまだの状態で、あるのは機体の電話番号とIDだけだった。
 唯一あったのは、内蔵されているカメラで撮ったと思われる写真一枚。その写真を見た直後、右目に激痛が走り、携帯電話を床に落としてしまった。
「大丈夫か」
  向かいのソファーで新聞を読んでいた兄・豹がすかさず言った。豹はボディーガードの仕事をしている仕事大好き人間で、よく非番の日にまで出勤してしまう。今日は出勤日のようで、出勤前の日課となっている新聞を広げている。
「大丈夫…」
 大丈夫ではない痛みだけど、そう言いながら携帯電話を拾った。
「嘘つけ」
 豹はすぐに見抜き、台所に向かい、冷蔵庫の冷凍室から常備しているアイスシートを取り出し、俺に渡してくれた。
「ありがとう…」
「相当やばい電話なのか、それは」
「やばいかも…はっきりとはまだ分からないけど」
「猫(びょう)がやばいと思うんだったら相当だな。…あまり深入りするなよ」
「分かってる。でも、もしかしたらこの電話の持ち主、生きているかもしれないから、早く助けないと死人になってしまう…」
「え?生きいるって?」
「そう…この写真を見てそう感じた」
 再び携帯電話の画面に写し出された写真を見た。右目がズキズキと痛みを発したが、アイスシートを右目に当てていると何とか痛みが和らいだ。
 その写真は真っ黒だった。黒一色ではなく、赤や紫などが混ざっているどんよりとした暗闇。静止画である写真のはずなのに、携帯電話を開く度にその模様が変化している。こんな写真は初めてだけど、変化のある写真は意思があるという事。
意思があるという事は生きている可能性が高い。
「しかし、どうやって助けるつもりだ」
「もちろん、電話がかかってくるのを待つしかない」
 携帯電話を閉じ、繋がっている黒いストラップを見た。編み込まれた黒い革製のヒモで、その先端には500円玉程の大きさのレリーフが付いている。白い花だけど、何て言う花だったか思い出せない。よく、墓地で見かけていたんだけど…まあ、仏花の菊ではない事だけは確かだ。花の中では匂いが強い方だった気がする。
  …しょうがない、今度墓専門の狐にでも聞いてみよう。