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死人探し屋ー携帯電話とカサブランカ

 僕の名前は清水隼(しみずはやぶさ)。
 2週間前まで自分の闇に捕われいていたせいで昏睡状態になっていた夢人だ。
 二度と抜け出せないと思っていたが、死人探しを生業としている原猫(はらびょう)と言う僕と同じ年齢の少年に助けられ、1週間前に退院し、3日前から復学している。
 猫は病院が苦手みたいで、来てくれたのは一度だけだった。
 …と言うより、次は僕が会いに行くと宣言し、死に物狂いで来てもらう事を止めてもらったんだ。
 
 宣言通り、父から手渡されたお菓子を持って原家の前に立っているのだが、ドアには鍵がかかっていて、インターホンを押しても誰も出てこない。
「ウゥゥ〜ワンワンッ!ワンッ!!」
 何の反応もなければ諦めて帰っている所だが、ドアの向こう側で犬が凄い勢いで鳴き続けている。
 とても従順で大人しい柴犬を飼っている、と聞いていたが、ドアの向こう側にいる犬は、インターホンの音が止んでも鳴き続けている。
 …どうしたものか…。
「…うるさいな〜一体どうし…あれ?原家にお客さん?」
 そんな時、オレンジ色のサングラスをかけた茶髪の青年がやって来た。どうやら、原家の事を知っているようだ。
「こんにちは。僕は清水隼と言います。先日、猫に助けてもらったのでそのお礼に来たんですが…」
「おっ!あの携帯電話の持ち主か!元気になって良かったな〜。カサブランカを仕入れた甲斐があったってもんだ。
あ、俺は高橋狐。ネコの仕事仲間さ。…所で、ドア、開かない?」
「はい、呼んではみたんですけど、反応がなくて」
「ん〜あっちゃんがいるって事はネコもいるはずなんだけど。…しょうがない、合鍵で開けてみるか」
「鍵を持っているんですか?」
「まあね。ネコって仕事の影響で体調を崩して倒れる事があってさ。そう言うタイミングがよく分かるから、様子を見る為にネコの兄貴から預かったんだ。今日もそんな気がしたから来たんだけど…」
 高橋さんはポケットから数本の鍵が束になったキーチェーンを取り出し、鍵を見比べ、一本の鍵をドアの錠に差して開錠した。
そして、ドアを開けると…。
「これは!?」
「うわっ!なんじゃこれ!?」
 犬が飛び出してきた事よりも、ドアの向こう側に広がっていた紫色の煙のような存在に驚いた。
ドアを開けた事で外気が入り、その空気に反応して激しく蠢いている。
これは、夢に苦しむ人達の周囲によく現れる悪霊の気配が具現化したものだ。
「ウゥゥ〜」
 犬は紫色の煙に向かって唸っている。どうやら、この犬には煙の影響は及ばなかったようだ。
となると、猫が今危険な状態になっている事が決定的だった。
「高橋さんにも見えるんですね、この煙が」
「強い霊しか見る事はできないけど、これは酷過ぎだろ!」
「すぐに払います」
 ショルダーバッグの中から血色の扇子を取り出し、広げ、ドアの向こう側にゆっくりと風を送った。
 この払い方は一族が取得している独自の浄化方法で、自分の息を対象に送る動作でもある。
 紫色の煙は風に煽られ、拡散するように静かに消えていった。
消えたと同時に犬が一目散に部屋に入って行ったので、僕もすかさず中に入った。
「ウゥ〜ワンッワン!!」
 犬が吠えている方を見ると、居間らしき部屋にまだ紫色の煙があった。その中心となっているソファーに猫が座っていた。
肘掛にもたれるようにぐったりとうなだれている。僕の意識の中に入ったせいで、悪夢に捕まってしまったのかもしれない。
 僕は先程と同じように扇子で風を送った。今度はやや強く、そして速く。すると、煙は蒸発するように一瞬で消え去った。
 猫の傍にかけより、彼の額に手を当てた。はっきりと分かる程の高い熱がある。顔色も青白い。
 …僕のせいで猫にこんなにも負担をかけていた事を激しく悔やんだ。
「……隼?」
 猫が目を覚まし、僕を見た。
 すぐに意識が戻るとは思わなかったので、僕は慌てて手を離した。
「あっ、ご、ごめん!でも良かった、すぐに起きてくれて。猫にとりついていた悪霊は全て払ったから、これ以上苦しむ事はないよ。
ごめんね、僕のせいで負荷を…」
「…ありがとう、隼」
 猫は僕の言葉を遮るように言った。顔色が悪いのに、無理して笑顔を作って僕を見上げている。
 僕は溜息をつき、1週間前に猫に言われた同じ言葉を言った。
「どういたしまして」

▲死人探し屋:第四番目:携帯電話とカサブランカ=仕事終了