黄 色 い カ ー ド





「なあ英士、コレ知ってる?」
得意げになって、結人が財布の中から取り出したもの。
ソレは、俺もどこかで見たことがあるものだった。
「臓器提供意思表示カード・・・。」
羽の生えたハートが4つ。
その真ん中には・・・天使だろうか?
女の子の絵が描いてある。
「コレ、どうしたの?」
結人がこんなものを持っているなんてどうにも理解出来ず、俺は首を傾げた。
「コンビニのレジに置いてあったんだよ。なんかおもしろそーだから、持ってきた。」
‘おもしろそう’。
結人らしい発想かも。
なんて思ってみて、そのカードの裏面を見た。
「・・・。」

『提供したい臓器を○で囲んで下さい』

思ってた以上にあっさりとそう書いてある。
心臓、肺、肝臓、腎臓・・・なんて生々しいんだろう。
「ねぇ、結人。これで本当にいいわけ?」
「なにが?」
俺の問いに、今度は結人が首を傾げた。
「これ。こんなにマルつけちゃって・・・。」
臓器すべてに○印。
しかも、脳死後の提供を希望しちゃってる。
俺は軽くため息をついた。
「結人。これは面白半分じゃダメなんだからね。ちゃんと考えないと・・・」
「考えた結果がソレなんだよ!」
結人は、「返せよ、ばーか」なんて言って、俺からカードを引ったくった。
なんなの、それ。
結人にだけは馬鹿呼ばわりされたくないね。
「だいたいさぁー」
カードを財布の中に仕舞い込みながら、結人は言った。
「死んじゃったあとなんて痛くも痒くもないんだから、あげられるものはあげちゃっ
たほうがいいだろ?」
「・・・まあね。」
「俺が死んだあとも、俺の心臓とかが、どっかの誰かの中で動いててくれれば、
なんだかそういうのって、‘永遠’って感じがするだろ?」
「結人にしては高尚な考えだね。」
「・・・お前、バカにしてんの?」
結人は頬を膨らませた。
その様子がおかしくて、俺は思わず吹き出してしまう。
「笑ってんじゃねーよ。」
「ごめん、ごめん。」
「心がこもってなーい!!」
「ごめんなさい。許して下さい、結人様。」
芝居掛かった声を出し、大袈裟に頭を下げる俺。
俺が頭を下げる相手って、けっこう限られてるんだから。
分かってる?結人。
「よかろう、よかろう。」
ポンポンと俺の肩を叩き、満足そうに笑う結人がいる。
「もしさー、英士が死んで英士の心臓が誰かに移殖されるとするだろー?」
ちょっと、結人。
勝手に人を殺さないでよ。
「そしたらさ、やっぱり俺はそいつのこと好きになんのかな?」
「はい?」
「だって、英士の心臓じゃん。」
結人は、うーん、と、難しい顔をして腕組みをする。
理屈は分かるけど、どうなんだろう?
専門家じゃないから、分からないね、そういうことは。
「・・・俺は、結人の心臓を移殖された人を好きにならないと思うよ。」
「ひでぇ。」
「だって、心臓だけが『結人』じゃないじゃん。脳も、髪の毛も、肺も、腕も、脚も、
全部揃って『結人』でしょ?」
「英士さん、それは屁理屈というんじゃ・・・」
「屁理屈なんかじゃありません。」
「かわいくねーな!ウソでもさ、『結人の心臓を持った人を好きになる!』って
言えないもんかね。」
「ウソは泥棒の始まりだからね。」
「うわっ、くだらねー。」
結人はゴロンとベッドに寝転がる。
その拍子にTシャツが少し捲れて、ちらつく肌が思いがけず白くて驚いた。

『私には臓器提供の意思があります』
それを死して尚、訴えるために。
黄色いカードは存在する。
臓器提供の前提にある「死」。
考えたくはないけれど、結人にも、もちろん俺にもいつかは「死」がおとずれる。
それが一体いつなのか。
もしかしたら、今日かもしれないし明日かもしれない。
そう思ったら、目の前にいる結人が愛しくてたまらなくなる。
「ねぇ、結人。」
「あ?」
「結人はさ、死なないよね?」
「は?!」
「死なないでよね、絶対に。」
「何言ってんの?わけわかんねーよ、お前。」
結人は少し不機嫌そうに言った。
ごめんね、結人。
ちょっと不安になったから聞いてみたんだよ。

結人が持ってる黄色いカード。
どうか、財布にしまったまま、活用されませんように。



FIN











THANX!

ぽっつさんのサイトにあったお持ち帰り自由SSもらってきちゃいました!
何を隠そう、私がはじめて読んだぽっつさんのSSがコレだったんですねーv
意外にも自分の『死』についてちゃんと考えてる結人と、ラストの英士があまりに可愛いくて大好き!(><)
ぽっつさんワールドに惚れ込んでしまいましたvv


ちなみにイラに関しては…ぽっつさん及びぽっつさんファンの方にふかくお詫びを…ゴフッ!
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