宴は終わらない




「もー。なんで結人と一馬までついてくんのー?信じらんない」
「いーじゃん。誕生パーティなんだろ?俺らも祝ってやるっていってんだからありがたがれよ」




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 




発端は韓国へ発つ前の電話だった。



「話はそれだけ?じゃ切るよ」
『あっ、待って英士!あのさ、2月19日って何の日か知ってるよね?』
「…潤慶の誕生日?」
『ピンポーン。だからさ、試合終わったらちょっと早いけどパーティーしようと思ってるんだ。もちろん来てくれるでしょ?』
「監督から外出許可取れたらね」
『取れなくても抜け出してきてね』
「まぁ善処はするけど」
『結人と一馬には内緒だからね!』



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「って言ったのにさー」
「なぁにぶつぶつ言ってんだよ、潤」

問題の韓国戦終了後。
英士が監督の許可をえて、潤慶の家までやってきたのは予定どおりだったのだけれど、なぜか余計なおまけまでついていた。
2人。
もちろん言うまでもなく結人と一馬なわけであるが。
「ほんとなら今頃、英士と2人でラブラブスィートな時を過ごしてたはずなのにさっ」
「ラブラブスィートかはともかく、結人と同じ部屋なんだからバレないわけなかったんだよね」
英士が淡々と言う。
「英士のバカー」
「残念だったな、潤。ま、その分ちゃんと俺らも祝ってやるから。ほら飲んで飲んで」
「結人に注がれても嬉しくないんだけどな」
ぶちぶち文句を言いながらも、グラスに注がれたワインをあけている潤慶に、一馬がはっとしたように叫ぶ。
「お酒!?」
「今さらなに言ってんだよ一馬。来たときからおいてあったじゃん」
「おめでたいときにはアルコールで乾杯って決まってるじゃんね。はい、結人ご返杯」
「あ、潤。俺ワイン駄目」
「じゃチューハイでいい?」
平然とお互い注ぎつ注がれつしている潤慶と結人に、一馬があ然と呟く。
「いいのか…?」
「いいんじゃない。今日くらい」
これまた平然と英士が言う。
気付けば英士も既に飲んでいた。
「ほら一馬、ぼーっとしてないで、おまえも飲んだ飲んだ」
「え、えぇ!?」
かなり陽気になってきている結人に無理矢理チューハイの缶をもたされる。
「ぐいっと一気にいっちゃえ、一馬」
「だ、だめだって」
「ぼくの誕生会だからぼくが法律〜。逆らうことは許されませーん」
有無を言わせない調子の潤慶に、一馬は助けを求めるように英士を見るが、
英士は苦笑いして
「一馬あきらめなよ」
と、絶望的なひと言をくれただけだった。
仕方なく手にしたチューハイに口をつける。
そして、もともとお酒に強くない上に、異国への旅の疲れもあって、一馬は1缶でダウンしたのであった。



「だっらしねーな、一馬のやつ」
「ねー」
すよすよ眠っている一馬を見やって、結人と潤慶が笑いあう。
「結局 ぼく あんまり祝ってもらってないし」
「あーそういやそういうんだったっけ、これ」
「本来の目的忘れてどうすんの」
呆れた口調で英士が言う。
あきらかにテンションの高い、酔いがしっかりまわってそうな2人とは対照的に、英士は驚くほど普段となんら変わりない様相を保っていた。
潤慶や結人と同じくらい、もしくはそれ以上飲んでいるにもかかわらずだ。


「でもさ、祝ってほしいって何してほしいわけ?わりーけど、
俺プレゼント持ってこなかったぞ?」
「んー?別にこうやって楽しく騒げたらそれでよかったんだけどね」
「なーんだ。じゃオールオッケーじゃん」
「ちょっと嘘だけどねー」
「なんだよ それ」
「さぁーねぇ。そんなことよりもっと飲も?」
潤慶は、結人の問いをさらっとはぐらかすと、だばだばと結人のコップにお酒を注ぐ。
「英士も飲みたりてないんじゃない?全然酔ってないみたいだし」
「俺はちゃんとわきまえてるからね。酔って醜態をさらすなんて愚の骨頂でしょ?」
「かったいなー、英士は」
「そうだ、硬いぞ。こんなときくらいはめはずせ」
「みんながみんなはめはずしたら、誰があとの面倒見るの?」
『英士〜』
「あぁ、そう」
どうやら結人も潤慶も、だいぶ頭が回らなくなっているようである。
たしかに、買いこんでいたお酒も、テーブル上の食料もそろそろ底をつきそうだ。
ということは、かなり飲んでいるということだ。
「潤、まだつぶれないわけ?」
「結人がつぶれるまではね」
「ねむくない?」
「それほどでも」
結人と潤慶の間で交わされる会話と、床に大量に転がっているチューハイの缶やら空き瓶やらを見やって、英士はようやく2人のピッチが早かったわけを了承した。
「つぶしあおうとしてたわけか」
しょうもないと言わんばかりの英士に、潤慶はちょっとふくれてみせる。
「英士が悪いんだよ。邪魔者連れてくるから。なら後はこうするしかないじゃん?」
「マジ?潤そんなこと考えてたの?うわーやな奴ぅー」
「あ、結人ずるい。自分だけいい子ぶっちゃって。おんなじようなこと考えてたくせに」
「ざーんねーんでーしたっ。俺はそれほど思ってたわけじゃないもんね。わざわざそんなことしなくても、ずっと英士と一緒にいられるし」
ひとり冷静な英士は、でも同じようなこと考えてたんじゃないと思ったものだが、潤慶はそれどころではなかったらしい。
「うっわ、むちゃくちゃ腹立つー。結人がつぶれるまで待とうと思ったけど、もうやめた!遠慮なんかしてやんない!」
その言葉に敏感に反応したのは英士のほうだった。
「ちょっと潤、それってどういう…」
しかしみなまで言うより、潤慶の行動のほうが素早かった。
「あ――!!」
結人が大声をあげるが、時すでに遅し。
潤慶は英士のあごを引き寄せ、口づけていた。



「ん…朝…?」
結人の声に一馬がむくりと起き上がる。
目をこすりこすりし、ぼんやりした体であたりを見回す。
そしてそのまま固まってしまった。

「潤、離れやがれっ」
結人が力任せに潤慶を引き剥がす。
「邪魔しないでよ」
「ふざけんな」
「いいじゃん、これくらい」
「いいわけあるかっ!英士おまえもなんか言え!」
激高している結人に話を振られ、英士がしばらく考える。
そして口にしたのは、
「とりあえず、潤慶、誕生日おめでとうでいい?」
であった。
おもしろいくらい対照的なリアクションが返ってくる。
「なんだよそれっ!」
「さすが英士!話がわかる!だから好きっ」
ますますへそを曲げる結人を尻目に、潤慶が英士に飛びつく。
「じゃさっき中途半端で邪魔されちゃったし、もう1回」
「プレゼントは何回も貰うもんじゃないでしょ」
調子にのって再びキスを仕掛けようとする潤慶を、英士が軽くこづく。
「プレゼント…?」
目にしたものの衝撃が大きかったのか、一馬がまだどこか茫然と呟いている。
「あ、一馬起きたの?」
「結人の声で目ぇ覚めた」
「あぁ」
そっか、と英士が深く納得する。
「ねぇ英士ー?プレゼントだって言うんならさ、英士のほうからしてほしいんだけどなー。こう、熱ーいとろけそうなやつ」
「馬鹿言わないでよ」
「そうだバカ」
要望をあえなく却下された潤慶が、ぷぅと頬をふくらませる。
「ぼくの誕生日なんだし、それくらい いいめみさせてもらってもバチは当たんないと思うのに」
「誰が当てなくても、俺が当てるぞ」
「結人には関係ないじゃん」
「関係大アリだっての。つーかさ、もういいかげん英士のことあきらめろよ。見込みないんだからさ」
「誰が見込みないなんて決めたのさ」
「俺」
低レベルな口論をはじめた結人と潤慶を見て、一馬がぽつりともらす。
「仲いいんだな、結人と潤」
『どこが!?』
きれいにハモった2人を、ほらなという顔で一馬が見る。
「くっ。こうなったら潤、どっちが先に英士を落とすか勝負だっ!」
「いいよ、受けてたってあげる。絶対負けないけどねっ」
「ちょっと2人ともなに勝手なこと言ってんの!?」
勝手に自分を勝負のネタにされて英士が悲鳴をあげる。
が、潤慶も結人もそれをあっさり無視した。
「英士、そういうことになったから」
「覚悟しててね」
「…ほんと勘弁して」
とりあえず、それを見て一馬が思ったことは、
「結人も潤もなんか楽しんでないか?この状況」
であった。
一馬の穿った指摘を、潤慶が即座に否定する。
「そんなことあるわけないじゃん」
結人もそれに続く。
「なー」

「やっぱ仲いいじゃん…」
疲れたように呟く一馬の横で、英士はこれから繰り広げられるであろうアタック合戦に、地獄の日々の到来を感じていた。








終わってしまえ。










SPECIAL THANX!

SさまSS第2弾★「韓国にてユンのお誕生会+英士争奪バトル」です!
キリリクで書いていただきました♪(兼常時接続祝い?笑)
もう、読みながらこみあげてくる、この抑え切れない萌え感情…!(変態)
もらったときどれくらい嬉しかったかとゆうと
読後1分とたたないうちにイラストを描いてアップしちゃいました!!!
セリフもシチュエーションもなにもかもツボです。ありがとうvvvvv

つーか自分のイラに失望。現しきれないわー!











back>>