未来へ捧げる、思い出の唄




 「よっ、一馬!今日は早いじゃんか」
 「いつも遅刻ギリギリだと、かっこ悪ぃだろ」
 「引っ越しちゃえよ、マンスリーなんとかってあんじゃん」
 「それじゃあ学校に遅刻するでしょ」
 「あははっ、そりゃそーだわ」

 見上げると、グランドの隅に1本だけ立ってる桜が満開だった。
 春って感じだよな〜、花見行きてぇなぁ。

 「なー、今度花見行かねー?」
 「結人のお目当ては、花じゃなくて団子でしょ」
 「あ、バレバレ?」
 「でも俺も行きたいな、あったかくなってきたし」

 今日はホントにサッカー日和。
 あったかくって、気持ちよくって・・・。
 桜見てたら、英士に初めて会った時のコト思いだすな・・・。


 「今日からこのチームに新しく入る事になった郭英士くんだ」
 「よろしくお願いします」

 コーチに紹介された英士を、一馬と2人で見てたんだ。

 「なぁ一馬、あいつサッカーうまいかなっ」
 「俺と結人の次くらいじゃないか?」
 「なんか暗そーだな」
 「・・・そーかなぁ」
 「てゆーか変な名前ーー」


 その日の練習で、英士を気にして目で追っかけて、すっげうまいって思ったんだ。
 で、声かけて、一緒に駅まで帰った。

 「何、結人。俺の顔になんかついてる?」
 「え?あはは、ゴメンゴメン、なんでもねーよ」
 「なら、いいけど」
 「なんか、英士に初めて会った時のコト思いだしてた」

 3人で桜を見上げる。

 「そっか。英士が来たのって、ちょうで今くらいか」
 「・・・そうだっけ」

 ホント変わんねーよな俺ら。
 図体はデカくなってるけどさ。
 俺らはあの頃話した夢も、変わってない・・・。


 小学3年生。

 「あのさ、郭くんも将来はJリーガーになりたいとか思ってんの?」
 「え?」
 「俺らそうなんだよなっ、一馬!」
 「そう!郭くんもなれるよ!絶対」
 「うん、でも僕Jリーガーは嫌なんだ」
 「なんで?」
 「サッカー選手になりたくないのか?」
 「僕はねぇ、イタリアに行く!」


 あん時の英士のセリフには、3年生のオレもビビった。
 マジ、唖然って感じ。
 世界なんて、考えもしなかったしな。
 それからだな、日本代表、それから世界を夢に見始めたのは。


 小学6年生。

 「なぁ、前田と中沢、ロッサやめるんだってよ」
 「武田も言ってたよ、中学入ったら塾行くって」
 「なんか、段々減っていくよな・・・」

 俺は土手に寝転がって空を見た。
 練習帰りの夕焼けは、いつも綺麗だ。

 「所詮、ただなんとなくやってただけだったんじゃない?」
 「なんか、寂しい」
 「あーーもういいじゃん!辞めるヤツなんてさ!」
 「でもさぁ」
 「まさかお前らまで言い出すわけねーだろ!?」
 「当然でしょ」
 「こんなトコで辞めれるかよ!俺達の夢は・・・!」


 あー懐かしい。
 すげぇ前のコトなのに、つい昨日話したみてぇだ。

 「一馬っ、一馬の夢って何?」
 「え、なんだよいきなり!」
 「いまさらそんなコト、聞かなくても分かるでしょ」
 「ははっ、じゃあやっぱ、変わってねーんだなぁ、あの時から」
 「あの時?」
 「ほら、土手で3人で話したじゃん」
 「あ〜、小学生ぐらいん時?」
 「なんか思いだしちってさ」
 「夕焼けがすごい綺麗だったよね」
 「なーー?」
 「あ、でも、一馬のボールが流れちゃって一馬が泣いてたコトの方が覚えてるかも」
 「あーはっはっはっ、あったあった!!」
 「なっ、泣いてねーよ!!だいたい悪いの結人じゃんか!」

 そーだったそーだった。
 土手に座って一馬のボールこねて遊んでたんだ。
 手が滑って、川に落として・・・。
 3人で追いかけたけど、ボールは広い川の真ん中まで流れて・・・。
 一馬ちょい半泣きだったっけ。
 今だから笑えるけど、あん時結構ビビってたんだよな、オレ。
 すっげー焦ってたオレと、半泣きの一馬を英士がなぐさめてくれた。

 「あの後さ、怒られたんだっけ?」
 「ちょっとな。てゆーかあきれられた」
 「でも新しいボール買ってもらったって喜んでたでしょ?」
 「俺のおかげじゃん!」
 「調子のんな!結人だって泣いた時あっただろ!?」
 「えー、あったっけぇ」
 「あ、結人がねんざした時?」
 「それ!結人足おさえてすげー泣くから、俺らもビビったよなぁ」
 「折れたかと思った」
 「しゃ、しゃーねーじゃんか!めちゃくちゃ痛かったんだぞ!」
 「でも泣くほど痛いか〜?」
 「あん時ゃオレもガキだったの!!」

 痛かったのは事実。
 そん時確か小4くらいだったし。
 でも、痛いって感じて、いろんなコト考えたんだよな。
 もうこのまま立てなくなったらどうしようって。
 走れなくなったらどうしようって。
 サッカー、出来なくなったらどうしようって。
 それが恐くて、泣いたんだ。
 ま、そんだけ痛さも半端じゃなかったってコトだけど。

 「てゆーか、俺らばっかしズルくねー!?」
 「でも英士が泣いたトコ見たことあったっけ?」
 「・・・ないっけ?」
 「さぁ・・・泣いた記憶なんて、あんまり残ってないよ」
 「クールぶりやがって!」
 「・・・あ!思い出した!」
 「一馬!何々!?」
 「ほら、中1ん時、夏のクラブチーム選手権の時!」
 「あー、アレな!!」
 「・・・俺、泣いてないと思うけど?」
 「チッチッチッ、あっまーい!ちゃんと知ってるもんなー?」
 「なっ!」

 そう、中1の夏だ。
 全国クラブチーム選手権の関東予選決勝。
 最後の最後まで1対1で同点で、ロスタイムに1点取られて、負けた。
 相手のパスが、たまたま英士の足に当たって、いいトコに転がって・・・。

 ピッ、ピッ、ピーー

 試合終了のホイッスル。
 終わった・・・。
 一馬も、俺も、チームのみんなも、監督の前で泣いた。
 英士を除いて・・・。

 「ちくしょー!」
 「・・・あとちょっとだったのにっ」
 「泣くなよぉ!みんな!」
 「みんな、この悔しさを忘れないように、また、練習頑張ろうな」

 グランドを一馬と眺める。
 最後のシーンがよみがえる。
 シュートした相手の9番の背中。
 ゴールしたボールを拾い上げて、センターサークルへ走った英士。
 一馬のキックオフ直後に鳴ったホイッスル。

 「来年は、ぜってーリベンジだよなっ、一馬!」
 「おぉ、この借りは絶対返す!」

 真っ赤な顔で目を合わせて、笑った。

 「で、英士のヤツまだか?」
 「なんで着替えんのにこんな時間かかんだよ」
 「見に行こーぜ!先帰ってたらどーするよ?」
 「えー?悔しくて?英士に限ってないだろ?」

 更衣室に近づいた俺らの耳に、小さな声が気こえてきた。
 苦しそうな、泣き声・・・?

 「っくしょう・・・ちくしょぅ・・・なんで・・・っ」

 俺と一馬は、ドアの隙間から中を覗いた。
 暗い更衣室。
 ベンチにうずくまる、英士のうしろ姿。

 「俺が・・・あの時俺がっ・・・!うっ・・・」
 「英士・・・」

 英士があんなに悔しがるトコ、初めて見た。
 だから俺も一馬も声かけれなくて、先に帰った。


 「見てたの・・・?」
 「あはは、バラしちゃったー」
 「ごめん英士!けどあん時は声かけれなくて・・・」
 「あの時は・・・コンタクトが外れ・・・」
 「「嘘つけ!」」
 「英士コンタクトしてねーだろ!」
 「ま、そんなコトもあったよね・・・」
 「またそうやってクールぶるし」

 クールぶってるわりには、顔赤いゾ英士!

 ・・・うん、でも、いろいろあったよな。
 ホント、いろいろ。
 思い出す景色には、いつだって英士と一馬がいる。
 そんだけ、印象深いコトを3人で繰り返してきたんだろうな。
 へへっ、ガラにもなく、しみじみしちった。

 「集合!」

 桜の木の下で話していた俺らに、コーチの声がとんだ。

 「うおっ、もう集合時間じゃん!」
 「あー、早く着いたから英士にFK蹴るの見てもらおうと思ってたのに!」
 「何一馬お前、FK蹴る気!?」
 「出来た方がおもしれーじゃん!」
 「まーなー。じゃ英士、俺も教えて?曲げるヤツ」
 「いいけど、とりあえず集合しない?」
 「郭!真田!若菜!早く来いー!欠席かぁ!?」
 「「「今行きまーーーす!!!」」」

 これは、有村ひろサマへ。
 未来へ捧げる、思い出の唄。  







SPECIAL THANX!

しいのさまのサイトで4000打を踏んで、書いていただいたリクSSです。
まさに私の理想を形にしていただいて、感動!!
出会いから始まって、いろんな経験をいっしょにつんできた3人。
このSSにアンダーのエッセンスが凝縮されている気がしますvv
しいのさん、ホントにありがとう!





back>>