二本の苗木

 
        あるところに一軒家が建ち、中庭に同じ種類の苗木が、二本並んで植えら

   れていた。友人から新築祝いに贈られた、珍しい木だった。

    移植する時点で、一本は姿かたちが良く、幹も太くて根張りも良かった。

   もう一本は、明らかに見劣りしていた。一年が過ぎた。優秀な苗は、順調に

   成長し、隣の苗まで枝を伸ばしていた。

    家主は、貧弱な苗を邪魔に思い、敷地の裏の隅っこに移し換えた。優秀な

   苗に対して、家主は毎日少な過ぎず、多すぎないように水を与えたが、もう

   一本には見向きもしなかった。

    そうして、三年経った。優秀な苗は、植えた頃の二倍以上に背丈を伸ばし

   いた。家主は、わが子の成長を見守るように一層の愛着を示し、土の乾き具

   合を見ながら、水遣りに気を使った。裏の敷地の苗木はというと、植えた頃

   に比べて、ほとんど成長していなかった。

    その年の夏休み、家族全員が海外旅行で、家を空けることになった。家主

   は苗木のことが気になったが、毎日水を与えているので、大丈夫と思った。
 
   海外旅行から帰ると、大事にしていた苗が、枯れていた。家主はひどく落胆

   し、この苗木を送ってくれた友人に連絡をとった。数日して、友人が訪ねて

   きた。

    友人は、その枯れた苗木を引っ張ってみた。すると、その苗木は植えてか

   ら三年もたつというのに、あっさりと引っこ抜かれた。それから、もう一本

   の苗木はどうしたかと尋ねると、家主はバツが悪そうにして、家の裏へと案

   内した。

    果たして、その苗木は、葉を一枚も枯らすことなく、すっくと立ってい

   た。友人はスコップを持ってこさせ、根を傷めないように、掘り返した。し

   かし、いくら掘っても、根の先端にたどり着くことはできなかった。そし

   て、こう言った。

   「これでわかったろう。人間の成長と同じだよ。過不足なく水を与えられた

   苗木は、苦労して根を伸ばすことを止め、安易に地面近くに根伸ばし、その

   分だけ多く葉を茂らせ、早く花を咲かせようとした。

   だから、少しの日照りに簡単に根を枯らしてしまったのさ。

    けれど、この苗木は水が乏しかったせいで、根を地中深くまで伸ばしてい

   た。地面から上は成長していないように見えても、眼に見えないところで、

   たくましく成長していたんだ。根が深いから、日照りにも耐えるし、そのう

   ち背を伸ばし始めて、葉を茂らせて大きな花を咲かせると思うよ。

    まさか、きみの子供も枯れた苗木のように、いつも過不足なく水を与えて

   いるんじゃないだろうね?」

    家主はそれを聞いて、少し顔をこわばらせて、苦笑いした。