今月の一枚


          思い出の夏




          

  
     中学の時、深夜テレビでこの映画を観た。感動したわけではない

   が、忘れられない映画だった。そして、三十年以上たって、再び観

   た。

    両親とともに、夏休みに滞在していた海辺の町で、美しい女性

   に出会い、恋に落ちる。彼女には恋人がいて、出征しており、その

   帰りを待ちわびている。仲のいい友達は、早く初体験がしたくてう

   ずうずして、同世代の女の子を誘い出す。少年にも、そのチャンス

   が回ってくるのだが、年上の女性のことで頭がいっぱいで、何もせ

   ずに終わってしまう。少年は、女性をいつも遠くから眺め、ある日

   偶然を装い、その女性と知り合いになる。

    まもなく、恋人の戦死が女性のもとに届き、女性は悲しみのあま

   り自分を失い、一晩限り少年とベッドを共にする。少年はその後、

   女性のもとを訪れるが、女性はすでに引っ越していて、少年に手

   紙を残していた。それ以来、女性の行方は知れず、中年になった

   今も、その女性のことが忘れられない。最後に、中年になった主

   人公が、ラストシーンを回想して映画は幕を閉じる。

    「思い出の夏」というのが和訳名だが、原題名は「The summer

   of '42」という題である。邦題は、この原題名に忠実にすべきだっ

   たと思う。この出来事を回想する男にとっては、思い出の夏ではな

   く、あくまで、「1942年の夏の日」であったはずだ。