孤独な花

 

    冷え込んだ夜が明けると、快晴だった。太陽の周りだけがうっすらと白

   く、あとは透き通るような青い空が、隅々まで冴え渡っていた。

   霜が降りた田んぼは、シルク絨毯のように、陽の光をきめ細かく跳ね返し、

   無数の薄茶けた稲株が、その絨毯の中に、規則正しく織り込まれていた。

    その日、季節はずれに咲いた一本の花に出会った。商店街のはずれで、民

   家と車の往来する道路の、わずかの隙間に、それは咲いていた・・・

   向日葵(ひまわり)だった。

    陽の光が刺す南側は民家に遮られ、向日葵は北に向かって、凍えそうに立

   ちすくんでいた。小学生の背丈にまで伸びた茎は、向日葵にしてはあまりに

   も貧弱で、こぶしほどの小さな花が、二つだけ咲いていた。初冬のモノトー

   ンの風景にありながら、人々の往来に気づかれることなく、佇んでいた。

    太陽がギラギラ輝いていた夏、周囲の向日葵といっしょに、大輪の花を広

   げ、それぞれが花の大きさや美しさを競い合い、虫たちも大勢やってきて、

   おしゃべりをしながら、楽しく過ごせたはずの夏・・・冬の向日葵は、そん

   な夏を知らない。その向日葵に聞いてみた。


   あなたは、孤独ですか? 

   (大勢の友人に囲まれていても、孤独なときもあるし、ひとりでいても、満

   たされているときがあるでしょう)

   あなたは、寒くないですか?

   (暖かい部屋にいても、心が冷えきっているときもあれば、北風の吹きすさ

   ぶ道を歩いていても、胸が熱くなっているときがあるでしょう)

   あなたは自らの運命を、後悔していますか? 

   (今の幸せに見向きもせず、まだ見ぬ先の幸せを追い求める人もいれば、つ

   らい時でも、眼の前の小さな幸せを愉しむことのできる人もいるでしょう)

   あなたは大輪の花を咲かせられず、無念でしたか? そして、種ができて子

   孫を残せるか、不安ですか? 

   (それでは、お聞きします。どれだけ大きな花であれば、あなたは満足でき

   るのですか?どれだけ多くの種ができれば、あなたは安心するのですか?)

    そう言うと、口を閉じ、それ以上答えることはなかった。

   向日葵の細い体は、北風に吹かれて体を揺らしながら、初冬の弱々しい陽の

   光を気持ちよさそうに浴びていた。