赤頭巾ちゃん(アーゼル風)






昔、あるところにゼルという女の子がいました。
女の子はいつも赤い頭巾を被っていたので、赤頭巾ちゃんと呼ばれていました。
伝説のSeeDと呼ばれるスコールお母さんと二人で暮らしています。
ちなみに、赤頭巾ちゃんも新米ながらもSeeDです。
ある日、赤頭巾ちゃんはスコールお母さんにお使いを頼まれました。
森の中の一軒家に住むお祖母さんに、シチューとぶどう酒を持って行く御用事です。

「赤頭巾、頼むぞ。」
スコールお母さんは腕組みをしながら言いました。頭の中は不安で一杯です。
無理はありません。今まで赤頭巾ちゃんに何か頼んで、上手くいった試しがないのです。
屋根にぶら下がった女の子を助けるように言った時も、月から落っこってきた、いまひとつ
使用目的が不明な巨大建造物を止めるようにお願いした時も、全て失敗して帰ってきました。
その度に、尻拭いさせられるのはスコールお母さんです。
本当なら、自分でお祖母さんの家にご飯を届けたいところです。
しかし、最近、月の雫の影響で森のモンスター達が凶暴化しているのです。
ガーデン委員長のお母さんは、それを退治しなければなりません。
大好きな昼寝もろくに出来ないくらい忙しいのです。どんなに不安でも仕方ありません。
このそそっかしい子供に頼むしかありません。

「おう!任しとけ!!」
赤頭巾ちゃんは元気一杯に言いました。いつも勢いだけは人一倍です。
スコールお母さんは溜息をついて、くれぐれも寄り道をしないように言い聞かせました。
森には、悪賢い狼が住んでするのです。
単純で疑うことを知らない赤頭巾ちゃんは、あっさりと騙されてしまうでしょう。
誰とも話さず、真っ直ぐ走っていくよう、よくよく言い聞かせました。
赤頭巾ちゃんは、分ったぜ!と勢いよく頷きました。
スコールお母さんは、やっと少し安心して赤頭巾ちゃんを森に送り出しました。

赤頭巾ちゃんは素直な性格だったので、スコールお母さんに言われた通り、わき目も振らずに
一生懸命走っていました。赤頭巾ちゃんは走るのが得意です。特殊技を出すたびに、地球を
一周するくらい得意なのです。

さて、森にはお母さんが言った通り、一匹の白い大きな狼が住んでいました。
名前をサイファーといいます。サイファー狼は自分を森の風紀委員長だと自認していました。
森の動物達がスピード違反をしていないか、常に眼を光らせています。
単に自分より早く走る者が目障りなだけですが、そもそも風紀委員そのものが一人で
勝手に決めた役職です。だからいいのです。何でもありです。
そんなサイファー狼の目の前を、突然ドタドタと騒々しい音を立てて、赤い物体が駆け抜けて
行きました。
サイファー狼はむかつきました。全速力で赤い物体を追いかけます。
中々足の速い奴だったので、迷うことなく背後から雑魚散らしを発動しました。
スピード違反を取り締まる為なら、相手が半死状態になっても構いません。
サイファー狼は規律違反に厳しいのです。

「おわっ!!!」
突然の衝撃に、赤頭巾ちゃんは地面に転がってしまいました。
振り返ると、大きな白い狼が自分を見ています。額にピクピクと青筋が立っています。
赤頭巾ちゃんはビビリました。なんだか猛烈に嫌な予感がします。前世の記憶の名残でしょうか、
バスケットを没収されるような気がしました。慌ててバスケットを背中に隠します。

「俺様の森でスピード違反をしようたあ、いい度胸じゃねえか。ああ?」
風紀委員とは思えないヤクザな口調です。赤頭巾ちゃんはとても怖くなりました。
しかし、ここで挫けるわけにはいきません。
お使いに失敗したりしたら、スコールお母さんがどんなにがっかりするでしょう。
またフテ寝してしまうかもしれません。一度臍が曲がってしまうと、お母さんの機嫌を直すのは
中々大変です。お友達全員でバンド演奏してご機嫌をとった事もあるくらいです。
しかもちょっとでもアンサンブルが狂うと、一層不機嫌になると言う繊細ぶりです。
あんな疲れる事は二度とごめんです。
赤頭巾ちゃんは勇気を出して、森に住むお祖母さんにシチューとぶどう酒を持って行く
為に急いでいたんだ、と説明しました。
そして、この御用事に失敗するとSeeDランクが下がってしまう、と半泣きで訴えました。

サイファー狼は、赤頭巾ちゃんの姿をよくよく見直しました。そして確かに赤頭巾ちゃんが、
頭巾の下にSeeD服を着ているのに気が付きました。
サイファー狼はムッとしました。こんなチキンそうな子供がSeeDなんて生意気です。
むしょうに苛めてやりたくなりました。わんわん大声で泣かせてやりたくて堪りません。
前世の記憶は中々根強いようです。

サイファー狼は考えました。
お祖母さんを先に食べてしまった方が安全でしょう。赤頭巾ちゃんを苛めてるところを
見つかって騒がれたらたまりません。それでは思う存分赤頭巾を苛める事ができません。
サイファー狼は偉そうにふんぞり返って赤頭巾に言いました。
「てめぇは本当に気が利かねぇ奴だな。」
赤頭巾ちゃんはムッとしました。どう見ても、この狼は他人に気を使わないタイプです。
そんな奴に「気が利かない」などとほざかれるのは心外です。
「何でだよ。」
狼は益々偉そうに鼻を鳴らしました。
「シチューとぶどう酒だけじゃ駄目だ。もっと他に持っていく物があるだろ?」

赤頭巾はきょとんとしました。狼は一体何を言ってるのでしょう。
「他に持っていく物って?」
赤頭巾が不思議そうに聞き返すと、狼はこれ以上無いくらい胸を張りました。
自信満々に赤頭巾ちゃんに指を突きつけます。

「花だ!SeeDは世界を花で一杯にするのが、本当の仕事なんだぜ!」

赤頭巾ちゃんは驚きました。そんな話は聞いたことがありません。
当り前です。それは真っ赤な嘘なのです。
実はその嘘を狼に教えたのはスコールお母さんです。
スコールお母さんはちょっとした冗談をかましたつもりだったのですが、元々お母さんはそういう
キャラクターでは無かった上に、狼はロ〜マンティクな性格だったので、その嘘をすっかり
信じ込んでいたのです。

赤頭巾ちゃんは本当か?と狼に聞きました。サイファー狼は自信たっぷりにおう、と返事しました。
あまりに確信ありげな態度に、流され易い性格の赤頭巾ちゃんは不安になりました。
考えてみれば、自分はSeeDになったばかりです。「本当の仕事」を、今まで知らなかっただけかも
しれません。赤頭巾ちゃんは、どこからその話を聞いたんだ、と狼に訪ねました。
狼はスコールお母さんから聞いた、と相変わらず自信満々に答えます。伝説のSeeDと言われる
お母さんの言葉なら、間違いありません。きっとそれは本当なのです。
赤頭巾ちゃんは、すっかり狼の言葉を信じてしまいました。
これで、スコールお母さんの嘘を信じる馬鹿は二人に増えました。

「でも・・・俺花なんか持ってねえぞ」
赤頭巾ちゃんは困って言いました。狼が任せておけ、とばかりに大きく頷きます。
「あっちの原っぱに、沢山花が咲いてるぜ。好きなだけ摘んで行けよ。」
赤頭巾ちゃんは顔を輝かせました。これで自分も本物のSeeDです。
嬉しそうに、狼にありがとうとお礼を言いました。
その馬鹿正直な笑顔に、狼の苛めっ子心がムラムラと湧き上がりましたが、何とか堪えて爽やかに
「じゃあな」と手を振りました。

赤頭巾ちゃんを見送ったサイファー狼は、一気にお祖母さんの家まで走りました。
「お祖母さん。開けてくれよ。」
赤頭巾ちゃんの口調を真似して扉を叩きます。
「よぉ!入れよ!」
威勢のいい声が聞こえました。随分元気なお祖母さんです。
扉を開けて、狼は全身が驚きで固まってしまいました。

中ではラグナお祖母さんがブンブンと必要以上に大きく手を振っていました。
「あれ!?狼じゃねーか!どうしたんだ、家に遊びに来たのか?!かっわいいなあ〜」
突然の訪問にも全く動ぜず、狼の頭を撫ぜ撫ぜします。
ラグナお祖母さんは相手が誰でも、とりあえず頭を撫ぜるのです。
相手が凶暴な狼でも全然気にしません。勢いだけで人生を渡ってきたラグナお祖母さんらしい
行動です。

狼はそれどころではありませんでした。
サイファー狼はラグナお祖母さんの大ファンだったのです。
お祖母さんは、昔ある映画で主役をはりました。
狼は人間が捨てたテレビで、その映画を見て以来、ラグナお祖母さんの大ファンだったのです。
お祖母さんのキメポーズを、今でもこっそり真似ている位です。

「お、俺は・・・」
「おっ何だ。何か言いたいのか?!あ、分った!自己紹介だな?いいぞ!遠慮しないで言えよ!
何なら俺から言おうか!?」
尋ねておきながら、返事の隙は一切与えません。自分の事をべらべらと喋り出します。
「・・・で、お前何しに来たんだ?」
一通り喋った後、ラグナお祖母さんは思いついたように聞きました。本来、この質問は最初にすべき
でしょう。行き当たりばったりの行動で、ラグナお祖母さんの右に出る者はいません。

しかし、狼は憧れのラグナお祖母さんに会えた感激で、何も考えられませんでした。
お祖母さんを食べる計画など、既に忘却の彼方です。
「お、俺、あなたに色々お話したい事が・・・・」
純情狼と化したサイファー狼がドギマギと話し掛けると、ラグナお祖母さんは両手を広げました。
「悪りいなぁ。俺、これからパトロールに出なきゃ行けないんだよ。」
自慢気に、俺は森の防衛隊なんだ、と胸を張って説明します。
勿論自称です。自称風紀委員とは意外と共通点があるのかもしれません。
「孫に留守番を頼もうと思ってたんだけどよ。中々来ないんだよ。困ったなあ。」

ラグナお祖母さんを待たせるとは何て失礼な奴だ、と狼は憤りました。自分がそうさせた事など
すっかり忘れています。
「良かったら俺が留守番します!」
サイファー狼は最敬礼をしてラグナお祖母さんに言いました。
「おっ!そうか!良かった。助かったぜ!」
ラグナお祖母さんは嬉々としてサイファー狼の手をとりました。初対面の人物に留守番を
頼んでも何の防犯にもなりません。何の為の留守番なのか、全く意味不明です。
しかし、ラグナお祖母さんはそういう細かい事は気にしないたちでした。
感激に浸るサイファー狼を残して、意気揚揚とパトロールに出かけて行きました。

その頃ようやく、赤頭巾ちゃんは腰を上げました。両手に花を一杯抱えています。
これだけあれば大丈夫だろう、と思いました。
気付くと随分時間が経っています。赤頭巾ちゃんは急いでお祖母さんの家に向かいました。

「お祖母さん、俺だよ!赤頭巾だぜ!」
赤頭巾ちゃんは扉を叩きました。早くお祖母さんの笑顔が見たくてしかたありません。
「入れ。」
中から不機嫌そうな返事がしました。いつも優しいお祖母さんにしては珍しい事です。
もしかして自分があんまり遅かったので、怒っているのでしょうか。
赤頭巾ちゃんはおずおずと部屋に入りました。

サイファー狼はベットの中に隠れていました。ラグナお祖母さんをお待たせした赤頭巾ちゃんを
許すことは出来ません。思い切り噛み付いてやろうと怒りに燃えています。
完全に思考が暴走しています。赤頭巾ちゃんがお祖母さんの可愛い孫だというのを忘れています。
「もっとこっちに来い!」
不機嫌そうに呼びかけます。赤頭巾ちゃんは心配になりました。
いつもより声がずっと低くなっています。もしかしてお祖母さんは具合でも悪いのでしょうか。
「お祖母さん、どうしてそんなに声が低いんだ?」
「煩せえ。てめぇには関係ねえ。」
性格まで悪くなってます。赤頭巾ちゃんはオロオロとお祖母さんに近づきました。
「お祖母さん、どうしてそんなに怒ってるんだ?」
「いいからとっととこっちに来い!」
病気のせいでしょうか、随分気が短くなっているようです。大好きな諺ですら大雑把にしか覚えない
大らかなラグナお祖母さんが、何という変わりようでしょう。
赤頭巾ちゃんは泣きそうになりました。お祖母さんにとりすがって尋ねます。
「お祖母さん、どうしてそんなに口が悪くなってるんだ?」

「てめぇを食うためだよ!!」

サイファー狼が毛布を跳ね上げます。鋭い爪と牙で赤頭巾ちゃんに襲い掛かりました。

丁度その頃、お祖母さんの家の前を、一人の猟師が通りかかりました。
名前をアーヴィンといいます。アーヴィン猟師はとても落ち込んでいました。
何故なら、猟師は村人達から馬鹿にされていたからです。

アーヴィン猟師は以前悪い魔女の狙撃を頼まれたのです。
けれど色々事情があって、直前になって狙撃を尻込みしてしまいました。
もっと早く事情を言えばいいものを、そこがA型人間の生真面目さで、ギリギリまで
黙っていたのです。
勿論その尻拭いをしたのはスコールお母さんです。
スコールお母さんは色々な人の尻拭いをしているのです。常に不機嫌でも当然です。

それまで自分を世界一の猟師のように豪語していただけに、村人達の衝撃は大変なものでした。
アーヴィン猟師の評判は、地に落ちました。村人達は、ほらあれがヘタレ猟師だと指を差して
笑うのでした。村の若い娘達まで一緒になって猟師を笑います。
女好きな猟師にとって、これは大変辛い事でした。
気持ちの落ち込みが猟の成果にも出るのでしょうか。今日も一匹も獲物がとれませんでした。
トボトボと溜息をつきながら歩いていると、突然家の中から大きな悲鳴が聞こえてきました。
確か、この家には異様に陽気なお祖母さんが一人で暮らしていたはずです。
何か大変なことが起きているに違いありません。
猟師は扉を思い切り蹴って中に入りました。

家の中は予想通り、大変な事になっていました。
白い大きな狼が、女の子を食べようとしています。女の子の服は、狼の爪でボロボロに
引き裂かれていました。必死で狼の肢を押し戻そうとしていますが、獣の力にはかないません。
剥き出しになった白い肩に、大きな爪ががっちりと食い込んでいます。叫びすぎて掠れた喉を、
今にも鋭い牙が噛み切りそうです。近づく狼の唇に、細い首を必死で反らしています。
ちょっと別な事を想像してしまうほどの襲われぶりです。

「何してるんだ!その子を離せ!」
アーヴィン猟師は叫びました。手にした猟銃を狼に向かって構えます。
狼は顔を上げて猟師と銃を眺めました。そしてチッと大きな舌打ちをしました。
ひらりと身を翻して跳躍します。そのまま空気を切り裂くように部屋を横切り、あっと言う間に
森の中に消えていきました。
サイファー狼は、アーヴィン猟師を知っていたのです。
この猟師は性格こそ確かにヘタレですが、銃の腕前までヘタレではありません。
賢い狼は、それをちゃんと知っていたのです。

「大丈夫〜?」
猟師は女の子を抱き上げました。女の子が震えながら猟師を見上げます。
突然蒼い瞳からボロボロと涙が零れました。泣きながら、猟師の胸にしがみ付きます。
猟師がよしよしと背中を撫ぜると、しゃくりあげながら猟師にありがとう、と言いました。
大きな瞳を感謝で潤ませながら、何度も繰り返し御礼を言い続けます。

猟師はとても嬉しくなりました。こんなに感謝されたのは久しぶりです。
たいしたことないよ〜と、気取って帽子のつばを指で押し上げます。蝶々の一匹でも人差し指に
乗っけたいところです。
赤頭巾ちゃんはひょいと猟師の銃に目をやりました。眼を輝かせて叫びます。
「すげー!!お前猟師なのか?な、な、銃触ってもいいか?」
赤頭巾ちゃんは別名物知りゼルといいます。知識欲が旺盛なのです。珍しい物は触ってみないと
気がすみません。今まで触れなかったのは、スコールお母さんのガンブレードくらいです。

アーヴィン猟師はギクリとしました。そして大変がっかりしました。
村に猟師は一人きりです。
この子もじきに自分が噂のヘタレ猟師だと気付くでしょう。この感謝に満ちた態度も、
もう終わりです。思わず溜息が漏れてきました。

赤頭巾ちゃんは驚きました。そんなに銃を触らせたくないのでしょうか。
「・・えーと、ごめん。そうだよな。お前の商売道具だもんな。変な奴に触られたくねえよな。」
困ったように頭をかく赤頭巾ちゃんを、猟師は不思議なものを見るような気持ちで眺めました。
そして「君は僕の噂を聞いた事が無いの?」と聞きました。
赤頭巾ちゃんが不審そうな顔をすると、猟師は一層悲しげな顔をして、自分が狙撃に失敗した
ヘタレ猟師である事を伝えました。

赤頭巾ちゃんは首を傾げました。そう言えば、以前そんな噂を聞いたような気もします。
しかし、あまり深く考えた事はありませんでした。
赤頭巾ちゃんはその時、やっぱり謝るだの何だのと突然言い出した元教師の複雑な女心に
振り回された挙句、地下水路に閉じ込められていたので、その辺の事情はよく分からないのです。
やっと持ち場に戻ったのは、計画遂行時間ギリギリになってからでした。
任務放棄ぶりではいい勝負です。人の事など責められたものではありません。
第一、あの計画は無理がありすぎました。
魔女を閉じ込めると言いつつ、閉じ込める柵の間隔が、優に一mはありました。確かに魔女の
乗った山車は閉じ込められるでしょうが、閉じ込めたいのは山車ではなくて魔女なはずです。
計画首謀者の娘も、かなり行き当たりばったりの計画をたてる女の子ですが、父親の適当さも
相当です。さすが親子の血は争えないと皆脱力したくらいです。

そんな訳で、今更一つや二つの手違いくらい何でもありません。いずれにしろ結局失敗したに
違いなのです。何故未だにそんな事を気にしてるのか、聞き返したいくらいです。
赤頭巾ちゃんは猟師にそう言いました。良くも悪くも、割切りの良さは世界一です。

猟師は絶句しました。そんな能天気な考え方あると、今まで思ってもいなかったのです。
思わず口篭もっていると、赤頭巾ちゃんが猟師の眼をひょいと覗き込みました。
そして過去の事は知らないが、猟師が今自分を助けてくれた事は事実だと言いました。
自分がそれに感謝してる事も、事実だと言いました。
自分は単純だから、それしか分らねえと言いました。

猟師は赤頭巾ちゃんを眺めました。
そしてふと、この子がいつも側にいてくれたらどんなにいいだろう、と思いました。
こうやって落ち込む自分を励ましてくれたら、どんなにいいだろう、と思いました。

良く見れば、女の子は結構可愛い顔をしています。少し子供っぽいですが、さっき狼に襲われて
いた時の様子は中々でした。開発の余地は充分ありそうです。
猟師はにっこりと笑いました。僕の家に遊びにこない?と赤頭巾ちゃんを誘いました。
そして何となく思いついて、美味しいパンもあるよ、と言いました。

美味しいパン、の言葉に赤頭巾ちゃんはすっかり夢中になってしまいました。
ちょっとならいいぜ!と元気良く頷きました。猟師は嬉しくなりました。想像以上の単純さです。
こんなに簡単にナンパが成功するなんて、思ってもいませんでした。
この子は何て自分に自信を与えてくれるんだろう、と思いました。
なんだか夢中になってしまいそうです。いや、もう既にメロメロです。

猟師は知りませんでしたが、実は赤頭巾ちゃんは格闘技の達人です。
獣はともかく、人間相手にそうそう負けたりしません。だからこそ、こんなに簡単に猟師の
誘いに乗ったのです。しかも恋愛事への鈍さでは国宝級です。これから始まる苦難の道に、
猟師は全く気付いていません。
でも、それでいいのです。
猟師は道が一本しかないなら、その道を歩いて行くくらいの勇気は持っているのです。

猟師と赤頭巾ちゃんは、大体において上手くいきました。
二人は大層性格が違うのですから、大体上手くいくなら上出来です。
時々猟師が顔に大きな青痣を作ったり、赤頭巾ちゃんが腰を痛めてベットから出て来れな
かったりしましたが、そんな事は大した問題ではありません。
二人は何だかんだ言いながら、結構幸せに暮らしました

ちなみにサイファー狼はすっかりラグナお祖母さんに懐いてしまい、一緒に森をパトロール
するようになりました。この二人(特に狼)に逆らう命知らずな獣は居ません。森はすっかり
平和になりました。
お陰でスコールお母さんも少し暇になりました。大好きな昼寝も出来るようになりました。
皆はいつまでも幸せに暮らしました。

おしまい

JIRO様から赤頭巾イラストを頂きました!(大喜び)
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