大逆転  3 (episode4)





ゼルの顔が一気に真っ赤になった。金魚のように口をパクパクさせる。
スコールが、色っぽ過ぎる。
呼吸困難で窒息しそうになりながら、ゼルが思う。
何ていうか、ここまで全開のスコールは見た事がない。て言うかこいつは本当に綺麗なんだ。
今までだって勿論そう思ってた。だけど、こんな甘く絡みつくような瞳で見られた事は無い。
こんな妖艶に囁かれた事は無い。

この男が、俺を好きなのか。

突然思い至った事実に、心臓が爆発しそうになった。
こんな妖艶な男に、好きだと言えと強要しちまったのか。こんな男と、俺はやろうとしてるのか。
どうしよう。頭の中がグルグルする。恥ずかしさで、このまま倒れてしまいそうだ。

可愛いな。
うっとりとスコールが思う。何て可愛いんだ。好きって言っただけで、全身真っ赤だ。金色の睫が
恥ずかしげに震えてる。も、いいから、と目元を染めて小声でもそもそと呟く。
胸の中で陶然と繰り返した。可愛い。本当に可愛い。

ずっと、嫌そうに眉を顰めた顔しか見てなかった。無理やり引き寄せて、快楽に溺れる顔を引き出し
ても、終わればやっぱり嫌そうに顔を伏せられた。笑顔なんか、望むべくもなかった。
好きだと言えば、きっと嫌悪で顔を歪めるだろう。そう思ってた。

まさか、許してくれるなんて思わなかった。
その上、好きだと言い続ければ、自分を好きになると言ってくれた。
言うに決まってる。俺はずっとそう言いたかったんだから。言って言って言いまくる。
それで、こんな顔まで見れて。どうして言わずにいられるだろう。

「・・・あ・・・ぁっ」
ぬるりと指がゼルの中に入っていく。柔らかな入り口が抵抗なく自分の指を呑み込んでいく。
ゼルが苦しげに息を吐いた。いまだ熱をもった内部を探られるのが辛いらしい。いいところを擦ると、
ビクビクと辛そうに眉を寄せた。だめ、とひどく切なげに喘ぐ。なんだか昨日の自分が羨ましくなった。
こんなになるまで、どれだけ喘いだだろう。どれだけ俺のものを呑み込んだだろう。
そう思うと、止まらなくなった。
反応を返し始めたゼルのモノを緩やかに手で刺激する。音がするほど胸の突起を吸い上げる。
「・・・・あ・・っ・・や、スコール・・っ」
「好きだ。」
「・・・っや・・っ」
ゼルの眼に薄い涙が浮かぶ。スコール、と縋るような声で呼ばれて、頭の中が沸騰した。
硬く立ち上がった自分のモノを入れる。柔らかな内壁と竿が擦れるたびに、微かな痛みと強い快感が
走った。自分のモノも、随分過敏になってることに気づいた。昨日の自分が本気で憎くなった。
これじゃ、長く持ちそうもない。もっとこの快感を味わっていたいのに。
ゼルの中に、いたいのに。

「あ・・あ・・っ!」
ゼルが掠れた声で喘ぐ。腰に全く力が入っていない。突き上げる動きに、為す術もなく揺さ振られて
いる。ぐちゃぐちゃと卑猥な音が下半身から洩れる度、ゼルと自分の息が上がってくる。
好きだ、と囁くとビクリと身体を震わせて、一層強くしがみついて来た。ぴったりと密着する
しっとりとした皮膚の感触に、全身が蕩けそうになった。
好きだ。
泣きたくなるほどの充実感の中で思った。好きだ。お前が好きだ。愛してる。

嫌われてる時でさえ、手放す気にはなれなかった。この暖かい身体を。
ゼルは俺との関係を嫌悪していた。それでも、俺の手を弾こうとはしなかった。
いつでも俺に与えてくれた。俺からお前を取り上げようとはしなかった。俺を一人にしなかった。
優しいお前。お前がいれば、寂しくない。俺の心は満たされる。溢れるほどに、満たされる。
俺もお前に、与えてやれる。俺の全てを、与えてやれる。

身体が燃えるように熱くなる。与え合う快感に、息が出来なくなる。
「・・あ・・・・やっ・・もう・・・っ」
ゼルが切羽詰った声をあげる。その声に自分も追い詰められていく。
「・・く・・っ」
強く腰を突いた。ゼルが背中をしならせる。
「・・・・あ・・!」
その瞬間、強く中を締められた。思わず喉を仰け反らせた。頭の中が真っ白になった。
ふっと身体の緊張が解ける。ゼルの上に倒れこんだ。そのままじっと抱き合った。
「・・・・動けなくなったら、どうすんだよ。もう俺、壊れるかと思った。」
暫くして、ゼルが泣きそうな声で訴えてきた。
「ごめんな。」
「・・・知らねぇよ馬鹿」
拗ねた声が可愛くて、思わず笑った。ぎゅっと強く抱きしめて、頬に軽くキスをした。
「好きだ。」
ゼルがまた赤くなる。
「・・・・も、もういいよ。分かったから。」
「愛してる。」
「・・いいってば。」
「大好きだ。」
「・・・もういいっつてんだろーが!」
ゼルが、真っ赤になってスコールの唇を手で塞ぐ。スコールが笑う。
幸福そうな、明るい声で。


ああ、俺失敗したかも。
ゼルが後悔しながら思う。あんな事、言わなきゃ良かった。
好きだと言ってくれたら好きになる、なんて。
「好きだ。ゼル。」
目の前で、美貌の男が嬉しげに言う。さっきから、言いまくりだ。
その度に顔が火照る。もうちょっと手加減してくれよ。心臓が破裂しそうだ。
何でこう、こいつは極端なんだ。今までのクールなお前は何処にいったんだ。
赤くなって俯くゼルに、スコールがまた好きだと囁く。恥ずかしくて、いたたまれなくなった。
「お、俺、部屋に帰るわ。」
スコールがさっと表情を曇らせる。
「何で帰るんだ。ずっとここにいればいい。」
「駄目だよ。俺、着替えてぇし。風呂も入りてぇもん。また来るからさ。」
「それならここで入っていけ。服だって貸してやる。」
整った唇を、子供のように尖らせながら訴える。
「だから、帰っちゃ駄目だ。」

・・・こいつって。
ゼルが呆れながらスコールを見上げる。スコールがにっこりと笑う。
「な?そうしろ。」
「・・・・・。」
言い返す気力の無くなったゼルがしみじみと思う。
皆間違えてる。こいつ、寂しがりやじゃねえ、甘えたがりだ。それも、物凄い甘えたがり。
帰るったって、同じ寮の中じゃねえか。何で服借りてまで、ここに居続けなきゃいけねえんだ。
すぐに会えるじゃねえか。風呂入って、着替える時間なんて、すぐじゃねえか。

こいつの甘えたがりって、リノアみたいに表に出ない分、より始末に悪い気がする。
普段押し殺してる分、反動が凄い気がする。
ああ、俺、まじで失敗した。こんな男に、好きだと言えなんて言ったりして。猫に鰹節ってやつだよな。
死ぬまで言われそうな気がするぜ。

結局根負けしたゼルは、スコールの服を借りることにした。
風呂に入ってさっぱりした二人がベッドに寝そべっていると、スコールがふと呟いた。
「キスティスに、感謝しなきゃな。」
「・・あ?」
「昨日、キスティスに連れてこられたんだろう?違うか?」
「・・・うん。」
そう言えば、スコールを連れて帰るよう後押ししたのもキスティスだった。そう言うと、スコールは
そうか、と軽く相槌を打った。
「気を使ったんだろうな。俺達が険悪で。仲直りさせようと思ったんだろう。」
「・・・そうだよなあ。心配しただろうな。あんな場面に居合わせて。」
「心配性だからな。」
いや、心配性じゃなくても心配するだろ、あれは。そう思って、ゼルはちょっと反省した。
それなら心配性のキスティスは一層心配だっただろう。悪いことをした。
「・・・今度、何か奢ってやろうぜ。」
スコールが横目でちらりとゼルを見て、笑いながら言う。
「美味いやつをな。」

「・・・でも、お前も結構散々な誕生日だったよな。」
「そうか?」
「そうだよ。すげー不機嫌で、酒ばっか飲んで。挙句に潰れちまうし。」
「・・まぁ、そうだな。」
スコールが苦笑する。その姿をみて、ふと誕生祝に何が欲しいか聞いた時の事を思い出した。

『「おめでとう」ってキスの一つもしてくれればいいな。』

あの時の言葉は本気だったんだな、と思った。本当にそうして欲しかったんだな、こいつ。
スコールの腕を、人差し指でちょんちょんと突付いた。
「・・・・?」
「・・・・お前、あの時言ってた誕生祝、まだ欲しい?」
スコールが暫く考える。そして、嬉しそうに眼を輝かせて頷く。
「勿論だ。」

スコールが、いそいそと身体を起こす。端正な顔一杯に笑顔を浮かべて、両腕を伸ばす。
あまりに露骨な態度に、赤面した。
クールで寡黙な伝説のSeeDの本性がこれだって知ったら、皆ひっくり返って驚くだろうなと思った。
俺だって、さっきから驚きっぱなしだもんな。

スコールの肩に手をかけて、薄い唇に軽く口付けた。
「誕生日、おめでとう。」
言い終わって、急に恥ずかしくなって顔を伏せた。その俯く頭に、コツンと額を打ち付けて
スコールが尋ねる。
「・・・もう一つは、まだ、駄目か?」
「え?」

『好きだって言ってくれれば、尚いいな』

ゼルが瞬きをする。ああ、あれか。そう言えば、そんな事も言ってたな。
ちょっと沈黙していると、スコールが困ったように小さく笑った。
「冗談だ。そこまで欲張りじゃない。」
ゼルが顔を上げる。嘘つけ。お前の冗談は当てになんねえよ。今まで全部本気だったじゃねえか。

スコールの顔を見上げながら考える。
もう随分「好き」って言われたよな俺。昨日の分から含めると、数え切れねえよ。
じゃあ、もう、いいか。
俺も、スコールが好きになっちゃおうか。

「・・もう一つも、やる。」
「え?」
「ほ、欲しいんだろ?」
ぶっきらぼうに言って瞼を伏せると、上から真剣な声が降ってきた。

「欲しい。」

顔を上げて、スコールの眼を真正面から見詰める。
スコールが、ゼルの頬にそっと手を伸ばす。指が頬に触れた瞬間、ゼルは思わず眼を閉じた。
冷たくない。震えていない。暖かい血が通ってる。
涙が出そうになった。

ああ、やっと。
やっと俺は、この指を手に入れた。


ゼルが言い終わったら、キスしよう。
スコールが思う。言い終った瞬間に、この唇をキスで塞ごう。
ずっとずっとしたかった、恋人同士のキスをしよう。
ゼルが自分の腕をぎゅっと掴む。ふと、その手が微かに震えているのに気が付いた。
強い緊張に、指先が冷えているのに気が付いた。
胸が一杯になった。
それならこの言葉は、ゼルにとって決して軽いものじゃない。真実の言葉を、俺は貰う。
うっとりと、震える指に手を伸ばした。

じゃあ俺は、この手を握っていてやろう。
指の震えが止まるまで、ずっと暖めていてやろう。

冷たい指を包むように握り締めると、ゼルが驚いた顔をした。
何だか泣き出しそうな顔で、涙を浮かべて笑う。
何て綺麗な笑顔だろうと思った。こんな笑顔が見れるなら、ずっとこの手を握っていたい。
「スコール・・・」
ゼルが思い切ったように口を開く。スコールの胸が高鳴る。
あと少し。もう少しで。
「俺、お前が・・・」
ゆっくりと、手を包んだまま引き寄せる。
薄い唇の震えを、スコールがうっとりと見つめる。
もうすぐ、この唇にキスできる。唇の震えも、止める事ができる。
ゼルが静かに眼を閉じる。近づく唇に、お互いの体温が上がっていく。



「好きだ・・・・」



episode4  END

Congratulations! A happy birthday Sqall.




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