熱情のベクトル  2 


駄目だ。止まらねえ。
サイファーは思った。一瞬、我に返ったのだ。止めろ、とゼルが叫んだ瞬間、ハッと我に返ったのだ。
あのチャンスに、縋るべきだった。あそこで止めれれば、冗談で済ます事が出来たのだ。
あの辛そうに伏せた瞼さえ、眼に入らなければ良かったのに。閉じた睫の長さに、惑乱された。
あの瞼を開かせてやりたくなった。快楽に蕩ける瞳を見たくて堪らなくなった。
ショートバンツを下着もろとも一気に引き摺り降ろした。白い下半身が剥き出しになる。
指を動かすと、ゼルがぐっと唇を噛んだ。赤く染まる唇に、全身の血が沸騰するような気がした。
先走りに濡れる竿を掌全体で揉むようにしごく。
「・・あ・・・っ」
ついに漏れた喘ぎ声は、強烈に耳を打った。下半身にずしりと快感が走った。
その衝撃の強さに、もう少しで自分の方が暴発しそうになった。
畜生。
わけもなく、腹が立った。むざむざと罠に掛かってしまったような気がした。
翻弄されてるのは、自分のような気がした。一層いやらしく指を蠢かした。
自分に負けないくらい、この細い体を翻弄してやりたかった。

固く食い縛った細い顎を、強く掴む。砕けそうな痛みに耐え兼ねて、ゼルが唇を開いた。
溢れるように、喘ぎ声が漏れ出す。
「あ・・っ・・・!んっ・・・やめ・・っ!」
震えながら細い首を仰け反らせる。サイファーの胸の中で、白い喉がひくひくと痙攣する。
吸い寄せられるように、唇を押し当てた。ゼルの背中がビクリとしなる。
しっとりと汗ばむ感触が、堪らなく淫靡だと思った。このまま、全身を舐めたいくらいだった。
「・・いやだ・・・っ」
泣き出しそうな声に、煽られる。もっと泣かしてやりたくなる。
先端を焦らすように捏ねまわす。張り詰めた背中が、一層しなる。顎から手を離し、シャツの前
をたくし上げた。胸の突起を探し当てる。男でも立つんだな、と思った。ふっくりと立ち上がっ
た乳首が、後ろからでも見えるような気がした。それが、更に欲望を掻き立てる。
指先だけで、小さな突起の感触を味わった。擦るように引っ張ると、ゼルが千切れそうなほど
激しく首を振る。先走りの汁がトロトロとサイファーの手を濡らした。
「いやだ・・・!離せっ!はなせったら・・・!!」
涙が眼に溜まってくる。こんなに頼んでいるのに、どうして止めてくれないんだ。
どうして手を離してくれないんだ。どうしてそんなに、残酷なんだ。
「出しちまえよ」
低い声が囁く。ビクンと身体が震えた。霞む頭を支配する、その声。
「・・・は・・っ・・」
喉が引き攣る。ついに涙が零れ落ちた。待ち構えていたように、熱い舌がそれを舐め取る。
サイファーが今度は両手で扱き出した。激しく指を上下させながら、袋を揉みしだく。
頭の中がスパークした。もう限界だった。これ以上は耐えらない。
「あ・・・・!!」
ふっと、気が遠くなった。自分の放った白い液体が、朦朧とする視界に飛び込んで来た。

ぐったりと、サイファーの胸に倒れ込んだ。息をするたび、肩が大きく上下する。
何も考えられなかった。
テレビの中で、まだ女が喘いでいる。卑猥な言葉を叫んでいる。
ぼんやりと、それを聞いた。夢の中にいるように、体中の感覚が浮遊している。
ふいに、頭上から低い声がした。
「良かったか。」

いきなり、現実に引き戻された。今の状況をはっきり理解した。
サイファーにいかされた。死ぬほど喘いだ。手の中に出した。
パッと身体を起こして逃げようとした。とにかく、この場から逃げたい。サイファーから
逃げたい。混乱する頭を冷ましたい。
サイファーが素早くゼルの腕を掴む。そのまま、今度は仰向けに転がされた。
欲望に掠れた声が耳元で囁く。
「なあ・・・今度はてめぇがやってくれよ。」

呼吸が止まりそうになった。
「こ、今度は・・?」
余りのショックに言葉が出てこない。
今度はって、今のはお前が無理矢理俺をいかせたんじゃねえか。
俺は何度も止めろって言ったのに。止めてくれって言ったのに。
酷薄そうな唇がニヤリと歪む。
「自分だけ、なんて無しだぜ。」

ひでえ。
本気で泣きそうになった。無理矢理いかせやがったくせに。何て勝手な男だろう。
「そ、そんなの勝手過ぎ・・・」
「ごちゃごちゃ煩せよ。てめぇ、それが目的で俺にこんなもん見せたんだろうが。」
そうだけど。
ゼルがぐっと言葉に詰まる。
そうだけど、まさかこんな事になるなんて。
サイファーがぐいとゼルの手を掴んだ。大きな手に、指先まですっぽりと包まれる。
そのまま、ゼルの指は、サイファーの下半身に引き摺られていった。

信じられない。今起こってる出来事が、現実だと思えない。
自分の手が、サイファーのモノを掴んでる。そんな事が、現実なんて。
だが、手の中でドクドクと脈打つ感覚は、これは確かな現実だと自分に突きつける。固く立ち上
がった竿に、痛いほどの熱を感じる。
自分の手をがっちり包むサイファーの掌も、燃えるように熱い。
「・・ひっ・・・」
動き始めた手に、悲鳴が漏れた。本気だ。サイファーは本気で、男の自分にこんな事をさせよう
としてる。突然、激しい恐怖が湧き上がってきた。
怖い。こんな事、許されるのか。こんな事、してもいいのか。
この掌の熱が怖い。この手が、自分をあれほど翻弄したのだ。この熱が、自分をあんなに喘がせ
たのだ。
この熱に引き摺られる。戻れなくなる。自分が壊されていく。

ガチガチと歯が鳴った。チキンと罵られてもいい。嫌だ。こんな怖い思いをするのは嫌だ。
「嫌だっ・・!たのむ、やめてくれ・・っ!」
歯の根が激しく痙攣して、上手く喋れない。全身から血の気が引いてくる。
ふいに、唇に暖かいものが押し付けられた。

なだめるように、熱い舌が震える唇を吸う。繰り返し、繰り返し、冷えた唇を暖めようとする。
優しい口付けに、思考が緩やかに掻き回されていく。
固く閉じた瞼を開くと、見詰める瞳と眼が合った。
緑の瞳。
思いがけず、涙が溢れてきた。
ああ、サイファーの瞳だ。深い森の色をした、サイファーの瞳だ。
「・・っサイファー・・・」
縋るように、名前を呼んだ。喉から漏れる嗚咽を、サイファーが唇で柔らかく封じる。
「・・・ふ・・・」
涙が止まらなくなった。
「サイファー・・、サイファー・・、サイファ・・っ」
名前を呼ぶたびに、優しいキスが繰返される。痺れるような、甘い感触。
分からなくなった。
止めて欲しくて名前を呼んでいるのか、キスが欲しくて名前を呼んでいるのか。
唇が離れる度に、呼び続ける。サイファーの名を、呼び続ける。

俺は一体どうしちまったんだ。
サイファーは思う。こんなキス、女にだってした事ねえ。こんな、甘やかすようなキスは。
そんなつもりはなかった。ここまで自分を煽った責任を取らせてやろうと思っただけだ。
この下半身はビデオのせいじゃねえ。てめえのせいだ。てめえが俺を煽ったんだ。
だから、てめえが責任をとれ。てめえの手で俺をいかせろ。
そう思っただけだ。
まさか、あんなに怯えると思わなかった。
可哀想になった。
怯える青い瞳が、震える唇が、可哀想で堪らなくなった。
思わず、唇を押し当てた。薄い唇の震えを、吸い取ってしまいたかった。
どうしてそんなに怯えるのか、分らなかった。
大丈夫だ、と伝えたかった。
大丈夫だ。俺はそんなに、怖くねえ。
俺をそんなに、怖がるな。

一度キスをしてしまうと、止まらなくなった。たがが外れたように、何度も淡い唇に口付けた。
ずっと、こうしたかった気がした。あの赤いペンを押しやった時はもう、決めてた気がする。
この唇に触れるのは、俺しかいねえ。俺しか駄目だ。
この唇は、俺のものだ。

もう一度ブツを扱き始めた。自分の手とブツの間に、ゼルの手が挟まってる。その事実に、
不思議なくらい興奮した。
呆けたように力の抜けた指を掴んで、自分のモノを扱かせる事に、たぎるような征服感を感じる。
頼りなく名前を呼ぶ声に、保護欲が湧き上がる。
相反する感情に、心臓が掻き毟られる。
この感情は、一体何だ。
誰か、俺を止めてくれ。
もう、分った。嫌というほど、思い知らされた。無理だ。
俺の力じゃ、止められねえ。
誰か、俺を止めてくれ。

サイファーの息が荒くなる。竿が先走りの汁にぬめっていく。
手の中の高まりを確実に感じて、ゼルは激しく身を震わせた。
ぐちゃぐちゃと指先から零れる卑猥な音に、思考が滅茶苦茶に乱される。
心臓が爆発しそうだ。俺の手が、この男を興奮させてる。
名前を呼ぶと、噛み付くようなキスが返される。サイファーの余裕が失われていくのが、
唇からはっきりと伝わる。
食い縛る歯から漏れる快楽の呻き。固く顰められた精悍な眉。掌の燃えるような熱さ。
「・ん・・・うっ」
低い呻き声に、全身が反応する。感じてるのは、自分の方のような錯覚すら覚える。
身体が沸騰する。この熱を吸い取って欲しい。この熱はお前のものだから。
お前が俺に与えた熱だから。
サイファーの耳元に顔を近づける。喘ぐように、囁いた。

「・・・サイファ・・・」

自分のだとは思えない程、甘く掠れた声だった。
その瞬間、サイファーが一際大きく呻いた。
熱い液体が、剥き出しの内股に叩きつけられる。全身が痙攣した。
まるで、自分が放ったようだった。

テープはとうに終わっていた。
荒い息が静まると、部屋はしんと静寂に満ちた。
ゆっくりと、サイファーが身体を起こす。
最後に名前を呼ばれた気がする。蕩けるような声で、呼ばれた気がする。
引き寄せられるように、顔を近づける。
この唇は、俺のものだ。


アーヴィンは昨日と同じ教室でゼルを待っていた。
「どうだった〜、僕のお勧め作品は〜?」
「・・・・・・。」
「あれ?どうしたの?気に入らなかった?」
不思議そうにゼルの顔を覗き込む。

「良かったぜ。」

突然背後から低い声がした。ゼルがパッと振り返る。
「サ、サイファー!」
「え?君も見たの?」
へえ、と意外そうに首を傾げる。
「おう。」
サイファーがニヤリと笑った。

「今度は、もっと濃いやつを頼むぜ。」

「!!!」
ゼルの顔が真っ赤に染まる。
アーヴィンが君も結構好きなんだねえ、と呑気に笑う。
「いい!もう借りなくてもいい!この話は忘れてくれ!!」
「照れるなよ。」
「て、照れ・・・!」
ゼルが絶句する。何考えてるんだ、この馬鹿。
俺はもう嫌だ。あんなの嫌だ。

我に返った後、恥かしくて死にそうになった。
サイファーの手の中に出したのみならず、あんなに泣いて。縋るようにキスをねだって。
男としてのプライドはボロボロだ。
お前はいいよ、お前は。何か余裕って感じだったもんな。でも、俺は駄目だ。
心ごと、もぎ取られそうな気がした。あんなこと、二度とごめんだ。
「え〜、じゃあご期待に答えて、お勧めシリーズ第二弾はね〜」
「だから、止めろっつってんだろーが!!」
ゼルが涙目で叫ぶ。もう、どいつもこいつも、どうして俺の話を聞いてくれないんだ。
誰か、俺を助けてくれ。


「サイファーと、上手くやってるか?」

今日もスコールがゼルに聞く。
「・・・・うん・・上手く・・・やってる・・かな?」
どんどん自信無さげになっていく返事に、スコールの困惑もどんどん深くなっていく。
何か起こってるのは確実なのに、絶対それを言おうとしない。
何だ。一体何が起こってるんだ。
二人の間に、一体何が起こってるんだ。

「・・・何かあったら、すぐ言えよ。」
「・・!スコール、お前っていい奴だな・・・!」
がばりとゼルがスコールに抱きつく。涙ぐみながら、背中を叩く。
だから、何なんだ。
胸に不安が湧き上がる。
この様子から察するに、もう手遅れなんじゃないか?
近いうちに、また一騒ぎあるんじゃないか?
訳の分らないまま、ゼルの背中を撫ぜる。
自分の予感は、当たるのだ。
悪い予感ほど、当たるのだ。

思わず溜息が漏れてくる。
この二人はいつもそうだ。
サイファーは、全力でつっぱしるし、ゼルは簡単に流される。
気付くと、にっちもさっちもいかなくなってる。もう誰にも手がつけられない。
とんでもない方向に進んでいく。

誰か教えてくれないか。
この二人が一体何をしてるのか。
この二人が、一体どこに突き進むのか。

END

※後記※
目標の一つに「入れなくても色っぽいゼル」というのがあったのですが、書き終えてみると、
「入れたも同然のゼル」になってる気が・・・。何故なんだ(涙)
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