逆転のフーガ(3) |
「・・・ん・・・」 スコールが俺の頬を両手で持ち上げて、濃密なキスをする。さっきのキスだって、相当濃かったが、 素肌を直接絡ませてするキスは、よりずっと官能的だ。 じわりと疼き始めた下半身に、ぎょっとした。どうなってるんだ、たかがキスくらいで。 このままじゃ駄目だ。とにかく、このキスを終わらせなきゃ。 スコールの手首を掴んで、何とか唇を引き離した。唾液がトロリと糸を引く。 俺の口元に零れたそれを、スコールが獣の様にペロリと舌で舐め取った。 俺の獲物。 そう呟く声が聞こえてきそうだ。思わず身体が震えた。 必死でスコールの首筋に噛み付いた。さっきの光景を思い出したくない。 思い出したら、負けちまう気がする。 スコールが俺の耳を、指で悪戯にくすぐる。むかつく位の余裕ぶりだ。 思い切って、スコールの胸の突起を口に含んだ。引き締まった筋肉に埋もれた乳首を、舌で掘り起こす。 ふっくりと立ち上がったそれを、一心に舐め続けていると、スコールが小さな吐息を漏らした。 スコールのブツも、すっかり立ち上がってる。 ちょっと嬉しくなった。何だ、俺だってやれば出来るじゃねえか。見ろ、スコールが感じてる。 スコールがクスリと笑った。何でだ?何がおかしいんだ? 「お前、猫みたいだな。」 ね、ねこ・・・!? 愕然と動きを止めた頬を、スコールが優しく撫ぜた。可愛いな、と呟く。 可愛い・・・。 頭にきた。 俺はその言葉が大嫌いだ。ガーデン入学当時、何度そう言ってからかわれたか、分らねえ。 初等部に行け、と囃された(中はマジな奴もいた)事も数知れずだ。 そう言われない為に、俺は頑張って来たんだ。それを、こいつ・・・! スコールのブツに手を伸ばした。そそり立ってるモノを掴んでしごく。こんな事をしたのは初めてだが、 怒りに眼が眩んで何も考えられなかった。 手の中のブツがドクドクと反応を返す。さすがのスコールも、これには抗えない。奴も男だ。 ざまあみろだぜ! それにしても、でかい。こんなものが俺の中に入ってたのか。入れられてる事よりもむしろ、 入れてしまうスコールに驚きだ。きっと本当に上手いんだな。 そんな余計な事を考えたのがまずかった。 スコールの手が何時の間にか下に伸びていたのに、気付けなかった。 「あ・・・っ!」 柔らかく玉を揉む指先に、全身がカッと熱くなった。放出に濡れたままの竿を、巧みに擦り上げる。 「・・・ふ」 思わず熱い吐息が漏れた。弄られつづけた先端が、いつもよりずっと敏感になっている。 二回も出したというのに、また首をもたげ始める。何かを期待するように、透明な液をチロチロと漏らす。 「手・・放せ」 一方的な命令は、当然のように無視された。一層巧みに、濡れる先端を撫でまわす。 「・・・や・・だっ」 止まない愛撫に、腰を浮かせて逃げようとした。スコールが開いた片手で俺の腕をシーツに押さえつける。 俺は犬のように、スコールの上に四つん這いになった。 「・・・あ・・んっ・・んっっ・・・あ・・・!」 スコールの手の動きに、浮かせた腰がゆらゆらと揺れる。溢れるように、喘ぎ声が漏れる。 「スコール・・や、止めて・・く・」 「いい格好だな、ゼル」 さっきのお礼だ、とスコールが下から俺の胸に舌を伸ばす。熱い口腔で、捏ねるように舐めまわす。 そして突然カリッと噛み付いた。 「・・・・!」 視界が霞みがかったように白くなる。 もう駄目だ、と眼を瞑った瞬間、スコールの手が俺の根元を力いっぱい締め上げた。 「!!!」 声にならない衝撃に、俺はのたうちまわった。 出口を求める熱が、狂ったように体中に逆流する。固く瞑った眼から涙が溢れてくる。 「ひっ・・!!や、やめ・・・!やめてくれ・・・っ!!!」 さっき迄とは比較にならないほど、切迫した声でスコールに懇願した。が、固く握り締められた 手は少しも緩まない。激しく首をふる俺の耳に、スコールがゆっくり囁く。 「出したら、負けだぞ。いいのか?」 今ぐらい、スコールが憎らしかった事は無い。 天使のような美貌で、地獄のような苦しみを平然と与える。残酷な選択を、俺に差し出す。 「・お、おまえ・なん・か・・き、きら・い・・」 握る手がぎゅっと固くなった。全身から汗が噴出した。ひぃ、と情けない悲鳴が上げる。 「そういう事は、言うな。」 指が俺の中に挿入される。さっきまでスコールのものを飲み込んでいた襞は、柔らかくほぐれて スムーズに長い指を受け入れる。 その指が、容赦無く前立腺を擦る。 「!!!ああああっ・・・・!!!」 何も分らなくなった。自分が何をしているのか、何をされようとしてるのか、何も分らない。 スコールの指に、全てが支配される。許してくれ、と泣きながら訴えた。 スコールの名を繰り返し呼んだ。うわ言のように、呼び続けた。 噛み付くようなキスが、唇を塞ぐ。悪魔のキス。俺を支配する、悪魔のキス。 もう悪魔だって構わない。どうか、俺を救ってくれ。どうか、この身体を、救ってくれ。 「・・・入れても、いいか?」 声を押し殺して、スコールが尋ねる。苦痛に耐えてるように、息を切らしている。 震える喉で頷いた。彷徨う腕を、引き寄せられる。 汗に濡れる褐色の髪を抱きしめた瞬間、スコールが俺の中に入ってきた。 ベットのスプリングが軋む音がする。スコールが動く度、俺の身体が突き上げられる度、 ギシギシと軋む。後はお互いの弾む息しか聞こえない。 なすがままに揺らされる身体は、まるでスコールの一部になってしまったようだ。 この快感は、もはや拷問に近い。 スコールがぐっと腰を入れてきた。俺の身体が跳ね上がる。 「ゼル・・!」 スコールが一言叫んだ。お互いの熱が一気に放たれる。 そのまま、俺の意識は遠くに霞んでいった。 眼を覚ますと、スコールが俺をじっと見ていた。汗ばむ髪をゆっくり撫ぜる。 「・・・今度は、泣くな。俺はちゃんとルール通りにやったんだ。だから、泣くな。」 俺の望みを打ち砕いておいて、泣くなと言い切るスコールが憎らしかった。 撫ぜる手を弾いて、芋虫のようにシーツに包まった。今すぐこの部屋から出て行きてえ。 もっと腰に力が残ってたら、絶対そうしてる。 スコールがシーツの上から、俺の頭を軽く小突く。 「何でそんなに怒るんだ。あんなに喜んでたくせに。」 最悪のフォローに、ブルブルと拳が震えた。 「うるせえ!!お前なんかに、俺の気持ちが分るか!!」 「分らないな。」 スコールがぐいと腕に力を入れた。無理矢理シーツを剥そうとする。 「俺は誰かに言われて、お前を抱いてるわけじゃない。」 切り裂くように、吐き捨てる。 「人に言われて、俺と寝るのか。そんな奴の気持ちなんか、俺は知らない。」 思わず、顔を上げた。スコールがふいと横を向く。 突然、気が付いた。 ああ、こいつ怒ってたんだな。 さっきからずっと、怒ってたんだ。きっと、俺に入れさせる気なんか、一ミリも無かったに 違いない。 「・・・う・・」 涙が湧きあがってきた。 なら、そう言えばいいじゃねえか。酷えよ、お前。そんなに俺を弄んで、楽しいのかよ。 涙を堪えて睨みつける俺に、スコールが溜息をついた。 「・・分った。俺がいい方法を教えてやる。」 「・・・いい方法?」 大きな手が、俺の目元を拭う。 「そう。お前の立場がまずくならない方法を、教えてやる。」 「・・・本当か?」 スコールが頷く。 「ごめんって言って、キスをしてくれたら、教える。」 馬鹿じゃねえのか。 呆れて言葉も出ねえ。お前が一方的に俺に酷い事したんじゃねえか。勝手に怒ったんじゃねえか。 何で俺が謝るんだ。憤然と顔を背けた。 「・・・ゼル。」 スコールが静かに俺の名を呼ぶ。細く、小さく、真剣な声。 「ごめんって、言ってくれ。頼むから、そう言ってくれ。」 どうして。 どうして、スコールは時々こんなに儚い声を出すんだろう。 捨てられた子供のような、切ない声を出すんだろう。 その声を聞くと、どうして俺は泣きたくなるんだろう。 この声を聞かずにすむなら、何でもしてやりたいと思ってしまうんだろう。 「・・・ごめん」 さっきスコールがしたように、両手で頬を包んだ。そっと、薄い唇に口付けた。 唇が僅かに開く。その隙間に舌を滑り込ませた。 スコールはもう、濃密に舌を絡ませようとはしなかった。 ふと、胸が痛んだ。スコールは慰めを求めてる。傷を負った動物が、傷を舐めてもらうように、 俺に慰められたがってる。 「ごめんな。」 閉じた瞼にキスをした。白い頬にキスをした。 最後にもう一度、淡い唇にキスをした。 「・・・うん」 スコールが眼を閉じたまま頷いた。自分の頬を包む俺の手を、上から優しく押さえながら、 うっとりと、幸せそうに微笑む。 ああ、何で俺、こんなにこいつを甘やかしちまうんだろう。 だからこいつが調子に乗るんだよ。分ってるんだ。分ってるんだよ。 なのに、何で止められねえんだ。 何で、この手を振り払えねえんだ。 「・・・それで、いい方法って何だよ。」 俺はぶっきらぼうに尋ねた。そうしないと、スコールがいつまでも手を離してくれない。 「・・ああ、そうか。」 スコールが夢から覚めたように眼を開けた。名残惜しそうに手首にキスをする。 「いいから、早く言えよ。」 ぶんぶんと振り回しながら手を引き抜く。スコールが溜息をついた 「つまり、お前は、受身だと思われるのが嫌なんだろう?」 「うーん、まあ、そうだな。」 「なら、もう平気だ。」 「・・? 何で?」 「今、俺にキスしただろう?」 スコールがニヤリと笑った。 「ゼルに唇を奪われたって、俺が触れ回ってやる。」 倒れそうになった。 「止めろ!!馬鹿!!」 そんな事、考えるだけで恐ろしい。俺を殺す気か、こいつ。 「何で。」 ニヤニヤ笑いながらスコールが俺を見る。畜生。分って言ってやがるな、この野郎。 「もういい!!お前の言葉なんか信用した俺が馬鹿だった!」 スコールが声を立てて笑う。悪魔の高笑いってやつだな。自分の不幸さに涙が出そうになった。 やっぱりさっき、手を振り払うべきだったんだ。 這ってでも、部屋を出るべきだったんだ。 後日、俺は「スコールが抱かれてる説」を唱えてるのは、ネチネチ派の一部だけの、 極少数意見だった事を知った。 アーヴィンに相談したら「君が相手な限り、その意見が主流になる事は絶対無い。」 と断言された。 余りにはっきり言い切るので、頭に来てヘッドショックをお見舞いしてやった。 後はスコールの馬鹿が本当に「唇を奪われた」なんて言い出さないよう、祈るだけだ。 あの悪魔の紡ぐ嘘に、ガーデン中が誘惑されないよう、心の底から祈るだけだ。 |
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END |
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