恋する磁石 |
カカシは恥ずかしがりやだね。 その言葉を先生に言われたのは、俺が五歳の時だった。 俺は人見知りが激しく、親しくない人間とはろくに口も利けない子供だった。相手の方も、幼児と 言っても過言ではない年のくせに、技術だけは一人前の俺にどう対応していいか分からないようで、 いつも酷く気詰まりな顔をされた。それが益々俺を畏縮させた。しまいには顔を上げて話すことすら 出来なくなった。 そんな俺に、先生は呆れてるに違いない。きっと怒られる。そう思うと、ひどく悲しくなった。 俯いたまま、上目遣いにおどおど見上げると、先生は困ったように微笑んだ。 泣きたくなった。先生が困ってる。俺が人見知りだから、呆れて、困ってる。 お前はもう一人前の忍だよ。ちゃんと顔を上げてごらん。 優しく頭を撫ぜながら言われた言葉に、決意した。 恥ずかしがり屋の俺なんていらない。こんな俺は捨ててしまおう。 俺は忍だ。それ以外はいらない。 忍じゃない俺なんか、いなくたっていい。 そう思うと、不思議なくらい肝が座った。 自分は「はたけカカシ」じゃなく「忍」なのだと思えば、大人相手の会話も怖くなくなった。 子供らしからぬ冷徹なプロ意識を持つ、と評価された俺はすぐに中忍に昇格し、暗部に選抜された。 綺麗な仕事とはお世辞にも言えなかったが、それが俺の役目なのだと淡々と任務をこなしていった。 気づけば、最年少で上忍になっていた。 そのうち、俺が大事にしてた人達は皆死んでしまった。人見知りの子供を知る人は、もう誰もいない。 だから、自分でもすっかり忘れていたのだ。 生身の俺は、物凄いあがり症だと言うことに。 ・・・・というカカシ先生の回想を、俺、うみのイルカは呆然としながら聞いていた。 「だから、イルカ先生の前に立つだけで、緊張して声も出ないし、顔もちゃんと上げれなくて。 我ながらこんなコトでどうすんのって、情けなくってねぇ。」 ああホント辛かったなあ、とカカシ先生が銀色の頭を掻く。 「で、でも中忍試験の時は、随分堂々と俺のこと叱り付けてたような・・・・」 カカシ先生が苦笑する。 「ああ、そりゃあね。だってアレは仕事だもの。奴等の監督は俺の任務だからね。」 成る程。「忍のカカシ」だったからあんなに堂々としてた訳か。 頷く俺に、カカシ先生はずいっと身を乗り出した。 「呑気に頷いてますけどね、俺はホントに死ぬんじゃないかと思ったくらい、辛かったんですよ。 もうこんな辛い思いはしたくないし、こんな辛抱だって、二度と出来ないです。」 熱っぽく力説したかと思うと、突然俺の両手をがっちり掴む。 「だからね、先生。」 整った容貌が、ふいに真剣に引き締まる。 「俺は絶対に引きません。抱かせてください。」 「だだだだだからっ、む、無理ですよっ!!」 悲鳴をあげる俺に、カカシ先生はふぅと溜息をついた。 「二言は無いって言ったでしょ?本当にいいの?って聞いた時に。」 うっと息を呑んだ。言った。確かに、「身体を好きにしていい」って言ったよ。だけど。 恥ずかしさを堪えて叫んだ。 「あ、あれは抱いてくれって意味じゃありません!!」 「そーゆーのを二言って言うんです。」 死ぬ気で言ったセリフをあっさり切り返される。ううう。あがり症のくせに口の回る奴だ。 「お、俺は男は対象外です!」 「俺もですよ。男なんて御免だけど、でもイルカ先生は特別なんです。俺の特別の人なんです。」 そう言って、はにかんだように頬を染める。なんでそこでノロケんだよ。違うだろ。 ほのぼのと的外れの台詞を吐く男に焦った俺は、更に直球でいくことにした。 「だ、だから、俺、ホモになりたくないんですってば!」 カカシ先生が、驚いたように濃紺の瞳を大きく開く。 「なる必要ないです!男はオレ一人で十分です!他の男に色目使うなんて絶対駄目ですよ!」 「い、色目・・・!?」 「あ!勿論女相手だって許しませんよー?うわ、許しませんだって。どうしよ俺」 照れるなー、と真っ赤になって頭を掻く。純情な仕草と、言ってる内容のギャップが凄過ぎて 言葉が出てこない。て言うかもう、さっきからずっと思考停止状態だ。 思えば、この男に手を握られた時点で気が付くべきだった。 普通、そんな事しないよな。男同士で。それも、家に着くまでずっとだぞ。 何てニブイんだ、俺って奴は。 だけど、俺はあの時この上忍に半殺しにされる覚悟を決めてた。それで興奮状態だった。 だから、冷静な判断ができなかったのだ。あれは逃亡しないように捕まえてるのだろうと思ってのだ。 まさかカカシ先生はデート気分だったなんて、考えもしてなかった。(つうか普通考えないだろ) カカシ先生の家は郊外の古びた一軒家だった。 玄関に入ると、カカシ先生はクルリと振り返ってた。激しく頭を掻いて、恥ずかしげに笑う。 「えーと、いきなりなんですけど、我慢できなくなっちゃいました。その、部屋に入る前に・・・」 その後受けた衝撃は、きっと一生忘れないだろう。カカシ先生は小さな声でこう言ったのだ。 「キスしてもいい?」 最初、意味が分からなかった。 あまりに予想外の言葉に、頭と体が反応できず、ただボーッとその場に立ち尽くしてしまった。 カカシ先生の息が唇にかかり初めて、やっと我に返った。 「わ―――――――!!!!ちょっ、ちよっとっ!!!ぎゃーっ!!」 パニック状態で目の前の身体を押し返した。無茶苦茶に腕を振り回して叫んだ。 驚いたカカシ先生が、俺を抱え込むようにして部屋の中に引きづり込む。 そして、この回想話が始まったのだった。 話を聞けば聞くほど、顔が引き攣ってきた。 要するに、カカシ先生は俺をずっと好きだったらしいのだ。しかも、性的な意味込みで。 だけど、生来のあがり症が邪魔して、俺の前では口が利けなかったらしいのだ。 このままじゃ駄目だと自分でも思ってた所に、ガイ先生との飲み会の話が受付から漏れてきて (やはり俺達の声はデカ過ぎたらしい)、これはチャンスと飛びついたのだと言う。 ところが、俺はガイ先生とばかり話したがる。自分には全然話し掛けてくれない。 もしや嫌われてるのかと絶望しかかっていたところに、突然俺がカカシ先生の手を握り締めて 微笑んだのだ。 その笑顔に勇気を得て、思い切って呑みに誘ってみた。OKを貰って、天に昇るほど嬉しかった。 が、俺はその席に女の集団を連れてきた。あんまりだと思った。 余りに悔しくて悲しくて、思わず怒りをぶつけると、何と「お詫びに俺の身体を好きにして下さい。」 と言ってきた。それが俺の気持ちだと、真剣な眼で訴えられた。 それならもう遠慮無く抱かせてもらいます、と銀髪の男はきっぱりと断言した。 「手ぇ握ってくれた時、俺、イルカ先生が天使に見えました。・・・なーんて、夢見過ぎ?ははは。」 端正な顔を赤く染めて、カカシ先生が照れ笑いする。 ひっくり返りそうになった。天使!俺が天使!! この無骨で地味な顔した俺が天使!?「イルカ先生って穴熊に似てる」って生徒に言われた 事だってあるんだぞ!?どんな天使だよオイ!!夢通り越して、幻覚だよそりゃ。 「カカシ先生、眼悪いんですか!?」 「やだなぁ。眼が悪くて忍になれるわけないデショ?」 じゃあ頭が・・・とあやうく言いかけて、慌てて口を噤んだ。カカシ先生が眼に力を篭めて微笑む。 「俺、あの時決めたんです。イルカ先生のこと絶対諦めないって。」 覚悟を決めた者の迫力と言うか、あるいは上忍の迫力と言うべきか。 とにかくその笑顔には、ある種の気迫が篭っていた。 て言うかもう、穴熊な俺を「天使」と形容する時点で相当いってると思う。怖い。怖すぎる。 そのいってる男が、突然ずいと前に身を乗り出した。 「イルカ先生、俺は全部打ち明けました。「二言はない」って言うアナタの言葉を信じたから、 ここまで自分の気持ちを晒したんです。」 蒼みがかった瞳に、ふいに切ない光が浮かぶ。 「どうしてですか。信じてくださいって言ったじゃないですか。あれは嘘だったんですか? そんなの、あんまりじゃないですか。」 『アナタの言葉を信じたから』 この言葉は効いた。 あまりの衝撃で今まで思い至らなかったが、考えてみれば、この告白はかなり勇気ある行動だ。 普通に女相手だって勇気がいるってのに、まして男。それも格下のさえない中忍相手。 もし拒絶されれば、どんなに恥ずかしいか。どんなにプライドが傷つくか。自分でも判ってたはずだ。 たけど、カカシ先生は告白した。 恥ずかしさを乗り越えて、プライドを捨てて、正直に俺に気持ちを打ち明けた。 俺が「信じて下さい」と言ったから。 俺の言葉を、信じたから。 まずい。 俺はこういう捨て身の信頼に弱いのだ。 お前はカカシ先生の誠意を踏み躙るのか!?お前そういう奴なのか!?それでも男か!! 胸の中で、良心がぎゃあぎゃあと喚き立てる。 うう。まずいまずいまずい。こうなってくると、俺はもう後に引けない性格なのだ。 ・・・・一回くらいなら、いいかな。 さっきまで絶対嫌だと思っていたのに、ぐんぐんと考えが変わってくる。 確かに「好きなようにしてくれ」って言ったのは俺だ。今更どうこう言い訳するのは男らしくない。 大体、可憐な乙女ならともかく、こんな無骨な身体、恥らう価値ないだろ。何勿体ぶってんだ。 眼を潰れ!耐えるんだ俺!ちょっと変わった修行だと思え! 覚悟を決めて、顔を上げた。 「分かりました。じゃ、よろしくお願いします。」 今晩限り。今晩限りだから。 ブツブツと呟きながらシャワーを浴びた。 一生一度くらい、男との経験があってもいいさ。いいよ。いいって。いいんだよ!! ヤケクソになってタオルで擦りつつ、しみじみ自分の身体を眺めた。 ゴツゴツして、傷だらけで、硬くて、そこに無骨な顔が乗っかってる。 ぜんっぜん、わからん。 見れば見るほど謎だ。何でカカシ先生が俺を、だ、抱きたいなんて思うのか。 こんな身体に欲情できる男なんているのか。しかも真性のホモじゃないんだろ?無理ありすぎだよ。 一体なんだって、カカシ先生はそんな恐ろしい妄想を抱いてしまったんだろう。 俺は外まで聞こえそうな程、大きなため息をついた。 が、いつまでも考えてるわけにもいかない。 バスタオルを腰に巻きつけて、嫌々外に出た。先に風呂を浴びて待ってたカカシ先生に、のろのろと 呼びかける。 「あの、カカシせん・・・」 思わず途中で声が止まってしまった。 振り向いた銀髪の男が、あんまり綺麗だったから。 男に綺麗、って表現はおかしいかもしれないが、それぐらいカカシ先生の肉体は完璧だった。 一見細身に見えるが、実は着痩せするタイプだったらしい。どうやったらこんな風に、綺麗に筋肉を つける事が出来るんだ。逞くて、しかも少しも無駄がない。 その上、顔だって整っている。すんなりと高い鼻梁に、鋭く引き締まった頬、銀色の髪。 それが月光に白く照らされている様は、まるで舶来の彫刻品のようだった。 それに引き換え、俺って奴は。 思わず溜息が出た。 俺は逆に着膨れするたちで、脱ぐと意外と細っこい。それでもまぁ、一応忍だし、それなりに 筋肉はついている。が、カカシ先生に比べれば、どこかモサッと垢抜けない。その上顔も地味だ。 「月とスッポン」て言う言葉を、今ぐらいしみじみ実感した事はない。 カカシ先生が無言で俺を眺める。何だか呆然としているようだ。 ああ、そうか。 俺は内心大きく頷いた。さっきの答えが判った気がした。 この人多分、現実を甘く見てたんだろうな。 そうだ。そうに違いない。自分が綺麗すぎて、他の男もそうだと勘違いしてたんだろう。 だから、ちょっと好意を持っただけの同性に、簡単に性欲を抱いてしまったんだろう。 思わずカカシ先生に同情した。きっと今、激しく後悔してるに違いない。気の毒に。 でも、あれだけ口説いといて今更自分から断るなんて、流石に気まずいだろう。 ここは一つ、俺からフォローしてやらなきゃ。 落ち込む生徒を励ますように、優しく、力強く話し掛ける。 「いいんですよ。カカシ先生。」 「え!?あ!すいません!俺、ぼーっとしちゃって!」 カカシ先生が弾かれたように眼を開いた。その焦った顔を見ながら、俺は鷹揚に微笑んだ。 「大丈夫です。遠慮しないで下さい。俺に気を使う必要ないですから。」 「・・・・!」 カカシ先生がポカンと口を開けた。白い首がみるみる赤く染まってくる。 「イルカ先生・・・」 震える声で俺の名を呼ぶ銀髪の上忍に、益々優しげに笑いかけた。 さあさあ遠慮なく断って下さい。俺もその方がいいんです。て言うかそっちの方が絶対いいです。 「カカシ先生、無理しないで断っ・・・」 最後まで言えなかった。柔らかいものが、俺の唇をいきなり塞いだから。 生暖かい濡れた感触が、唇を押し潰すようになぞる。 やっと気づいた。これはキスだ。俺はカカシ先生に、キスされている。 吸い付くように噛みつかれ、舐められる。それが繰り返される度に、トロリと唇が濡れていく。 ぬらぬらと滑る唇同士が絡み合う感触は、驚くほど官能的だった。ぞくりと背筋が震えた。 「・・・・んっ」 全身を走りぬけた震えに、唇が緩んだ。すかさず熱い舌が口腔に滑り込んでくる。 「・・・・あ・・・」 怯えたように漏れた吐息に、背中に回された長い腕がビクリと強張った。 もどかしげに強く引き寄せられる。身体ごと絡めとりたい、とでも言うように口腔中を掻き回され、 頭の芯が痺れていく。呼吸をする事すら難しい。 「・・・は・・・っ」 意識が霞み始める頃、やっと長いキスが終わった。殆ど呆然としながら目の前の男を見上げた。 そして思わず息を呑んだ。 銀髪の下で、赤い巴紋が焔のように揺らめいている。 これが、あの有名な写輪眼か・・・・! その不思議な輝きに、思わず見入った。しかし、俺がぎょっとしたのは、写輪眼のせいじゃない。 その瞳の中に浮かぶものを見たからだ。 それは、情欲だった。赤い眼球が、貪欲な情欲を浮かべて俺を映す。はっきり悟った。 この男は、本気で俺に欲情してる。 カカシ先生がまた顔を近づけてくる。まだ濡れている俺の唇を、愛しげにゆっくり舐める。 「可愛い・・・」 うっとりと呟かれた言葉に、顎が外れそうになった。 可愛い!?誰が!?俺!?俺が!!?? 天使に続く衝撃の形容詞に、卒倒しそうになる。ホントこの人、頭おかしいって!! 「カ、カカシ先生・・・」 「なに?」 低く掠れた声が耳元で囁く。そのまま耳朶を柔らかく噛まれ、思わずビクリと身体を奮わせた。 「だ、駄目です!俺、耳は弱・・・・ひゃっ!」」 言った途端、耳朶を舐め回された。慌てて耳を塞ごうと手を伸ばすと、逆に手首を掴まれた。 「ほ、ほんと駄目なんですっ!手、離し・・・や、やめ・・わ!」 背中がビクビクとしなる。恥ずかしさに身を捩ると、堪らなくなったようにカカシ先生が空いた 片手で俺の胸をまさぐり出した。 大きな掌が胸元を這う感触と、柔らかく耳を舐める舌の動きに、頭の中が掻き回されていく。 「や・・・ほんとっ・・だめ・・・っあ・・・」 うおおお。何だこの甘ったるい声は。これホントに俺の声か?あまりの恥ずかしさに眼が眩んだ。 ここまで執拗に弱点を愛撫された事はかつて無い。柔らかくて細い女の腕は、簡単に押さえられる。 こんな恥かしい声を上げる前に、動きを封じる事が出来る。止めさせる事が出来る。 だけど、今は。 強靭な腕は俺の抵抗を許さない。掴まれた手首を、振りほどく事が出来ない。 全部、この男の意のままだ。 成す術もなく身悶えしていると、突然カカシ先生が「あ」と嬉しそうに呟いた。 「ここ、尖ってきた。」 そう言って、ツンと立ち上がった乳首を舐める。音が出るほど吸い上げながら、舌先で転がす。 「!ちょっ・・・!」 慌てて銀色の頭を押し戻そうとした。が、やはりカカシ先生の頭はびくともしなかった。 むず痒いような快感が、胸元からじんじんと這い登ってくる。今まで体験した事の無い淫靡な感覚に、 喉が震えた。その喉をぞろりと舐めあげられる。堪らず、震える声で呼びかけた。 「カカシ・・せんっ・・」 答えの代わりに、銀色の男は食らいつくように俺の全身を抱きしめた。 大きな手が俺の下半身に伸ばされる。竿をしごく長い指に、もどかしい快感を与えられ続けた身体が、 あっさりと陥落する。自分でも呆れるほど直ぐに勃起してしまった。男相手に、何て様だ。 「い、いやです・・・止め・・・っあっ・・・やっ!」 「気持ちいい?」 熱を帯びた声でカカシ先生が囁く。真っ赤になって首を横に振った。 「え?だってこんなに・・・」 ぎゃ―――――聞きたくないっ!止めろ――――! ブンブン激しく首を振ると、突然がっちりと顎を抑えられた。有無を言わさず顔を覗き込まれる。 「・・・・もしかして、照れてる?そんなに気持ちいい?」 ふふ、と色違いの瞳が嬉しそうに細められる。恥ずかしさのあまり本気で眼に涙が浮かんできた。 それを見て、カカシ先生が陶然と呟く。 「可愛いなぁ。ほんと可愛い・・・」 濡れる睫をペロンと舐めて、深いキスを仕掛けてくる。それも、俺の下半身を弄ったまま。 「あ・・・・・・っ・・・んっ」 竿の先端から汁が零れてカカシ先生の指を濡らす。滑る指で擦るように嬲られて、体中が反り返った。 いやらしい吐息が塞がれた口から勝手に漏れる。その吐息を絡めとるように、長い舌が口腔を蠢く。 快感で窒息しそうだ。全身が溶けてしまいそうに熱い。今にも放出してしまいそうだ。 「っ、・・・出る・・・っ」 喘ぐように訴えると、熱を帯びた吐息が耳を掠める。 「もすこし、我慢して。」 煽ってるとしか思えない仕草に、一層追い詰められた。ガクガクと膝が震えた。 「も・・・っ」 「駄目。煽んないでよ。」 何言ってんだ。煽ってるのはオマエだろうが。涙目で見上げると、カカシ先生は苦しげに眉を顰めた。 「だから、駄目ですって。」 何が駄目なんだよ。何でアンタまで苦しそうなんだ。苦しいのは俺だよ俺! カカシ先生が慌しい手つきでサイドボードを探る。何だろう、と思う間も無く、ぬるぬる滑る液体が 足の付け根に注がれた。冷たい液体がトロトロと秘部を伝う。腰がビクリと震えた。 「な、何・・・?」 カカシ先生が無言で指を下に伸ばす。さっきの液体で、びしょびしょになった玉を揉むように 愛撫する。その指が更に下に伸びる。探るように、濡れる入り口に指の先端が出入りする度に、 プチュプチュと卑猥な音が上がった。 止めて下さい。気持ちが悪い。 そう言おうとしたが、上手く言葉が出てこない。指が穴に入るたびに、痺れるような痛みが走る。 が、それは玉を柔らかく揉まれる快感に、たちまち飲み込まれてしまう。 痛みと快感が同時に襲ってきて、もう何が何だか分からない。喘ぎ声が絶え間無く漏れる。 「・・あ・・・・ああ・・・・・っ」 「大丈夫?痛くない?もっと奥まで入れても平気?」 掠れた声で尋ねられる。カカシ先生のモノも、既にすっかり濡れて硬く立ち上がってる。それが内股 をぬるぬると刺激していくもんだから、俺の下半身はもう滅茶苦茶だ。先走りの汁がドクドクと溢れ て止まらない。 「もう俺、限界です。入れていい?」 赤い舌先で乳首を舐めながら、銀色の男が甘い声で強請る。思わせぶりに入り口を撫ぜる指に、 身体がビクビクと痙攣する。 地獄だ。 こんな拷問みたいな快楽はもう嫌だ。早く解放して欲しい。泣きながら首を縦に振った。 「いいから・・・っ・・も・早く・・・!」 返事した瞬間、脚を大きく割られた。指がずるりと引き抜かれ、替わりに熱いものが押し当てられる。 「!!!ひっ!!」 思わず悲鳴が漏れた。激しい痛みに目の前が真っ赤に染まる。硬く眼を閉じて、なんとか痛みを やり過ごそうとした。ずぶずぶと、カカシ先生のモノが俺の中に飲み込まれていく。 「っ・・・熱・・」 震える声が聞こえた。狭い穴を押し広げていく作業に、カカシ先生の鍛え上げられた身体が、 みるみる汗ばんでいく。低い声がもう一度、熱い、と喘ぐように呟いた。 全身が羞恥に赤くなった。 本当に、自分でも持て余すほど身体が熱い。多分、内部はもっと熱いんだろう。その証拠に、 侵入される度にトロトロと穴から漏れる潤滑油が、火傷しそうに熱い。俺の方がカカシ先生 よりずっと昂ぶってるみたいで、恥ずかしくて堪らない。 ふいに、カカシ先生が大きく息を吐いて顔を上げた。赤く上気した唇でニッと笑う。 「ぜんぶ、はいった」 頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。 「・・・・あ・・・・」 何か言い返したいが、言葉が出てこない。すかさずカカシ先生が腰を動かし始める。 「!!ひ・・っ!あ・・・ああ・・・っ!!!」 ボロボロと涙が流れた。 痛くて熱くて苦しくて、どうにかなってしまいそうだ。堪らず目の前の体に縋り付いた。 「ひっ・・く・・ゃあっ・・・!」 「・・・っ、好き、好きだよ・・・」 荒い息を吐きながら、カカシ先生が酔ったように告白する。 「ずっと見てた・・・俺、ずっとアンタ見てたよ。アンタが好きで好きで堪らなかった・・・!」 叩き付けるように身体を揺さぶられる。卑猥な水音が部屋中に充満していく。 突然、背中に電流が走った。痛みに萎えかけていたモノが、勢いよく立ち上がる。 いきなり沸き起こった得体の知れない快感に、喉を仰け反らせた。 「!あ・・・!!」 カカシ先生が驚いたように一瞬動きを止める。そして、パッと嬉しそうに顔を輝かせた。 「ここ、いいんだ?ね、そうでしょ?」 そう言ったかと思うと、さっきの一点めがけてぐりぐりと腰を動かす。そこを擦られる度に、頭の中が 白くなるような快感が湧きあがった。 何がなんだか分からない。 内側から押されるように次々と押し寄せる快感に、身体が蕩けていく。聞くに堪えないような、 甘ったるい喘ぎ声が、ひっきりなしに喉から漏れる。もう恥も外聞もプライドも無かった。 しがみついたまま、いかせてくれと泣きながら懇願した。 「おれのこと好き?好きになってくれる?俺の恋人になってくれる?ねえ、どう?」 切羽詰まった声で、カカシ先生が矢継ぎ早に尋ねる。必死で頷いた。この状態から救ってくれるなら、 もう何でも構わなかった。恋人でもなんでもなってやる、そう思った。 「なります・・・っ!なるから、もう・・・っ!!」 答えた途端、激しい力で抱き寄せられた。滅茶苦茶に腰を打ち付けられる。限界まで張り詰め た竿が、汗まみれの体にぐちょぐちょに擦られる。銀色の髪から、汗が滴り落ちる。 「あ・・・・・ぁ・・・・・ぁああ!!!」 ついに、白濁した液が俺の下半身で弾け散った。 「・・・・は・・・っ!」 カカシ先生がぶるりと身を震わせた。 この男も達したのだと、弛緩した頭でぼんやり思った。 俺の身体の上で、余韻を味わうように屈強な背中を反らして喘ぐ。月明かりに照らされて、銀色の髪が 雲母のように煌く。まるで獣の遠吠えだ。深紅と濃紺の瞳を持つ、銀色の獣。 何て不思議な獣だろう。何て不思議な光景だろう。 欲望を吐き出した獣が、ゆっくりと顔を近づけてくる。愛しげに頬を撫ぜて、柔らかく唇を食む。 「・・・好きです・・・」 誓うように捧げられた言葉に胸が震えた。不思議な獣。不思議な男。 俺を好きだと、囁く男。 死にたい。 枕に顔を突っ伏しながら思った。さもなくば今夜の記憶を全て消してしまいたい。 男相手に、しかも初めてだっていうのに、あんなによがって。何者だよ一体。イチャパラに出てくる 淫乱女か俺は。 「イルカ先生、こっち向いて下さいよ。ねえ。」 甘えた声が俺を呼ぶ。うう。この男の記憶も一緒に消去できないだろうか。 「ねえったら。いい加減顔上げて下さいよ。」 しつこく呼びかけてくる声を無視して顔を背けた。もう話し掛けないで欲しい。俺は今、人生のどん底に いるんだ。深く深く落ち込んでるんだ。 「・・・・折角恋人同士になれたのに・・・・」 不満そうに呟く声に、思わず顔を上げた。 「だっ、誰が恋人同士ですかっ!!」 「え?オレ達ですよ。決まってるデショ?やだなあ。さっき約束したじゃないですかー。」 ニコニコと顔を赤くしてカカシ先生が笑う。 「さ、さっきって、あ、あれは、あなたが・・・!」 焦らすから、と言いかけてハッと口を噤んだ。カカシ先生が、判ってます、と言うように力強く頷く。 「イルカ先生、すっごく感じてましたよねー。嬉しいなあ。俺もすごく気持ち良かったです。」 銀髪の男が高らかに宣言する。 「俺達、身体の相性もばっちりですね!!」 撃沈した。 身体の相性「も」ってのは何だよ、「も」ってのはよ。そう思うのだが反論できない。 あんなによがって泣きまくって、今更何言っても笑い話だよ畜生。 「イルカ先生が恋人になるって言ってくれた時、思わずイっちゃいそうでした。嬉しくて。」 満面の笑みで、俺の手を強く握り締める。 「い、いや、だから、あれは・・・」 「言いましたよね?」 「だ、だから・・・」 「言いましたよね?!」 「あの・・・」 「い・い・ま・し・た・よ・ね!?」 「・・・ハイ・・・・」 「良かった。忘れちゃったのかと思った。」 ニコニコと笑う自称内気上忍を恨めしげに睨んだ。 どこが内気のあがり症だよ。思いっきり強引じゃないか。 そもそも、俺はカカシ先生が内気なんて話を一瞬も信じていなかった。 五歳児が見知らぬ大人に対して気後れするなんて、よくあることだ。て言うか普通だ。 アカデミーの入学シーズンにゃ、そんな子供が山ほどいる。トイレに行きたいという一言が言えずに、 教室で小便を漏らすような子供がゴロゴロしてるのだ。 その先生だって、別に呆れてたわけじゃないだろう。むしろ、そんな幼児を戦場に駆り出す事に、 複雑な思いを抱えていたに違いない。しかし、当時の木の葉の情勢では、そうせざるを得なかった。 使えるものなら、赤子でも使う。それぐらい、荒んだ時代だった。 だから、その人は哀しげに笑うしかなかったのだ。優しく頭を撫ぜる事しか出来なかったのだ。 それを、幼いカカシ先生が誤解したに過ぎない。勝手に思い込んだに過ぎない 自分は大好きな人を悲しませてしまうほど、内気な人間なのだと。 だいたい、この男は上忍なんだぞ。 それも、「写輪眼のカカシ」と恐れられ、幾多の死線を潜り抜けてきた凄腕の上忍だ。 血生臭い戦場で、僅かな運を強引に引き寄せて生き延びてきた男。そんな男が内気なんて事があるか。 掴めるものは何だって掴むに違いない。どんなチャンスも見逃さず、貪欲に利用してきたに違いない。 「ホント、勇気出して良かったなあ。」 カカシ先生が幸せそうに笑う。その無邪気な笑顔に、ちょっと胸を衝かれた。 この人は、本当に自分を内気だと思ってるのだ。その思いに、捕らわれ続けてるのだ。 この人の中には、まだ五歳の子供がいるのだ。 泣きそうな顔で俯く、恥ずかしがり屋な小さな子供が。 頭を抱えたくなった。 ああ。何てやっかいな事になってしまったんだ。 そんな男が、初めて自分の為に手を伸ばして掴んだもの。それが俺の手なんて。 きっと、この男は絶対にこの手を離そうとはしないだろう。どんな手だって使おうとするだろう。 子供のような一心さで。 血塗れの修羅場を乗り越えてきた、上忍の狡猾さで。 そうやって、俺の逃げ場を無くしていくに違いない。俺を追い込んでいくに違いない。 ふと、気が付いた。さっきの会話の意味を。 この男は、気付いてるのだ。 今夜の事は、幾つもの偶然が重なってやっと実現した、幻のような出来事だと。 だから、言わせたのだ。 あんな状態に追い込んで、俺の口から言わせたのだ。恋人になる、と。 その言葉で俺を縛りつけようとしてるのだ。 俺に逃げられないように。今夜の事を無しにされないように。 この男は、今夜の事を最大限に利用するつもりなのだ。 最悪だ。 子供で上忍のはたけカカシ。子供好きで中忍の俺。 勝てる気がしない。逃げ切れる自信が全然無い。 「イルカせんせ、もっとくっついて寝ていい?」 うっとりと銀色の男が囁く。磁石のようにぴったりと身体を押し付けてくる。 強力な磁石。 否応なく引き寄せあう、対極の存在。かけ離れれば離れるほど、強まる力。 この存在に出会ってしまえば、お終いだ。 二つの磁石。引かれ合う二つの磁力。 もう二度と、離れる事は叶わない。 |
END |
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