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「スコール、本当にやめてくれ・・・!」
ゼルの拳が俺の胸を叩く。その白い手を取って、涙に濡れた金色の睫にキスをする。
「無理だ。もう逃がさない。」
耳元で言ったら、一層辛そうにギュッと眉が寄せられた。その眉にもキスをする。
キス、キス、キス。キスの嵐だ。幾つでも、何時までも口付け出来る。
ゼルは今、俺の腕の中だから。
俺に全身で押さえつけられながら、ゼルが尚も抵抗する。
だが、やり方が滅茶苦茶だ。ガーデン有数の格闘家。接近戦のプロのはずなのに、
ただもう闇雲に俺の下で暴れている。
怯えている。冷静さを全く無くす程、怯えてるんだ。
俺の胸に鋭い痛みが走る。
どうして、どうしてそんなに俺を怖がるんだ。
「愛してる。」
震える白い喉に舌を這わせながら囁くと、止めてくれ、とまた懇願してくる。
「愛してる。愛してる。愛してる。」
繰返す言葉はゼルの心までは届かない。こんなに怯えている今は、耳にすら入っていないのか
もしれない。
胸の痛みが益々大きくなっていく。俺は片手でゼルの両手首を掴んで頭の上に引きあげた。
ゼルが恐怖を浮かべて瞳を開く。眼の覚めるようなスカイブルー。
この鮮やかさが、いつも俺の心を衝く。
お前はきっと分からない。俺がお前にどんなに溺れているのかを。理不尽な怒りが俺を覆う。
お前も溺れてくれ。心が無理なら、せめて体だけでも俺と一緒に溺れてくれ。
そうすれば、分かるかもしれない。肌から肌へ、何かが伝わっていくかもしれない。
俺はゼルの下半身に手を伸ばした。
さっきベルトは外しておいた。
鍛え上げられた細いウエスト。ベルト無しでは、腰に留めて置くのも難しいローウエストジー
ンズを一気に引き降ろす。驚きでゼルの動きが一瞬止まる。俺は間断無く、ゼル自身を手に掴
んだ。
息を呑むような小さな悲鳴があがる。激しい恐怖に縮まる心と同じく、手の中の物も小さく、
頼りない。
いや、これはきっとゼルそのままだ。俺を恐れ、拒否している。
壊してしまいたい。息苦しいほどの欲望が湧き上る。
この頑なな清冽さを。俺を拒む全ての物を。
「ゼル・・・一緒に楽しもう。」
俺はゆっくりと言って、ゼルのものを口に含んだ。
「ひゃっ」
頭上から狼狽したゼルの声が聞こえた。
俺は舌でゼルのものをねぶり上げた。喉の奥から唾がにじみ出て、口一杯に溜まっていく。
その唾もろとも、舌を可愛い竿に絡ませる。
「や・・・あっ」
思わず漏れた甘い声に、俺の心臓がドクドクと脈打つ。
もっと。
もっとその声を聞かせてくれ。
口の中で形を変え始めたそれを、俺は夢中で舐めまわした。
前にキスした時、ゼルはこれが初めてのキスだと言ってた。可愛いゼル。お前はきっと、セッ
クスを大事に取って置くタイプなんだろう。セックスは愛しい相手とするのだと、心に描くタ
イプなんだろう。
俺は違う。
俺はセックスなら、ずっと前から知っていた。
セックスだけがしたかった。
恋や愛なんかいらない。その快楽だけを手に入れたかった。
だから街に出て、誘う女、セックスを遊びと割切る女とだけ、やった。
「あなたみたいな美少年をいかせるのって、ぞくぞくしちゃう。」
甘く、優しく、軽薄な女達。俺に愛を求めず、俺も愛を求めなかった。
俺はそういう冷めた性分なのだと、ずっと思っていた。
こんなに激しくお前に恋してしまう迄は。
ゼルのものが、口の中でどんどん熱くなっていく。浮き出した血管をペロリと舐めると、
堪え切れない喘ぎ声が聞こえてくる。
「ふ・・・あ・・やめ・・・!」
ちろりと眼を上げると、ゼルが口元に手を当てて、必死に声を押さえつけようとしてるのが
見えた。
のけぞる細い喉がたまらなく煽情的だ。
顔を少し上げて先端に吸い付くと、嫌がってるみたいに首を振った。
嫌がってなんかいないくせに。
快感さえ拒むなんて、許さない。
俺はまた口にブツを含んだ。張り詰めた先端から苦い液が出てくる。
そろそろ限界が近いらしい。そっと舌を動かした。ゼルがたまらず半身を起こして俺の髪
を鷲掴みにする。
「・・・スコール!おれっ・・だめ・・・あっ!」
喉の奥に液体が飛び、掴まれた髪から急に力が抜けた。
ゼルがぐったりとベットに倒れ込む。伏せた薄い瞼が桜色に染まって細かく痙攣している。
その表情に心を奪われながら、ゼルの服を脱がせにかかった。
今放出したばかりの快感に力が抜けてしまったらしく、ゼルは殆ど抵抗しなかった。
あと一押しだ。心のどこかが冷酷な計算をする。
「気持ち良かったか・・・?もう俺達、共犯だな。」
髪を撫ぜながら囁くと、青い瞳が物憂げに開いた。
「スコール・・・」
金色の睫にまた涙が溜まって来る。天上から天使を引きづり降ろしてしまったような、
奇妙な征服感が俺を襲う。
「何だ。」
「ごめん・・・っ。俺、我慢できなくて。お前、俺の飲んじゃったのか・・?」
俺の心の中にあった冷たい塊が、音をたてて砕けた。
何で謝るんだ。
塊の破片が眼を奥を刺して、熱くしていく。
何で、そんな言うんだ。
こんな強姦まがいのことして、無理矢理いかせて、それを共犯扱する奴なんかに。
「ごめん」
口から言葉が零れ落ちた。
ごめん。怖かっただろう。俺に突然こんなことされて、怖かっただろう。
ゼルが不思議そうに、済まなそうに、俺を見た。
「スコール・・・気持ち悪くなっちゃったのか・・・?」
優しい声。優しいお前。
お前にキスしたい。愛し合ってる恋人みたいに体中にキスしたい。
そう思って俺はふと気づいた。
口の中が苦い。これじゃ、ゼルにキスできない。
顔を上げて回りを見渡すと、サイドテーブルにさっきゼルが持ってきてくれたアイスティーの
コップがあった。
それを手にとり、氷が溶けてすっかり薄まった紅茶で口を濯ぐ。
かすかなレモンの匂いがした。
コップを投げ捨て、ゼルに向き直って赤い唇に軽くキスする。
「ほら、もう、平気だ。」
ゼルは俺の行動を不安げにじっと見ていたが、俺の声が落ち着いてるので少し安心したようだ。
俺はもどかしく自分の服を脱ぎ捨てた。早くゼルに触れたい。もう一度初めからやり直したい。
優しくお前を愛したい。
ゼルがギョッとした表情になった。
「お前、あきらめたんじゃないのか?!」
「冗談だろう。」
俺はにっこりと笑ってゼルを見た。
「これからが、本番だ。」
信じられんねぇ、とゼルが脱力したように呟いた。その唇に口づけする。
舌と舌が絡み合い、離れると名残惜しそうに唾液が糸を引いた。
首筋から胸に向かって丹念にキスをする。どこもかしこも白い肌。陶磁器みたいに滑らかな肌
触りに俺は陶然となった。やめろ、とゼルが訴えている。でもその声は小さい。
さっきの共犯という言葉が効いてるんだろう。ごめんな、と心の内でまた謝った。
ピンク色をした胸の突起を口の中で転がす。
「・・あっ」
甘い声が上がる。口の中で女のそれみたいに突起が盛り上がってくるのを感じた。
下半身にぐっと血が集まる。
「ゼル、ここがいいのか?」
空いた片手でもう一方の突起をなぶると、蜜みたいに甘い喘ぎ声がした。
「や・・・あんっ」
思わず暴発しそうになって、俺は息を詰めた。
息を整えようと顔を上げるとゼルが真っ赤になって口を押さえていた。
あまりの可愛らしさに顔がだらしなく緩む。それを見てゼルが泣きそうな顔になった。
慌てて熱い頬を両手で包んでキスをする。
馬鹿野郎、と口の中でヤケクソぎみにゼルが言った。
体中にキスしながら手を下に伸ばす。
ゼルのものがまた盛り上がりかけている。優しくしごくと熱いため息が漏れた。
耳が溶けてしまいそうなその吐息に下半身が痛いぐらい熱くなる。
俺の理性がまだあるうちに、準備しとかなくちゃな。
片手でサイドテーブルの引き出しを開けてチューブを取った
透明なゼリーをゼルの茂みにたっぷり垂らす。
ゼルがひゃっと小さな悲鳴を上げた。
「なっ・・・これ、何?」
「お前に痛い思いをさせたくないんだ。」
俺が答えるとゼルの体にハッと緊張が走る。
「スコール、俺、嫌だ。なぁ、怖いよ。止めてくれ。」
ゼリーがお互いの体の熱でどんどん熱くなっていく。俺は自分のものをゼルにさわらせた。
「馬鹿。お前も俺も、こんな状態なんだぞ。・・もう今更止められるか。」
囁く俺の声が興奮で少し掠れている。自分の声じゃ無いみたいだ。
ゼルが何だかぼおっとして俺の顔を見つめた。俺の瞳に捕らえられてしまった、とでも言うよ
うに。潤んだ青い瞳が、上気した桃色の頬の上でキラキラと輝く。
本当に捕らえられたらいいのに。
甘い痛みが胸をよぎる。この青い瞳がずっと俺だけを見てくれればいいのに。
「優しくするから・・」
頬に口付けながら、濡れる指を下に這わせていった。ゼリーの力を借りて、指がゼル
の柔らかい窪みにすっぽりと入っていく。
「こんなの・・やだっ・・あ・・っふ・やめっ・・!」
「うるさい・・・黙れ」
震える唇を唇で塞ぐ。これ以上、この甘い懇願を聞いてられない。
俺だって限界なんだから。
ゼルの中は熱く、そして思ったよりずっと狭かった。俺の指がきつく締め付けられる。
ゆっくり回しながら指の数を増やしていくと、突然ゼルの背中がビクリとしなった。
ああ、ここか。
柔らかく刺激すると、ゼルのものがビクビクと汁をこぼす。細く締まった腕が何かを求めるよ
うに天に泳ぐ。体を近づけると、待っていたように首に腕を回してきた。
「・・・こ、やだっ・・あっ・・・やだっ・・!」
色づく胸の突起にキスをする。細い背中が俺の腕の中で一層しなる。もう指なんかじゃ嫌だ。
ゼルの小さく柔らかい部分に、自分自身を一気に押し込んだ。
「・・・・・!!」
ゼルが急に腕を離してベットに倒れ込んだ。
熱く、食いつくような感触にしばらく息も出来なかった。
膨張しきっていたブツが痛い位激しく締め付けられる。
ゼルの中に俺が入ってる。ゼルが俺を受け入れてる。
くらくらする程の痛みと快感に俺は陶然となった。
ずるりと緩やかに腰を動かそうとすると、熟れた内壁が縋るように締めつける。
「ゼル、力を抜け・・っ」
息を切らせて言ったが、ゼルの返事が無い。見るとゼルは唇から血の気が引くほど歯を食いし
ばっていた。
「・・・・い。」
固く閉じられた瞼から涙が零れ落ちてる。
「痛い、痛いっ!!!」
ボロボロと留めなく流れる涙で頬がぐしょぐしょだ。
しっかりと体を抱きしめる。
「ゼル、ゼル、大丈夫だ、力を抜け。」
「・・っ・・痛い。スコール・・痛い・・・っ」
ゼルが背中にしがみ付く。俺が少し動くだけで爪が背中に食い込んでくる。俺より数段細い胸板が
激しい呼吸に上下しているのが痛々しい。
「ゼル、ほら、ゆっくり呼吸して。」
あやすように優しく語り掛け、同時にゼルのものを擦りつづける。
「ス・・コール・・」
しゃくりあげながらゼルが俺を呼ぶ。あどけない程たどたどしいその声音に、愛しさがこみ上
げてたまらない。
こんなセックスは始めてだ。
もっと、もっと溶け合いたい。痛みも快感も、全てお前と分かち合いたい。
一緒にいきたい。一緒に上り詰めたい。
「・・・っ・・あ」
ゼルの声が微妙に表情を変えた。わずかに艶めいた響きが混じる。
熱い襞がざわりと俺自身を刺激した。
「・・・くっ・・」
俺の喉からも思わず吐息が漏れる。
「・・あっ・・ああっんっ」
腰の動きにあわせてゼルの薄い唇から喘ぎ声があがる。血管が沸騰しそうな淫らな声だ。
眼の眩むような快感。
何も考えられない。
熱い汗が粘膜のように体を包む。打ち付ける腰から濡れた音が漏れる。
互いの激しい呼吸しか耳に入らない。その呼吸がどんどん速くなっていく。
「あ・・・・んっ」
ゼルが細い声を上げて白い汁を吹き上げた。
瞬間、頭の芯が真っ白になった。
その後、しどけなく横たわるゼルに我慢できずもう一回してしまった。
ガーデン随一の反射神経の持ち主はこんな所でも優秀さを発揮して、無意識のうちに快感を
追うコツを得たらしく、腰が蕩けてしまいそうなほど甘い声を上げて俺を溺れさせた。。
激しいセックスの後、気絶するように(もしかしたら本当に気絶したのかもしれない)寝入って
しまったゼルをしっかりと腕に抱いて、俺は幸福な眠りについた。
何かが動く気配に眼が覚めた。
ゼルがベットの上で半身を起こして呆然と回りを見渡している。
時計を見るとまだAM5:00だった。登りかけの太陽が薄青く部屋中を照らす。
「・・・どうした・・?」
けだるく問い掛けると、魂が抜けたように体がベトベトだ、とか何とか呟いた。
「一緒にシャワーを浴びるか?」
ゼルはふるふると首を振った。
「・・・いい。一人で浴びる。」
ふらつきながら立ち上がるゼルを支えようと手を伸ばしたが、ゼルはその手を拒否して、のろ
のろとシャワールームに消えていった。
静かな夜明けの部屋にシャワーの音が響く。
何だか喉が渇いたのでミネラルウォーターを飲みながらゼルの出てくるのを待った。
だが、いつまでも出てこない。
水の音も止まる気配が無い。
急に不安になった。まさか中で倒れてるんじゃないだろうな。
俺は脱兎の勢いでシャワールームに飛び込んでいった。
「何をしてるんだ!!」
思わず声が大きくなる。激しく落ちる水の中でゼルが座り込んでいた。
頬にべったりと張り付く金髪を伝って水が流れ落ちる。
「ゼル!?立てないのか?」
力なく座り込むゼルを無理矢理引き釣り上げ、バスタオルに包んでベットまで連れて行った。
「一体、どうしたんだ。・・・体が言う事を聞かないのか?」
髪の毛を拭きながら心配そうに尋ねると、ゼルの体がビクリと動いた。
「・・・そうか。早く言ってくれれば俺が洗ってやったのに・・」
ゼルが勢い良く首を振った。
「ゼル・・・・?」
ポタリと青い瞳から大粒の滴が落ちた。
俺の動きが止まる。
ゼルが声を上げて激しく泣き出した。
「・・っく・・ひっく・・くっ」
手の平で何度もゴシゴシと眼をこすっているが、涙は一向止まらない。
細い肩の震えも激しくなるばかりだ。
どうして良いか分からない。
ゼルは怒ると思っていた。何てことをしてくれたんだと、頬を染めて俺を責めると思っていた。
どうやってその怒りを静めようかと考えていた。
こんな悲しげに泣かれるなんて、思いもしてなかった。
心臓が切り裂かれるように痛い。
俺が、こんなに泣かせてしまった。
「ゼル・・・」
おずおずと声を掛けると、ゼルが泣きながら少し顔を上げた。
「・・・・か?」
「え?」
「俺っ・・・変態・・・なのかっ?」
「は?」
「おっ、男に、尻に入れられてっ・・あ、あんなによがって・・・俺、変態だったのかっ・・?」
思いがけない返答に俺は一瞬言葉が出なかった。
つまり、快感に酔った自分が恥ずかしいのか?
何て。
頬に堪え切れない微笑が浮かぶ。
何て、俺の恋人は純情なんだろう。
愛しい、可愛い、俺のゼル。もうお前に首ったけだ。
「何だ、そんな事気にしてたのか。気にするな。お前は変態なんかじゃない。」
俺はゼルの肩を掴んで顔を近づけた。
「俺が上手いんだ。」
ゼルが大きく瞳を開いた。長い睫がパチパチと上下する。
「・・っお前は・・・ひっく・・よくまあ・・そんな事真顔で・・・。」
ゼルが心底呆れたと言うようにがっくりと肩を落とした。
「真面目に話してる俺が・・ひっく・・馬鹿に思えるぜ・・・。」
お前にもかなり素質があるが、と言う言葉を飲み込んで俺は淡々と返事した。
「でも、事実だ。」
あーそうかよ、と投げやりにゼルが言ってベットにバッタリと伏せた。
涙は止まったが、まだ時折苦しそうに息を詰める。眉は辛そうに顰められたままだ。
笑って欲しい。俺が泣かせてしまったこの愛しい恋人を、笑わせてやりたい。
急に心に浮かんだ思いに、我ながら驚いた。
俺が、誰かを笑わせたいなんて。
俺は変わっていく。
ゼルに変わって欲しいと思っていた。俺を受け入れるようになって欲しいと思っていた。
でも、この恋は俺をも変えていく。二人共、変わっていくんだ。
「ゼル・・・実はもう一つ原因がある。」
俺はわざと難しい顔をして顎に手をやった。
ゼルが不安気に体を起こした。
「俺も体験したのは始めてなんだが・・・。」
青い瞳が心配そうに固唾を飲んで俺を見つめている。生真面目で純粋な、愛すべき恋人。
俺はゼルの手を取った。
「愛の奇跡が起きたんだ。」
(END)
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