受難の予感 |
「カドワキ先生っ!この怪我、早く治してくれよ!お願いだ!!」 カドワキ先生が太い指で俺の額をトンと突付いた。 「何言ってるんだい。治療はもう終わってるよ。後はあんたが大人しく養生して回復するのを待 つしか無いよ。」 「それじゃ遅いんだってば!今!今すぐ治してくんねーと!」 「だから待つしか無いって言ってるだろう。何でそんなに急ぐんだい。」 うっと言葉に詰まった。何でって、それは・・。 背後でシュッとドアが開く音がした。 「ゼル。先生を困らせるな。」 凛とした低い声が上から降って来る。くそう、入って来たな。 スコールの長い指が、獲物を捕らえた猛禽の様にがっちりと左肩を掴む。 「・・・安心しろ。俺がずっと面倒を見てやるから。」 それが嫌なんだっ!俺は心の中で絶叫した。 俺は今、右腕を怪我してる。 常軌を逸したスコールファンに切り掛られたせいだ。しかもかなり深い傷を負った。 それを知ったスコールの奴は、俺の身の回りの一切の世話をする、と勝手に固く決意しちまった。 大迷惑だ。 口にするのも恥かしいが、俺はスコールと体の関係がある。去年の今頃「お前は将来スコールと セックスする仲になる」なんて言われたら、俺は大爆笑しただろう。 しかし現実はもっと大爆笑だ。このガーデンのカリスマと俺はやりまくってる。 誓って言うが俺が誘ったわけじゃねえ。こいつが俺に怒涛の如く迫ってきて無理矢理コトに及び やがり、挙句に勝手に「恋人」呼ばわりしてるんだ。なのに、誰も分かってくれない。 分かってくれないどこじゃない。俺は「スコール様を堕落させた最低男」扱いだ。ガーデンの半 数を占めるスコールファンから蛇蠍の如く嫌われている。いや、憎まれている。 最低男はこいつの方だ。この禁欲的な整った顔に皆騙されてるんだ。 その証拠に、こいつがこの間風呂で俺にしたことと言ったら・・・。俺はぶんぶんと頭を振った。 怪我を負った日、俺はこいつに脅迫されて(あれは絶対脅迫だ)風呂を手伝ってもらった。 最初、頭を洗ってくれてる時は奴も大人しかった。 だが、体に手が伸びてから、急に動きが妖しくなりだした。 やたらとゆっくり体を撫ぜまわす。乳首に濡れた柔らかいスポンジが何度も軽く触れる。 背中がぞくりとした。唇をぎゅっと噛んで下向くと、ふいに胸の突起が生温いものに包まれた。 「・・・・ぁっ」 つい漏れた声にスコールが乳首を口に含みながら上目使いで視線を上げる。湯気に濡れた、陶磁 器みたいに滑らかな頬を緩ませてニヤリと笑う。 思わず息を呑んだ。明るい電球に、スコールの表情がはっきりと照らされている。 頬に張り付く黒髪。濡れ濡れと光る薄い唇。その唇から覗く赤い舌。 普段の固く張り詰めた容貌からは想像も出来ない妖艶さだ。 頭の芯がぐらりと揺れた。スコールの手がもう一方の乳首をゆっくりと摘む。 止めろ、と言ってスコールの頭を掴もうとした瞬間、右腕にちぎれるような激痛が走った。 「・・・痛っ!」 膝がガクリと落ちそうになる。スコールの腕が俺の腰を素早く支えた。 「馬鹿。腕を動かすな。」 慰めるようなキスが唇を優しく塞ぐ。いったん離れ、またすぐキスが始まる。今度は深く舌が入 って来た。息が詰まりそうな濃厚なキスに、頭がくらくらと酔い始めた。 駄目だ。俺は腹にぐっと力を入れた。こんな卑怯な仕掛けに乗ってたまるか。 「止めろ。そーゆー事するんなら出て行けよ。」 「嫌だ。」 あっさり言うと俺をぐるりと反転させ、後ろから抱きこむような姿勢をとる。 無傷の左腕ががっちりとタイル張りの壁に押し付けられる。俺は必死に振り向いた。 「な、何すんだよっ!」 「心配するな。ちゃんと洗ってやる。大人しくしてろ。」 ボディソープで濡れた手の平が下半身に伸びてきた。明らかに違う意図をもって俺のものを弄る。 見る見るそれがスコールの手の中で形を変え始めた。 「やっ・・やめろってば・・・!あ・・・っ」 「・・・淫らしい顔だな。そそられる。」 「う、嘘つけっこのエロ男!淫らしくなんかっ・・・」 「充分淫らしい。眼を開けて自分の顔を見たらどうだ。」 からかうような響きに反射的に眼を開いてしまった。 SeeDは肉体のセルフコントロールが欠かせない。シャワールームには必ず等身大の鏡が 設置されている。 そこに映っていたのは俺のプライドを粉々に打ち砕く光景だった。 スコールよりも一回り小さく細い体が長い腕にがっちり固定されている。吸い付かれてる首筋が 細くしなってスコールの逞しく盛り上がった肩に支えられてる。絡みつくスコールの指先で俺の ブツがビクビクと汁をだしてる。体がそれに合わせて細かく震える。 まるで肉食獣に食われようとしている弱い動物みたいだ。 なのに半開きの瞼と唾液に濡れた唇は陶然と快感に酔っている。腰が誘うように揺れてる。 あまりのショックに涙が出てきた。誰だこいつは。 こんなの俺じゃねえ。こんな、肉欲に溺れきった顔した奴。男に嬲られて喜んでる淫乱な男。 違う。俺じゃない。こんな俺、嫌だ。 「嫌だっ・・・こんなの・・・やだっ!」 固く眼をつぶって激しく首をふった。怪我してることも忘れて硝子を殴りつけようとした。 一瞬早くスコールの腕が俺の体を引き寄せた。力強く抱きしめられる。 「大丈夫だ。大丈夫、落ち着け。・・・俺が悪かった。眼を閉じろ。」 閉じた瞼から溢れる涙を柔らかい舌が優しく舐める。 「大丈夫。もう見なくていい。誰も見てない。俺だけだ。俺しか見てない。」 うっとりと酔うような甘い声が囁く。 「誰も見れない。この顔を見るのは俺だけだ。だから、もう泣くな。」 今考えたら、それが嫌なんじゃねえかっ、と突っ込みを入れたくなるような台詞だが、 多分俺はそん時、頭がおかしかったんだ。 力強く響く声に何故だかすごく安心してしまった。しゃくりあげながら肩に顔を埋めた。 途端にスコールの肩にぐっと力が入った。 「ゼル・・・!」 また激しいキスが始まった。萎えかけていた下半身をまた大きな手がまさぐる。 少しずつ俺の体から力が抜けていく。スコールの腕の中で全身が溶けそうになる。 「んっ・・・っ、ふ・・ぁっ」 立ち込める湯気で体が濡れる。濡れた体と体が擦れ合うと、全身が性感帯になったみたいに 脳が甘く痺れた。 もう一度体を反転させられた。今度はそっと、静かに。俺を嫌がるのを恐れてるみたいに。 固く張り詰めたスコールのブツが俺の下半身に当たる。長い指が滑らかに俺の中に入る。 さっきのショックで眼が開けられない。首を捻って振り返ると、なだめるようなキスをされた。 「・・・んっ・・・・」 探る指の数が増えていく。熱い襞が指を導いていく。俺を狂わせる場所へと。 「ゼル、何をして欲しい・・?」 スコールが背後から囁いた。立っているのも難しいほど感じてるのに、追い討ちをかけるような 妖艶な響きに背中が総毛だった。 「な、何をって・・・・ああっ・・・んっ」 ボディソープがいつも以上に滑らかに俺の中をぐちゃぐちゃに解していく。竿が痛いほど反り返 ってるのが分かる。 何って、イカせて欲しいに決まってるじゃねえか。この状態見て分かんねー訳ないだろうが。 なのに指は内部で淫靡に蠢くだけで、待ち望んでる竿には触れようとしない。 「・・・スコールっ・・・やめ・・・っ・・あっ」 勝手に肢が開いてくる。我ながらたまらなく恥かしい。あの痴態が脳裏から離れない。 スコールの手を抜こうと左手を伸ばすと、優しく、だがしっかりと手首を抑えられた。 ふいに利き腕が動かない事を思い出した。こうして左手を掴まれたら、もう何も抵抗出来ない。 いや、出来ないのは抵抗だけじゃない。 はっと気付いた。自分で自分を解放することも出来ない。 「どうして欲しい・・・?」 スコールがもう一度聞いて来る。畜生。分かって聞いてるな、この野郎。 空いた手が乳首をヌルリと撫ぜた。俺は喉をヒッと鳴らして仰け反った。 「ゼル・・・」 悪魔みたいな誘い声がする。理性の糸がぷっつりと切れた。 「俺の・・触って・・」 「誰の手で・・・?」 そこまで言わすか、この悪魔。悔しくて涙が出そうになった。だが、目の前の快感はもはや苦痛 に近い。 「・・・お、お前の手でっ・・・」 「こっちはどうする?」 指がぐっと一点をえぐる。全身がビクリと跳ね上がる。 「・・ち、調子に乗りやがって・・!」 「お前の口から聞きたいんだ。俺にどうして欲しい・・・・」 蠢く指に憤慨が掻き消されていく。限界まで膨れた欲望が唇を勝手に抉じ開ける。 「・・・っお前の・・入れてくれ・・・っ」 スコールが甘い、満足そうな大きな吐息をついたのが聞こえた。 その後の事はもう思い出したくもない。 あんな醜態を晒すのは二度とご免だ。俺はぐっと握りこぶしを作った。 「一人で大丈夫だっ!」 「何を言うんだ。俺のせいで怪我したのに。俺が面倒を見るのは当然だ。」 澄んだ蒼い瞳が自信に満ちて俺の眼を覗き込む。 「えらいよ、スコール。ゼル、これで安心だろ。ゆっくり気長に治しな。」 何も知らないカドワキ先生が笑顔で俺の肩を叩く。 俺は言葉も無くがっくりと肩を落とした。どうして皆分かってくれないんだ。 スコールが俺を引きずるように保健室を出る。外に出ると皆の嫉妬と羨望の視線が一気に 集まる。怪我をした事を妬まれるなんて、理不尽過ぎる。 長閑に流れ落ちる噴水の音を聞きながら、これから先の日々を思って俺は絶望的な気分になった。 ※ 「天使な男」に続く、な〜んて(笑)。 どうでしょうか松本P様。ホント「やってるだけ」ですみません・・・オドオド。 |
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